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34話  白きリリーと願い事 ②

34話  白きリリーと願い事 ②



キーンコーンカーンコーン


6時間目が終了した証のチャイムの音が鳴ると、拓人は美雪のもとへ向かった。

拓人「美雪!」

美雪「はい......ってご主人様!? そんなに急いでどうしたですか?」

急いできた拓人を見て思わず体をびくっとさせる美雪。

拓人も少し息を荒々しく吐いている。

拓人「いや、実はな、今日用事があるんだ」

美雪「用事、ですか?」

拓人の言ったことを復唱する美雪。

拓人「ああ、だから今日は家まで一緒に帰れそうにないんだ」

美雪「な!......本当ですか?」

少し疑惑の念を抱きながらそう呟く美雪に、拓人は頭を縦に1回振った。

美雪「......最近やっぱりご主人様は冷たいと思います......」

拗ねた子供の様に俯いて頬を膨らませる美雪に、拓人は「ふぅ」っと一息吐いた。

拓人「今日帰ったら、ちゃんと相手するから」

美雪「本当ですか?! だったら今日は一緒に帰れないの我慢します!」

拓人の言葉を聞いてすぐさま表情を明るく変えると、嬉しそうに体をくねくねさせた。

拓人「ということで、俺はそろそろ行くから桜にも言っておいてくれ」

美雪「了解です、ご主人様!」

笑顔で見送る美雪を後に、拓人は教室を出てそのまま下駄箱へと向かっていった。



拓人「悪い、待たした?」

ベル「いえいえ、思ったより早く来たぐらいですわ」

拓人「そっか......じゃあ行くか」

拓人の言葉にベルも笑顔で頷くと、二人は革靴に着替えてそのまま学校を後にした。

拓人「そう言えば、ベルの家って学校から遠いのか?」

学校の校門を抜けてからそう間もないうちに、拓人がそう質問した。

ベル「大体10分弱ってところですわね......」

拓人「へ~案外近いんだな」

ベルの答えを聞いてこくこくと頷く拓人にベルは悪戯っぽくこう言った。

ベル「なので、もう少しで父様とお話することになりますよ?」

拓人「そうだな......色々と話したいこともあるし......」

ベル「ん......?」

少し神妙な面持ちになってそう言った拓人を、ベルは少し疑問に思うのだった。

そして、色々と話しながら10分位歩いていくと、拓人たちはある家の前で立ち止まった。


拓人「......って、ベル、どうして止まってるんだ?」

首を傾げてそう言う拓人にベルは不思議そうにこう答えた。

ベル「いえ......ここがわたくしの家ですわよ?」

拓人「え......えー?!」

拓人は思わず大きな声で目を丸くしながらそう叫んだ。

拓人「家って......これ豪邸だぞ!?」

ベル「それを言うなら拓人さんのお家も豪邸だと思いますわよ?」

拓人「あ、あぁ......確かに」

ベルにそう言われて落ち着きを取り戻した拓人であったが、驚くのも無理はない。

今拓人の前にある家......それは漫画で出てくるような大豪邸だったのだ。

おそらく、拓人の家の敷地の2倍はあるであろう。

ベル「変な拓人さんですわ、それでは家に入りますわよ?」

口を開けながら家をじっと眺めていた拓人にベルはそう声をかけてそそくさと前に行ってしまった。

今拓人がいるのはゲートの前で、そのゲートを超えるとさらにまた長い道が設けられていて、

その周りには緑が生い茂った庭が広がっている。

拓人「オーランド財閥恐るべし......」

体を震わせながらそう呟くと、拓人は先に行くベルに追いつくように走り出した。



ガチャ......


拓人とベルがお互いに家のドアまでやってくると、ベルはガチャっとドアを開けた。

意外とセキュリティが甘いんだなっと思った拓人であったが、

玄関の上や、あるとあらゆるところに監視カメラがあることに気づくと、

拓人は姿勢をピンと治してそれなりの御曹司っぽい風にした。

??「おやおや......これはお嬢様......それに、お客様もいらっしゃるのですね?」

拓人「!?」

ドアの奥の方から聞こえた声に体を向けると、そこには黒いタキシードを身にまとった

やや年配のおじいさんがいた。

ベル「ステファン、こちらは朝峰財閥の朝峰拓人さんでしてよ?」

ステファン「おやおや、そうでしたか。これは失礼いたしました」

ステファンと呼ばれたおじいさんはそう言うと、拓人に深々と頭を下げた。

拓人「い、いえ全然大丈夫ですよ、だから頭を上げてください」

拓人は慌ててそう言うと、おじいさんに頭を上げるように催促した。


ステファン「大変申し訳ありませんでした」

拓人「いいんですよ......それでベル、この方は?」

再び頭を下げそうだったおじいさんをなだめて、拓人はベルにそう質問した。

ベル「ああ......こっちはわたくしの執事であるステファン・クロスですわ」

ステファン「申し遅れました、ベル様の執事をしております、ステファン・クロスです」

執事と名乗ったそのおじいさんは拓人の前で一礼した。

とても優しそうな顔で、物腰が柔らかそうなその執事に、拓人も思わず納得した。

ベル「それで、こちらが朝峰財閥の御曹司、朝峰拓人さんですわ」

拓人「朝峰拓人です、はじめまして」

拓人も執事と同じように一礼をすると、ステファンはやや感慨深そうに拓人を見つめた。

拓人「あの......なんか俺の顔についてますか?」

ステファン「いえ......貴方が朝峰拓人様でしたか......」

拓人「は、はぁ......」

ステファン「いや、貴方と死ぬまでに一度会えて、このステファン、大変嬉しいですぞ!」

そう言うと、ステファンはハンカチを持ち出して唐突に泣き始めた。

ベル「ス、ステファン!? どうしたというのですの?!」

突然泣き始めたステファンに、ベルも慌ててその理由を問う。

ステファン「いや......ベル様の花婿が見られて、私は大感激ですぞ」

拓人&ベル「は、花婿!?////」

ステファンが告げたその言葉に、拓人とベルは顔を赤くして思わず聞き直した。


ベル「な、なななな何を言ってるのステファン!////」

ステファン「何って、ベル様はいつも仰っているではありませんか」

ベル「な、なにをですの?」

ステファン「”今日拓人さんと一緒にお弁当を食べましたの!”とか、

”拓人さんが数学を教えてくれましたの!”とかですよ」

ベル「ス、ステファン!//////」

まさかのステファンの爆弾発言に、ベルは顔を真っ赤にしてステファンを静止させる。

そしてそれを聞いていた拓人も耳を少し赤くしながらも平静を装っていた。



ベル「と、ということで! 拓人さん、遅くなりましたわ」

拓人「い、いいよ全然......」

あの後ベルがステファンをどう黙らしたかはさておき、ベルは拓人を家に迎えた。

玄関でのやり取りだったので、拓人は家には入れていなかったのだ。

拓人「お、おじゃましまーす......」

ベル「いらっしゃいませですわ!」

恐る恐るドアの奥の方へ足を運んだ拓人は、視界に広がる景色に腰を抜かした。

拓人「デ、デカすぎる......!」

ベル「そうですか? 拓人さんと同じだと思うのですけれど......」

拓人「それは断じてない、ベルの方が圧倒的にデカい!」

これが男同士の会話だったらやや卑猥な会話になるのだが......いや、なんでもない。

それで拓人が力説するのも納得で、ベルの家は絵に描いたような豪邸だった。

ベル「さぁ、お上がりしてくださいな?」

拓人「あ、あぁ......失礼します......」

緊張した面持ちで靴を脱ぎ、綺麗に整えてから玄関からリビングへ行くと、

そこには広々と置かれてあるソファ、ダイニングテーブル、超大型テレビなど、

庶民の家からしたらかけ離れすぎていると言っていいほどの間取りだった。



ベル「それでは、わたくしは着替えていますので、拓人さんはソファにおかけになってください」

拓人「わかった」

ベルは紅茶を注いだコップを二つダイニングテーブルに置くと、自分の部屋へ向かった。

拓人は自分の部屋へと向かったベルを見送るとコップを手に取って喉を潤した。

拓人「うん......おいしいな......」


紅茶を堪能した後、拓人はベルが帰ってくるまでの間、

リビングにあるものを見物していた。

拓人「大きすぎるんだよな、このテレビ......」

拓人「こ、これ......印刷機だったのか......!」

拓人「エアコンが6台もあるだと......」

様々なものを見るたびに独り言を呟いていく拓人。

余程ベルの家が気に入ったのか、拓人は段々見物してくるのが楽しくなっていた。

しかし、その浮ついた気分も束の間、拓人はテレビの横にある写真を見つけた。

拓人「......これ」

拓人が手に取った写真。

そこには、まぶしい笑顔で笑っている幼いベルとそのお父さんと思わしき男性が

仲睦ましげに撮られた写真であった。

拓人「............」

やっぱりか......

これが拓人が胸の中で呟かれた言葉だった。



ベル「拓人さん?」

拓人「!?」

突然の呼びかけに、体が反射的にビクっとなる拓人。

ベル「何をしてたのですか?」

拓人「あ、ああ......ちょっと部屋の見物を......」

ベル「そうですの......あ、それより拓人さん?」

拓人「な、なんだ?」

ベル「そろそろですわ」

ベルはそう言うと、手をぱんぱんと二回叩いた。

すると、すぐさまステファンが物凄い勢いで駆け寄ってきた。

拓人「アンタは犬か」

ステファン「滅相でもありません、私が犬であればそれはもうどんだけ幸せなことか」

拓人「はぁ~......」

どこか真の性癖と通じるものがあるのではと思った拓人であったが、

ベルが何やらステファンに耳打ちすると、彼は急いで”あるバック”を持ってきた。

拓人「なんだそれ?」

ベル「これはリモコンですわ」

そう言うと、ベルはバックの中身を取り出した。

そこにはボタンが三種類ぐらいしかない簡易的なリモコンがあった。

ベル「これから、このリモコンのボタンを押して、父様と通信を始めますわ」

その言葉に拓人はそういうことかと唾をのんだ。

ベル「ステファン、準備を!」

ステファン「ただいま!」

ベルがそう言うと、ステファンは慣れた手つきでテレビとプロジェクターを設置し始めた。

そして拓人は、ベルに促されてソファへと腰かけた。


ステファン「用意ができました、ベル様」

ベル「ご苦労でしたわ、ステファン。

......それで、心の準備はできておりますか、拓人さん?」

拓人の横顔をじっと見ながらそう尋ねるベル。

そのベルに、拓人は覚悟を決めた顔でこう告げた。

拓人「......あぁ、始めてくれ」


その言葉を聞き、ベルは「いきますわよ」と呟き、リモコンのボタンを押した。

............

流れる少しの間の沈黙。

相手の方との通信をやっているのだろうか。

その沈黙で緊張が増す拓人であったが、次の瞬間。

ビビビッっとテレビに大きな顔が映りだされた。


??「遅くなった......っと、どうやらお客さんがいるようだな......」


テレビに映りだされたその顔は、

今さっき拓人が手に取った写真の男性と完全に一致した。


拓人「............」


そして再び、広いリビングに沈黙が流れるのであった。


















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