31話 支離滅裂の人生(デス)ゲーム
31話 支離滅裂の人生ゲーム
拓人「翌日に俺とイチャチャをする権!?」
真が高らかに宣言したその言葉を、思わず聞き返した拓人。
真「ああ、お前の”女子嫌い”を治すにはちょうどいいじゃないか」
拓人「で、でも......」
歯切れ悪くボソッと呟いた拓人は、恐る恐る夏美たちの方へ顔を向けた。
全員「............///」
夏美たちは一言も発さず、頬に赤みを少しだけ残したまま俯いていた。
拓人「............」
その様子を見た拓人は、「やっぱりそんなことしたくないよな......」と、
夏美たちを察するような眼差しを送った。
静まり返る部室の中、音葉は不思議そうな顔を浮かべて拓人に質問した。
音葉「拓人君って”女子嫌い”だったの?」
拓人「あ、ああ......先輩には言ってませんでしたね、
別に”嫌い”ってわけじゃないんですけど、ちょっと苦手意識があって......」
ここで初めて拓人が”女子嫌い”ということを知らされた音葉は、何か思いついたように
ぱぁっと顔を晴れさせて、みんなに聞こえるような声でこう言った。
音葉「やりましょう! あなたが作った人生ゲーム、やりましょう!」
真のことを指さしながらそう提案した音葉に、拓人は思わず仰天した。
拓人「せ、先輩!? 本当にこのゲームやるんですか?」
音葉「当たり前でしょ? 拓人君の女子嫌いを克服するためならやった方がいいわ」
拓人「で、でも......」
その後の言葉を濁した拓人は、再度夏美たちの方に目を向けた。
音葉「あなたたちもやるわよね? 拓人君が女子への苦手意識をなくすチャンスでもあるのよ?」
茜「うぅ......しょ、しょうがないわね......そう言うことならやっても......いいわ」
拓人「茜!?」
茜「か、勘違いしないでよね!///これは部活動の一環だから仕方なくやるの!」
顔を赤くしてそう言い放った茜は、ぷいっと拓人から顔を逸らした。
ベル「確かにこれは部活の一環でもありますわ、私も参加します」
夏美「そうね......私も参加するわ」
茜に続いてベルと夏美もそう言うと、残りの初音と美雪も「うん」と頷いて見せた。
真「よーっし! そうじゃなくちゃな!」
夏美たちが参加する素振りを見せると、真は嬉しそうにそう言った。
音葉「うん、じゃあ全員参加ね!」
音葉が面白そうに言うのを横目に、拓人は冷静にちょっと待ったをかけた。
真「どうしたんだ、拓人?」
拓人「これって俺は参加しないでいいんだよな?」
その発言を聞くや否や、夏美たちはすごい勢いで拓人に言い寄った。
夏美「何を言ってるの! 拓人も参加して!」
拓人「なんで俺も参加しないといけないんだ!?」
初音「ボクたちも参加するんだから、拓人も参加してくれないと不公平だよ」
拓人「そ、そういってもなぁ......」
美雪「ご主人様、ご主人様のサポートはしっかりと努めます」
拓人「......わかったよ、やるよ」
真「よし! これで全員揃ったな! じゃあ始めるぞ!」
夏美たちに言い負け、渋々ゲームに参加することになった拓人はぐったりと肩を落とした。
しかし、真の開幕宣言を聞いた夏美たちは、ひっそりと拳を握りしめて、
いざ来る戦いへの心の準備を着々と済ましていくのであった。
真「では、このゲームの説明をしていこう」
ゲームマスターこと真はそう言うと、ゆっくりと丁寧に自分が作ったゲームの説明をし始めた。
真「このゲームは普通の人生ゲームとあまり変わらず、サイコロを振ってその出たマスだけ
進むゲームで、そこで着いたマス目に書かれている様々なイベントをこなしていくゲームだ。
原則としてそのイベントはこなしていって、断れば代わりに5回休みとなる。
そして、最初にクリアにたどり着いた者が、見事優勝者ということだ」
夏美「そこで今さっき言った賞品をもらえるの?」
真「そうだ、じゃあ順番は拓人から始めて今座っている場所で時計回りでいいかな?」
真の問いかけに、皆反対の声や手は挙げられなかった。
真「それでは、至高の人生ゲームの開幕だ~~!」
ゴクリ......
ゲームマスターを除く参加者7名は、そっと唾を呑みこんだ。
拓人「それじゃあ、まずは俺からだな」
そう呟くと、拓人は席を立ちあがり、ゲームマスターからサイコロを受け取った。
美雪「ご主人様~~! 頑張ってください!」
拓人「おう!」
美雪の声援を聞き、元気よくそう言うと拓人はサイコロを転がした。
拓人「”4”か......」
出た目は4、拓人は自分の駒を4マス進めてそこに駒を置いた。
拓人「え~っと、”自分の性癖を一つ暴露”......ってなんじゃこりゃ!///」
真「お~そこのマス目は拓人ように用意したんだが......期待通り止まってくれたな」
真はそう言うと、口角をくぅっと上げて、あらんことを考えているような顔つきになった。
真「さ~拓人、どうする? 女子の面々で自分の性癖を暴露するか、
それともそのままパスして5回休むか......さ~どうする?」
拓人「くぅ~~~~~! やむを得ん、パスだ!」
真「ふ~ん、じゃあ拓人はパスの権利を1回使ったので、もうパスはできませーん」
拓人「なんだよそれ! ルール説明の時にそんなルールなかったじゃねーか!」
真「今考えたんだ、その方がスリルあって面白いだろ?」
拓人「そんなのありか?」
真「ゲームマスターは絶対だ」
拓人「......ああ分かったよ! もうパスはできなくていいよ!」
半ばやけになりながらそう言った拓人はなけなしのパス権を行使した。
夏美「それじゃあ次は私ね」
拓人の隣に座っていた夏美は、拓人からサイコロをもらってから転がした。
夏美「うーんと、”6”ね......」
夏美は拓人同様、自分の駒を出た目の数だけ進ませた。
夏美「ここは......”拓人と10秒間見つめあう”!?////」
拓人「なんだよそれ!////」
真「そのマス目に書いてある通りだ、さあ、どうする夏美?」
夏美「パス......したかったけど、ここでパス権を使うのはもったいない気がする......」
真「ほう......では、このイベントをやるということでいいかな?」
夏美「い、いいわ、見つめあうぐらい、大したことじゃ......ないし///」
拓人「マジでやるのか......というか俺の拒否権は当然......」
真&夏美「ない!」
拓人「ですよね~......」
真「それじゃあ、10秒間見つめあって......用意スタート!」
拓人「............///」
夏美「............///」
10秒というとても短い時間を、拓人と夏美は必死に駆けていく。
真「4......3......2......1......はい、終了!」
拓人「お、終わった......////」
夏美「案外......緊張するわね......////」
二人はすぐさま視線を逸らすと、顔に熱気が帯びているのが感じられた。
そんな二人を置き、真は場を取り仕切って大きな声で言った。
真「それじゃあ、次行ってみよう!」
初音「次はボクだね......どうか”6”が出ますように......」
消え入りそうな声でそう呟くと、初音はサイコロを転がした。
初音「”3”か......まあ仕方ないか......」
そう言い、初音は自分の駒を3つ進ませた。
初音「うーんと......”拓人に頭なでなでをしてもらう”......!」
初音は自分の口で言ったことをようやく理解すると、自然と顔から笑みがこぼれた。
拓人「また俺かよ!///どうなってるんだこのゲームは!」
真「まーそう文句を言わない......それで、初音さん、如何しますか?」
初音「やります!」
即答だった。
真「では、拓人、初音の頭に手を置いて......用意スタート!」
拓人「ん......////」
初音「はぅ......////」
真「......はい、終了!」
拓人「ごめんな、髪くしゃくしゃしちゃって......」
初音「う、うううん! ぜ、全然大丈夫だよ!」
拓人「そうか、ならよかった」
初音「............」
初音「(拓人に頭なでなでしてもらうの......好きかも......)」
初音は、初音の中で、どこか癖になってしまいそうな感覚が襲われているのに気づき始めた。
ベル「それでは次はわたくしですわ!」
元気な声でそう言うと、ベルは勢いよくサイコロを転がした。
ベル「えっと......”1”ですわね......」
ベルは自分の駒を一つ先のマスに置くと、そこに書かれていたイベントを夏美たち同様に読み上げた。
ベル「”次の番まで拓人さんの膝の上に座る”!?//////」
拓人「ま、また変なもの書きやがったな!///」
ベルと拓人は顔を真っ赤にしながら真の方に顔を向けた。
真「俺は拓人のためを思ってこのゲームを作ったんだぞ? それよりベルさん、どうしますか?」
ベル「......や、やりますわ////」
真「よし! それじゃあ拓人の膝に座って......」
ベル「し、失礼しますわ......///」
拓人「あ、ああ......////」
そう言い終えると、ベルは拓人の膝の上にゆっくりと座った。
ベル「お、重くないですか?////」
拓人「だ、大丈夫だ、全然軽い......」
拓人「(ヤバい、ベルの髪の匂いが俺の鼻のすぐそばで......落ち着くんだ俺!)」
明らかに動揺している拓人と、そのうえでトマトのように赤くなっているベルが
お互いの体を触れ合いさせながら座っていた。
美雪「次は私ですか......えい!」
拓人とベルのことをしっかりと監視しながら、美雪はサイコロを転がした。
美雪「”5”ですか、まあこれもこれでいいでしょう」
そう言う美雪は、自分の駒を5マス先のところに置いてイベントを読み上げた。
美雪「”ご主人様の好きなところを3つ挙げる”......?」
真「おう~さあどうする美雪さん?」
美雪「やるに決まってます!」
拓人「なんか照れるな......///」
真「オーケー! それじゃあ用意スタート!」
美雪「まずご主人様はとてもお優しいです。いつもメイドである私のことを気にかけてくれて、
困っている人にはいつも手を差し伸べるような方です!
次にご主人様は笑顔で素敵で、それでもってとても心がおキレイなのです!
ご主人様のその笑顔でどれほど私の心を高鳴らせたか、それにそれに......」
真「あの~......もう3つ挙げましたが......」
真は美雪に聞こえるようにそう呟いたが、あいにく美雪は何かのスイッチが入ったのか
拓人の好きなところを言う口を止めなかった。
拓人「ま、まあ......ありがとな、美雪」
苦笑しながらも、拓人は美雪に向けてそう呟いた。
茜「じゃあ私ね......はっ!」
サイコロが茜の手に渡り、茜はサイコロをスピンさせながら転がせた。
茜「”2”ね......まあ誰も行ってないからいいか......」
茜はそう呟くと、自分の駒を動かした。
茜「え~っと......”好きな人の名前を大暴露”!?////」
真「お~~~良いマス目に着いたね~」
拓人「これは?」
真「もちろん、好きな人の名前を暴露してもらうのさ!」
茜「なっ!//////」
拓人「これは相当きついな......」
真「さ~どうする? ここで言っちゃう?」
ニヤニヤしながらそう聞く真に茜は顔を赤くしながら大きな声でこう言い放った。
茜「す、好きな奴なんていないわ!///」
拓人「う~~ん、これは仕方ないんじゃないか、真?」
真「......まあ、そう言うことにしておくか!」
茜「よ、よかった~......」
そう安堵の息を漏らしていたのも束の間、茜は夏美たちの視線に気づいた。
茜「ほ、ホントよ!」
夏美たちにそう宣言すると、頬を膨らませながら顔をぷいっと横に振った。
音葉「ようやくだわ~楽しみ~!」
今までのゲームの行程を見て、音葉はすっかりノリノリになっていた。
音葉「えい!」
茜から受け取ったサイコロを転がすと、その出た目は”3”だった。
音葉「わ~い! 拓人君に頭なでなでだ~!」
拓人「なっ!?////」
嬉しそうにそう言う音葉に、拓人は思わず顔を赤らめた。
真「初音と同じマス目ですか......それで、やりますか、先輩?」
音葉「ええ、もちろん! 頭なでなで~」
可愛らしくそう言う音葉に、拓人は一度深い深呼吸をして音葉の頭に手をぽんと置いた。
真「よし......それじゃあスタート!」
音葉「............」
拓人「ん......////」
真「......はい、終了!」
拓人「すみませんでした先輩......!?」
拓人はそう言いかけると、音葉の顔を見て思わず言葉が切れた。
そこには、普段冷静な顔が、真っ赤に染まった音葉の顔があった。
拓人「せ、先輩?」
音葉「あ、あははは......意外と照れるわね、こういうのも」
音葉は笑うことしかできず、自分の顔を両手で覆いかぶせた。
真「それじゃあ次、いってみよう!」
ゲームが始まってからもうそろそろ1時間が経とうとしている。
後半でも拓人と~~~~とか、拓人の~~~とか、拓人が主にイベントの内容をこなしていき、
少女たちはその都度顔を赤らめていった。
拓人はというと、後半は疲れ切っていて今はイスにへたりこんでいる。
そして、とうとうこの人生ゲームにも終焉を迎えるときがやってきた。
夏美「(あと”6”を出せば私の勝ち、もし出なかったら、おそらく私の負け......)」
頭の中でそう呟くと、夏美はサイコロをじっと見つめた。
夏美「(もし勝てば......拓人と文句を言われずイチャイチャできる......
じゃなくて! 拓人の女子嫌い克服に少しでも貢献できる。
勝ちたい......いや、絶対勝つ!)」
心の中でそう決心した夏美は、サイコロをじっと見つめて、
ぐっと目を閉じてサイコロを転がした。
コロコロコロ......
夏美はそっと目を開ける。
夏美「......や、やった!」
サイコロの目は、見事に6の面を向いていた。
真「おお~~! ということは、夏美が一番乗りだ!
というわけで、第一回人生ゲーム優勝者は、上原夏美だ~~!」
まるで実況者のようにそう叫ぶ真。
そして、それを聞いて喜びを隠しきれていない夏美が拓人の視界に入った。
他の参加者からは労いの声や祝福の声が聞こえた。
これでこのゲームも終わった、そう感じた拓人も肩を落とすと安堵の息を吐いた。
真「ということで、明日の拓人とイチャチャ権は、夏美のものだ!」
全員「......あ」
真が放ったその一言に、夏美を除く参加者は「あ~~!」 と思い出した。
拓人「忘れてた......」
拓人がその一言を呟いた時には、
もう夏美を囲んで美少女たちが必死に言い合っている光景が出来上がっていた。
拓人「こりゃまた大変なことになったな......」
そう言う拓人を横目に、夏美はベルたちと必死の言葉の攻防戦を繰り広げていたが、
その顔には満更でもないような晴れ切った笑顔が写りだされていた。
今回は長くなってしまいました。
そして、1万pv突破しました! 皆様ありがとうございます!
これからも応援よろしくお願いします!