24話 俺が学級委員になるわけない
24話 俺が学級委員になるわけない
花山先生「それでは、これから委員決めを始めます!」
花山先生、通称花ちゃん先生が高らかにそう言うと、生徒たちは「お~!」っと、
謎の盛り上がりを見せた。
4時間目のホームルームの時間、次が昼休みでみな持ってきた弁当を待ち遠しくしているのは、
拓人や夏美たちも例外ではない。
拓人「委員決めか~初音は何委員入りたいとかあるのか?」
初音「う~ん、やってもいいかなとは思ってるけど、率先してはやらないかな、拓人は?」
拓人「俺も初音と同じだな、ただ面倒なことは極力避けたいけど」
初音「そうだね」
そう言うと、拓人と初音はお互い笑いあった。
拓人の席は窓側から2番目の席で、その隣に初音がいる。
そして、初音の後ろに夏美がいて、初音のもう隣にはベルが座っている。
美雪はというと、拓人たちから離れた位置で面白くないというような顔で居座っている。
まあ、冬野の”ふ”から始まるので、仕方のないことなのだが......
花山先生「は~い静かに! じゃあ早速委員を決めていきたいと思います!」
少しざわついていた教室が、花山先生の今の一言でそのざわつきも消えた。
花山先生「では、まずは学級委員からね、立候補者はいるかしら?」
「シーーーーーン......」
みんなも拓人や初音と同じことを思っているのか、学級委員に立候補する生徒は現れなかった。
花山先生「立候補者はいないですか~? いなかったらくじか推薦で決めますけど......」
真「あの......はい」
拓人「真!?」
花山先生の呼びかけに手を挙げたのは、予想というかもはや存在を忘れられていた真だった。
ベル「あんな方、確かにいましたわね」
拓人「......真が可哀そうだからそれは本人に言っちゃダメだぞ?」
ベル「はい! 拓人さんの頼みならば喜んでお受けしますわ!」
拓人「あ、ありがとうな.....」
無邪気な顔をするベルに少し躊躇いながらも苦笑いをする拓人。
そんな拓人とベルは置いておいて、花山先生は真に問いただした。
花山先生「山野くんが、学級委員になってくれるんですか?」
真「あ、いえ。俺は推薦で推したいやつがいて......」
拓人「なんだ推薦か、つまらないな~......」
夏美「まあ、いいじゃない。それより真、誰推薦するんだろう?」
夏美のその疑問に答えるかのように、真は少し意味深な笑顔を浮かべてこう告げた。
真「僕は朝峰拓人が適任だと思います、決断力や判断力もいいですし」
そう言い終わった後の真は、拓人の方をニヤニヤしながら見ていた。
拓人「......えっ!? 俺かよ!」
拓人は、自分が推薦されたことに驚きの表情を見せた。
拓人「おい真! なんで俺を推薦したんだよ、他にも適任いっぱいいるだろ!」
真「まぁまぁ、そう文句を言わない......」
拓人「文句も何もないだろうが!」
拓人と真がいつも通りの会話を始めると、男子生徒からある掛け声が拓人の耳に届いた。
男子生徒「「「学級委員は、朝峰拓人ーーーー!」」」
拓人「はっ!? なんだよお前ら!」
男子生徒「「「学級委員は、朝峰拓人ーーーー!」」」
男子生徒一丸となって言われたその掛け声は、教室に渡り響いた。
拓人「......まさか、お前らグルか?!」
真「おぉ~ご名答だね、拓人。さすがは俺の親友だ!」
拓人「......今からでも関係を断ちたい気分だ......!」
真「まぁ~そう言うなって!」
拓人は手をおでこに当てると、「はぁ~」と疲れ切ったようなため息を漏らした。
花山先生「......それで、朝峰くんはそれでいいかな?」
拓人「うっ......」
教室ではすでにもう拓人が「学級委員になれ!」みたいな雰囲気が漂っており、
もちろん拓人もその雰囲気を察している。
もし、拓人が断れば、この場がしらけるのは必須だった。
そんなことを思った拓人は仕方ないと観念したのか、顔を呆れ顔にさせてこう言った。
拓人「学級委員......やります......」
その拓人の言葉を聞いて、男子生徒は「よっしゃー!」とこれまた大きな盛り上がりを見せた。
一方拓人は、肩を落としながらトボトボと教卓へと歩いて行ったのであった。
拓人「......それでは、委員決めの続きを始めます」
学級委員に決まった拓人は、早速委員決めの司会を始めていた。
委員には、学級委員補佐、風紀委員、美化委員、広報委員、図書委員がある。
簡単に説明しておくと、学級委員補佐は学級委員のヘルプや文字通り補佐、
風紀委員は学校の風紀を乱すものをなくす、美化委員は校内の掃除などをし、
広報委員は学校のイベントなどの告知、図書委員は図書室の受付などをするものだ。
拓人「えーと、それでは......先に学級委員補佐役を決めたいと思います。
誰か立候補する人はいますか?」
その拓人の言葉を聞いた直後、「はい!」と、4人の手が即座に挙がった。
その4人はというと、説明するまでもないだろう。
夏美「拓人の補佐役は私がする!」
ベル「いいえ、拓人さんの補佐役にふさわしいのはわたくしですわ!」
美雪「ご主人様の補佐はメイドである私にしか務まりません!」
初音「拓人の補佐役はボクが一生懸命やってみせるよ!」
拓人「できれば”拓人の補佐役”じゃなくて”学級委員の補佐役”って言ってくれ......」
拓人のその要望も空しく無視され、夏美たちの瞳にはメラメラと燃え盛る炎が写っていた。
拓人「......それでは、立候補者が多数なので、じゃんけんで決めてください」
呆れ声で夏美たちにそう伝えると、夏美たちはお互いの顔を見回した。
夏美「絶対に負けない!」
ベル「わたくしも負けませんわ!」
美雪「私が勝ちます!」
初音「ボクが補佐するんだ......!」
4人はお互いに勝利宣言をしてから、ゆっくりとお互いの手を4人の中心に集めた。
夏美たち「「「「最初はグー! じゃんけんぽん!」」」」
結末はあっという間だった。
今拓人の隣で、一緒に進行している者が、じゃんけんに一人勝ちしたからだ。
その強運の持ち主は............
初音「拓人、ボクが拓人のことを補佐するから、安心してね!」
拓人「あ、ああ......よろしく頼むよ、初音」
拓人が言い終えると、初音は嬉しそうに微笑んだ。
拓人「じゃあ初音、早速だが黒板に書いていってくれないか?」
初音「うん、分かった!」
そう言うと、初音は黒板のほうまで行くと、チョークで”学級委員補佐 如月初音”と書いた。
そしてそれを書き終わったのを見た拓人は、再び司会を始めた。
拓人「それじゃあ次に、風紀委員を決めたいと思いますが、誰かいますか?」
夏美「はい、私がやります」
拓人の呼びかけにいち早く反応した夏美は、静かに手を挙げて淡々とそう言った。
拓人「ほ、他に風紀委員になりたいって人はいますか?
............いないようなので、風紀委員には上原夏美さんで決定します」
クラスメイト「パチパチパチパチ」
夏美が風紀委員に決まって、拍手が起こる教室。
しかし、夏美は少しムッとした表情で、ゆっくりと教卓に近づいて行った。
拓人「え? あの、夏美さん? 風紀委員は別に前に出なくてもいいんだけど......」
夏美「......学級委員とその補佐が今さっきから風紀を乱そうとしている雰囲気だったので
風紀委員の私がここで監視しています!」
拓人「なっ!///」
初音「うっ///」
夏美「ほらそこ! 一緒になって赤くなって、風紀を乱さないで!」
拓人「す、すみません!」
初音「ご、ごめんなさい!」
そして今日、風紀委員会に新たなる風を起こしそうな超新星が、風紀委員になったのであった。
拓人「え、えっとそれでは、次は美化委員になりたい人はいますか?」
拓人は、斜め後ろにいる新風紀委員の夏美に睨まれながらも、必死にその視線に堪えていた。
初音も、黙々と黒板に”風紀委員 上原夏美”と黒板に書き記した。
美雪「はい、」
拓人「............えーと、では、他に立候補者がいないということで、
美化委員には冬野美雪さんで決定します」
クラスメイト「パチパチパチパチ」
またもや起こる教室内の拍手の音に、美雪は軽く礼をしてから自分の席に座った。
拓人「(ホッ......美雪もこっちの方に来なくてよかった......
夏美一人だけでもこっちは参ってるっていうのに、てか夏美風紀委員になりきりすぎだろ!)」
拓人は美雪が座ったことで、ひとまず落ち着いてそんなことを考えたのだが、次の瞬間
美雪はそっと自分の席から立ち上がると、ハンカチを手に持って拓人の方に足を運んだ。
美雪「......ご主人様、お口に朝ごはんに跡がついていますよ?」
拓人「えっ? 本当か?」
美雪「はい、では......」
拓人「!?///」
そう言い終えた美雪は、自分の顔を近づけながらハンカチを拓人の唇にそっと触れさせた。
拓人「み、美雪////こういうのは人前では......!」
美雪「はい、今後気をつけます! あ、あと朝ごはんの跡なんかないので大丈夫ですよ?
大体ご主人様がそんなことをするわけがありませんし!」
拓人「み、美雪~~!」
美雪「美化委員の役目ですわ!」
拓人「もとから汚れてなかったじゃねーか!」
夏美「そこ!////さっきから風紀を乱してばかり! 学級委員がなにやってるの!」
拓人「なんで俺ばっかり......」
そんなこんなで、風紀委員に拓人が怒られつつも、無事美化委員、冬野美雪が誕生した。
拓人「はい......次は広報委員になりたい人、いますか?」
教卓で拓人が司会をする傍で新たに加わった美化委員の美雪は、満足そうに拓人を見ていた。
そして初音は黒板に”美化委員 冬野美雪”と書いていた。
ベル「はい、わたくしがやりますわ!」
拓人の呼びかけに元気よく応じたのはベルだった。
拓人「うーん、特に他に立候補者もいないみたいだし、広報委員はオーランド・ベルさんで決定します」
クラスメイト「パチパチパチパチ」
ベル「ありがとうございますわ!」
教室内で起こる拍手に、そうお礼をするベル。
そしてベルも”当然のように”拓人たちがいる方へと足を進めた。
拓人「あの、一応言っておくけど、広報委員もこの場にいる必要はないんだからな?」
ベル「わかっておりますわ! わたくしはちゃんと広報委員としての仕事に来ましたの」
拓人「広報委員の仕事? 何するんだ?」
きょとんとした顔でベルを見つめる拓人の腕を、ベルは自分の胸の谷間に挟んでこう高らかに宣言した。
ベル「わたくしは拓人さんと赤い糸でつながれた関係ですわ!
みなさん、わたくしたちの関係をそっと見守っていてくださいな!」
拓人「え......?」
夏美「え......?」
花山先生&教室にいる生徒一同「「「「えーーーーーー!」」」」
ベルの言葉に、教室全体がどよめいた。
拓人「べ、ベル!////まずは俺の腕を離してくれ////あと、今さっきの言葉も撤回しろ!」
ベル「広報委員が言った言葉は偽りなき事実ですわ!」
拓人「そうやってまたみんなが誤解するような言い回しはやめろーー!///」
夏美「た、た、た......拓人! 風紀を乱す生徒は風紀委員が処罰します!」
初音「補佐役として、学級委員の管理はボクがする!」
美雪「ご主人様の心を美化してあげます!」
拓人「勘弁してくれ~~~!」
すっかり自分の委員に愛着が湧いた夏美たちと、
ただ一人が学級委員になったことを後悔した拓人であった。
......あ、あと図書委員には真がなったけど、特にこれと言って話すこともないので、
そのままスルーしておきます。
真「ひでーな俺の扱い!」
花山先生「それでは、これで4時間目を終了します。
学級委員とその補佐役になった人はこのあと生徒会長室に行ってもらうからよろしく頼むわね」
廊下に出ていた拓人と初音にそう告げると、花山先生は教員室へと戻っていった。
拓人「げっ! マジかよ......」
初音「まあ、もう決まっちゃったことだし、今更嘆いていても仕方ないよ」
拓人「まあ、それもそうだな......じゃあ行くか、初音」
そう言うと、拓人は自然と初音の隣に立って同じ歩幅で歩くようにした。
初音「////ありがと......拓人////」
拓人「たいしたことじゃねーよ」
そう言う拓人の顔は、とても優しくてでもどこか子供っぽい顔が混じったような顔だった。
初音「(今この笑顔を見れるのは、ボクだけだもん......)」
初音は心の中でそう思うと、拓人のその顔をじっと見つめた。
拓人「失礼しまーす」
初音「失礼します」
生徒会長室のドアをゆっくりと開けると、そこには二人の美少女らしき面影が部屋にいた。
??「ようこそ、あなたたちは学級委員とその補佐かしら?」
拓人「あ、はい。俺が学級委員で、こっちがその補佐です」
初音「こんにちは」
??「こんにちは、私はこの学校の生徒会長をやっている、細川音葉よ」
細川音葉と名乗るその少女は肩のところにまである黒髪が印象的で、おっとりとした瞳をもち、
あまり目立た過ぎないお胸をお持ちになっていた。
拓人「俺は朝峰拓人っていいます、よろしくお願いします」
初音「ボクは如月初音です、よろしくお願いします」
音葉「はい、よろしくね。私は今2年生だから、朝峰くんたちの1年先輩になるわね」
??「よかったな、音葉。音葉前から後輩欲しがってたし!」
音葉「ちょ!///ちょっと愛莉! 余計なこと言わないで!」
拓人「あ、あの......この方は?」
突然会話に入ってきたもう一人の少女に、拓人は首を傾げた。
音葉「あ~この人は副生徒会長で私の親友の宮本愛莉よ」
愛莉「どうも1年諸君! 私は宮本愛莉だ!」
拓人「こんにちは......」
愛莉の男勝りな言動に、少しばかり戸惑う拓人。
その様子を見て、音葉はすかさず拓人にこう告げた。
音葉「普段からこんな感じだから、朝峰くんたちもすぐに仲良くなれると思うよ?」
拓人「そ、そうですね......」
愛莉「それで、君たちはどうしてここに来たのかな?」
初音「いや、それが先生にここに来てって言われて......」
音葉「はい、学級委員にはこのプリントを渡さないといけないからね」
そう言うと、音葉は拓人にあるプリントを渡した。
拓人「うーんと......一日の1-2のスケジュール......ってこれ毎回書くんですか?!」
音葉「いえいえ、これは明日提出してもらう言わば宿題みたいなものね」
拓人「宿題か......」
愛莉「ちゃんと書いてこないと音葉の雷が落ちるぞ~!」
音葉「も、もう愛莉!////そう言うのはよしてよ......」
愛莉「ははは、悪い悪い!」
拓人「でも、細川先輩がそんなことで怒るような人ではないと思いますよ?」
音葉「え?」
拓人のいきなりの発言に、少し戸惑う音葉。
愛莉「ふーん......」
少しニヤニヤしながら拓人の方を見る愛莉だったが、そんな拓人は表情を変えずにいた。
初音「って、拓人! もうそろそろみんな部室に集まって待ってるよ?」
拓人「あ、本当だ......というわけで、ありがとうございました、失礼します」
初音「失礼します!」
そう言うと、拓人たちは生徒会長室の扉を開けて軽々しい足取りでその場を去っていった。
愛莉「ね~音葉......あの子どう思う?」
音葉「あの子って......朝峰拓人君のこと?」
愛莉「そうよ! あの子、かなりの強者だと思うんだけど」
音葉「強者ってなによ、あの子はいじめられてる私を見てフォローしただけでしょ」
愛莉「本当にそうかね~......」
音葉と愛莉で他愛もないやりとりをしていると、再び生徒会長室の扉が開いた。
音葉「あ、朝峰くん!?」
拓人「あ、すみません、お取込み中でしたか?」
音葉「い、いえ、全然大丈夫よ!」
愛莉「......」
急に話題になっていた拓人が再び現れて動揺を隠せない音葉、そしてその様子を愛莉はじっと見ていた。
音葉「何か忘れ物?」
拓人「まあ、言い忘れたというか、余計なお節介かもしれないんですけど......」
そう言う拓人は頭をポリポリと掻いた後、こう音葉に告げた。
拓人「目の下にくまができてたので、ゆっくり休んだ方がいいですよって、
ただこれだけ言いに来たんですけど、余計なお世話でしたね///」
言ってる途中で急に恥ずかしくなった拓人は、言い終えた頃には顔が赤くなっていた。
拓人「すみません、それでは失礼します!」
そう言うと、拓人は一礼した後、扉を開けて走って去っていった。
愛莉「......あの子、思ってた以上の子ね」
拓人が去ったのを確認すると、愛莉は音葉にそう呟いた。
愛莉「にしても、あの子も顔を赤くしてたけど、音葉も相当赤くしてるのは自覚してる?」
愛莉はそう言い終えると、音葉の顔を覗き込んだ。
そこには、顔を真っ赤にしていた音葉の姿があった。
愛莉「もう、そんな顔を真っ赤にして、そんな不意打ちだった?」
音葉「う、ううん......でもなんか、朝峰君がわざわざこんなことを言うためだけに
ここに来てくれたこととか、途中恥ずかしくなっちゃって顔を赤くしてるとことか......」
愛莉の質問に、きちんと答えていく音葉。
愛莉「とことか?」
愛莉は途中で切れてしまった次の言葉を、音葉に聞いた。
すると、音葉は少し表情を緩くして、穏やかな口調でこう言った。
音葉「ちょっとかわいくて、気に入っちゃったかも......////」
愛莉「お~お~......まさかの展開だな......」
そう呟く愛莉の言葉に、さらに顔を赤くした音葉であった。
今回は音葉と愛莉の登場回でした!
今回も長くなってしまいました、すみません。
これからも応援よろしくお願いします!