23話 第二回会話(コミュニケーション)部の活動記録
23話 第二回会話部の活動記録
拓人「よ~っし、それじゃあ部活始めるぞ~!」
拓人がいつもより高いテンションで言うと、夏美たちは少し疑問を抱きながらも「お~」と、
拓人の掛け声に合わせて言った。
茜「今日なんかテンション高くない、拓人?」
拓人「そうか? 俺はいつもこんな感じだ!」
夏美「いや明らかに今日テンション高いよね」
拓人はそう指摘されると、「コホンコホン」とわざとらしい咳払いをみせて、
本調子の時と同じテンションに戻した。
初音「なにかいいことでもあったのかい?」
拓人「まあいいことっていうか、この活動の結果が報われたみたいなもんかな!」
ベル「どういうことですの? わたくしにはさっぱりわかりませんわ!」
拓人の発言の意図が分かりにく過ぎたのか、ベルは頬を膨らませてぷんぷんという感じでそう言った。
ただベル以外にも、夏美たちもその発言の意図が分からず悶々としていたが、
ただ一人、美雪だけはひたすら黙って拓人たちのやり取りを聞いていた。
そして、俯かせていた顔をゆっくりと見上げさせると、美雪は席を立ち夏美たちに言った。
美雪「ちょっといいですか?」
その声は、いつもの美雪の声よりはるかに低く、拓人の背中にはうっすらと戦慄が走った。
夏美「ど、どうしたの美雪?」
美雪「......昨日からご主人様はこんな感じで浮かれていました、
しかも、それは......ご主人様が家に帰って来てからのこと」
その美雪の言葉に、すかさず反応した夏美たち御一行。
そして、その何とも言えないオーラを放つ夏美たちに、拓人は少なからず恐怖感を抱いた。
夏美「ね~拓人くん、昨日どこへ行ってたのかな?」
拓人「(ギクッ!)」
拓人は夏美の拓人”くん”呼びに思わず悪寒がした。
夏美が怒っているときや疑っているときは、くん呼びをするということを拓人は知っていたからだ。
夏美「それで、どこに行って誰と会ってどんなことがあったのか、ちゃ~んと教えてね?」
拓人「............はい」
夏美の子を叱るような威圧感に負け、拓人は観念して美雪にも話さなかった昨日の、
パーティーのことを、これから話す決断を下した。
夏美「それで、昨日美雪や桜ちゃんにも黙ってどこへ行ってたの?」
もはや事情聴取場と化している部室に、拓人は犯人、夏美たちは警察の立ち位置で進められている。
拓人「えっと、その......御曹司や令嬢たちが集まるパーティーに出席してました、
美雪や桜に言わなかったのは、ただ単に心配かけさせたくないというだけで......」
美雪「ご、ご主人様......///」
茜「なに照れてんのよ、まあ行く前に言わなかった理由はそうだとしても、
行った後に言わない理由にはならないじゃない」
拓人「うぅ......」
痛いところを突かれた拓人は、力もとない声を漏らした。
初音「まあとにかく、拓人、続きを頼むよ」
拓人「え? あ、ああ......それで、俺はもともと父さんから無理矢理行かされたもんだったから
乗り気じゃなくて、あんまり楽しいものでもなかったんだけど......
途中、御曹司たちに絡まれてた子を見つけて助けてあげたんだ。そしたらその子も同い年でアリス
っていうんだけど、なんかアリスとうまく喋れて全然気まずさを感じなかったんだ!
それで、俺はついに部活の成果が出たんだって思って舞い上がっちゃってさ、
パーティーの最後に踊りの時間があるんだけど、それでアリスとペアになって踊ったんだ......」
拓人は洗いざらい昨日あったことを全部夏美たちに告白すると、夏美たちは全員揃って
冷ややかな目線を拓人に向け、拓人を軽蔑した。
夏美「そんなことあったら言えないよね~......変態拓人!」
ベル「お人好し!」
茜「ナンパ者!」
初音「女たらし!」
美雪「浮気者!」
拓人「おい待て待て待て待て! なんでそんなこと言われないといけないんだ!」
夏美たちの一斉口攻撃にさすがに応戦する拓人。
夏美「それで、その”アリス”とはその後何か発展したの?」
拓人「う~ん......またどこかで会おうって約束したぐらいで、特にはないな」
夏美「ふ~ん、じゃあメアドとか電話番号は聞いた?」
拓人「き、聞けるか!///」
拓人が顔を赤くすると同時に、夏美を除く他の少女たちは少し驚きと心配が混じったような
表情を浮かべた。
ベル「そう言えば......わたくしたち、拓人さんの電話番号やメアド知りませんわ!」
ベルは絶叫にも近い声でそう言うと、茜や初音たちも同様におろおろとし始めた。
拓人「確かにこのメンバーで俺の電話番号とか知ってるの、夏美ぐらいだな」
初音「な、夏美は拓人の電話番号知ってたの?」
夏美「もちろんよ、ほら!」
そう言うと、夏美は自分の携帯の連絡帳を開いて、”朝峰拓人”の文字をベルたちに見せた。
茜「な、ななな......」
美雪「教えてください、今すぐ教えてくださいご主人様!」
拓人「お、おお落ち着けって!」
拓人の体に強引に押し寄せている美雪を、拓人は優しく振りほどくと、
自分のカバンの中から携帯を持ち出してこう言った。
拓人「確かに夏美だけだといざ何か連絡するときとか不便だもんな。よし、連絡先を交換しよう」
その言葉にベルたちは顔を晴らした、ある一人、夏美以外は。
ベル「では、まずはわたくしが交換しますわ!」
茜「ダメ! 私が最初に交換する!」
初音「ボクが最初だよ!」
美雪「私です!」
そうして、またいつものようにくだらないことで口論が始まり、約30分かけてようやく
連絡先を交換し終えた。
拓人「ん? もうこんな時間か、今日はこれまでだな」
拓人は部室に置いてあった時計に目をやると、もうすっかり部活終了時刻の5時半になっていた。
ベル「それじゃあ帰りましょうか?」
茜「そうね、なんだかんだこれといった活動はしなかったわね」
初音「まあ、それもまたこの部のいいところじゃないか」
美雪「はい、それに、活動は”この後”が本番ですし......」
そう美雪が言うと、その四人は静かに笑いあった。
拓人は不思議がって見ていたが、一方夏美は少し拗ねたような表情で、そんな美雪たちには目もくれず
先に廊下へと歩いて行った。
拓人「夏美......?」
拓人はその夏美の様子を見て、少し心配に先を歩く夏美の姿を見つめるのであった。
拓人「あ~疲れた~」
学校から帰って来て、拓人は自分の部屋のベッドに早々と寝転ぶとそう呟いた。
拓人「それにしても、夏美、最後らへんあんまり元気なかったな......どうしたんだ?」
拓人は誰もいない部屋で一人そう言うと、拓人は夏美のあの時の様子を思い出した。
拓人「......ちょっと心配だな......」
拓人はそう呟くと、自分の携帯にと手を伸ばした。
拓人「ん!? なんじゃこりゃ!」
携帯を開いてすぐに、拓人はメール受信数の数に驚いた。
拓人「ひゃ、百通を超えているだと......?」
今までこんなにもメールを受信したことがなかったので、拓人は思わずその数を二度見した。
その中身を恐る恐る覗くと、ベルからのメールが40件、茜のメールが15件、初音が25件、
美雪が20件だ。
拓人「......って美雪が俺にメールを送る必要はないだろ!」
美雪の20件ものメールにツッコミながらも、拓人は一通りメールの内容に目を通した。
そのメールの内容というのが............
”拓人さんへ
ごきげんよう、今日の部活楽しかったですわ。
また明日も頑張りましょう、では返信待っておりますわ!
ベルより”
”拓人へ
お、送れてる? ほ、ほら、ちゃんと送れるかどうか確認しとかないといけないし......
とにかく! 返信待ってるから!
茜より”
”拓人へ
おーい、初音だよ! メールってボクあんまりやらないから、ちょっと照れるね......
返信待ってるから!
初音より”
”ご主人様へ
初めてのご主人様とのメール、大変緊張しています......
何か用があれば、メールでもいいのでよろしくお願いします。
......返信待ってます
美雪より”
拓人「こ、これは......」
今さっき紹介したのはただの一部にしかすぎないのだが、実際には拓人のメールの受信欄には
このような類のメールが何件にも及ぶ。
しかもそのメールの最後には、必ず「返信待ってます」なんていうセリフが書かれていた。
拓人「......やるっきゃない......!」
そう言うと、拓人は勢い良く起き上がると、自分のガラケーの携帯のボタンをカチカチと押し始めた。
その速度は、音速も超え......はしないが、とにかく物凄いスピードで文字を打ち始めた。
そして約30分後、拓人は100件にも及んだメールの返信を終わらせた。
拓人「お、終わった......」
拓人はそうぽつりと呟くと、倒れるようにベッドに寝込んだ。
一度休息が必要だと思った拓人は、ゆっくりと瞼を閉じ始めた。
しかし、直後に階段を物凄い勢いで駆け上がる音に、さすがの拓人も気づき少し嫌な予感をさせた。
美雪「ご主人様! 見てくださいこれ!」
その音の主は、案の定美雪だったのだが、その美雪の手には携帯がばっちりと握られていた。
拓人「......どうしたんだ?」
美雪「これ見てください!」
そう言うと、美雪は断りなく拓人のすぐ隣に座り、携帯の画面を拓人に見せた。
拓人「うん......これは俺が美雪に返信したメールだな」
美雪「はい! これはご主人様から送られてきたメールです!」
やや会話が成り立っていないような気もするが、美雪はとてもうれしそうに携帯の画面を見ていた。
拓人「それで、俺が送ったメールを俺に見せてどうするつもりだ?」
美雪「はい......実は、このメールの返信を手伝ってほしくて......」
拓人「そうか、返信を手伝ってほしいのか......っておいおいおいおい!」
美雪の言ったことに、思わず呑みこみそうになった拓人。
拓人「これは俺が送ったメールなんだよな?」
美雪「はい!」
拓人「それで、美雪はそれを返信したいんだよな?」
美雪「そうです!」
拓人「俺宛のメールを俺が手伝うことにおかしいなんて思わないのか?」
美雪「もちろんです!」
拓人は、質問を美雪に問い続けたことを答えを聞いてから後悔した。
美雪がここまで天然だったのは、拓人も予想外だったからだ。
拓人「は~......わかったよ、手伝うよ、俺宛のメールを俺が手伝えばいいんだろ......」
もはや泣きそうになっている拓人を横目に、美雪は鼻歌を口ずさみながら、
どうメールをすればいいのか試行錯誤していた。
美雪「それでは、一緒に考えていきましょう!」
拓人「お、お~う......」
美雪の元気良い声とは裏腹に、拓人の声はか細く部屋に響いた。
美雪「それでは、ありがとうございました、ご主人様!」
拓人「お、おう......」
美雪が部屋を出て行って、拓人は深いため息をついた。
そして、ズボンのポケットの中にしまいこんだ携帯を見てみると、そこには案の定
美雪のメールが来たという通知が来ていた。
拓人「もうメールの内容も全部分かってるんだけどな......」
拓人はそう呟きながらも、美雪の未開封のメールを開封した。
”ご主人様へ
返信ありがとうございます! ご主人様はどのような食べ物が好きですか?
私は......秘密です! どうしても気になるんだったら当ててみてください!
......返信待ってます
美雪より”
拓人「は~......」
拓人は再び深いため息をつくと、頭をポリポリと掻きながら携帯の画面をじっと見た。
拓人「私は秘密......って、美雪今さっき”私はイチゴが好きですけど、当ててもらいたいので
秘密って書いときますね!”って言ってたの俺普通に聞いてたからな?
それに返信待ってますってちゃっかり書かれてるし......」
もはやかわいげさえ感じてしまう美雪の天然ぷりに、拓人はそっと肩を落とした。
拓人「......あ」
そんな拓人は、肩を落とした後、あることを思い出した。
拓人「夏美......大丈夫かな......?」
その独り言は、誰にも気が付かれることなく掻き消されたが、
拓人はそっと、連絡帳で”上原夏美”の文字を探し、ゆっくりと着信のボタンを押した。
プルルルルルルル......
夏美「ん? 電話かな、誰だろこんな時間に......」
お風呂から上がって、髪をタオルで乾かしていると、不意に夏美の部屋で着信音が鳴った。
夏美「うーんと......って! 拓人!?//////」
夏美は携帯の画面を見てみると、そこには拓人からの着信が鳴っていた。
夏美「急にどうしたんだろ?///でも、今は出るほうが先よね......」
そう言うと、夏美は一呼吸してから、ゆっくりと着信に応答した。
拓人「あ、夏美か? 悪いな、こんな夜遅くに」
夏美「う、ううん! どうしたの? 珍しいよね、拓人から電話かけてくるの」
拓人「そ、そうか? なんか、かけたくなったからさ」
夏美「な、なによそれ////もう、拓人は本当にズルいよね......」
拓人「何がズルいんだよ?」
夏美「......他の女の子に優しくするくせに、こうやってちゃんと電話してくれるとことか......」
拓人「えっ!?//////」
夏美「......冗談よ、本当に拓人は変わらないね」
拓人「そっか......うん、やっぱ夏美はこっちの方がいいな!」
夏美「な、なに急に//////」
拓人「......なんかさ、今日なんか元気なかったから、ちょっと心配でさ......
でも、こうやって話してると、いつもの夏美に戻っててよかったよ」
夏美「......//////」
携帯越しから聞こえる拓人の優しい囁き声に、夏美は顔を真っ赤にしていた。
そして、その拓人が夏美を心配して電話をかけてくれたことが、夏美には嬉しくてしかたなかった。
夏美「ありがと......心配して電話までかけてくれて///」
拓人「あぁ、うん......いいよ、全然......///」
夏美「............」
拓人「............」
拓人の最後の声を機に、二人はお互いに黙り込んでしまった。
夏美「......//////」
夏美は何か言いたげに、拓人に告げようとしたその瞬間、拓人の方が先に夏美にこう言った。
拓人「じゃあ、もう時間も時間だし、今日これで」
夏美「えっ、あ、ちょっ......!」
拓人「おやすみ、夏美。また学校で」
ガチャ............
電話の通信が途切れた携帯を、夏美は数秒ほど見つめた後、
「はぁ~」とため息をつきながら、夏美はベッドに倒れこんだ。
夏美「......拓人、心配してくれてたんだ......」
またもや誰もいない部屋で、拓人同様独り言を呟くと、夏美は自分の顔を枕に埋めた。
夏美「......拓人......好き......」
その声は、夏美自身も聞き取れるかどうかの本当に小さい声だったが、
その言葉は確かに、この夏美の部屋に響き渡った。
拓人「おやすみ、夏美。また学校で」
ガチャ............
拓人「夏美、元気そうでよかったな......」
電話を終えて、拓人は本当にそう思ったのであろうか、そう口にした。
拓人「さ、俺もさっさと寝るか~!」
拓人はそう言うと、ぐっ~と伸びをしてから、時間を確認するためにふと携帯を見た。
すると、その視線に合った光景には............
拓人「な、なんじゃこりゃ~~~!」
ベルたちに返信したメールは、またベルたちによって返信されて、さらにそのメールの数は
前回よりさらに数を増やし、その数は倍の200件にまで及んでいた。
拓人「............」
拓人が漏らした落胆の息は、拓人の部屋に空しく響き通ったのであった。
今回はあまり活動記録ってほどじゃありませんでしたね(笑)
夏美推しのための人の回だったかもしれません......
これからも応援よろしくお願いします!