22話 貴族たちの遊宴(パーティー)
22話 貴族たちの遊宴
プルルルルルルルルル
拓人「.......ふぁ~......」
ゆっくりと起き上がった拓人は、気だるげに目覚まし時計のスイッチをオフにする。
拓人「......あと二つか」
そうぽつりと呟くと、拓人は鳴りやまない残り二つの目覚まし時計も同時にオフにした。
計3つの目覚まし時計を設定していた拓人は、美雪や桜を起こさせないように、そーっと
下のリビングまで下りて行った。
ここで二つの疑問が生じると思うが、まず何故拓人は3つもの目覚ましを設定していたかというと、
単純に1つや2つだと起きれないからだ。
普段拓人は美雪や桜に起こしてもらうため、目覚まし時計は使わないのだ。
では次に何故今日は美雪や桜に起こしてもらわずに尚且つ起こさないようにしているかというと、
今日は日曜日、つまりは週末だ。
今週末にあること、それは以前、拓人の父誠二から言われた各会社や財閥の御曹司や令嬢が
集まるパーティーに出席しなければいけないということだ。
そのパーティーに出席するということを、拓人は余計な心配をかけさせないために美雪と桜には
言ってなかったのだ。
一通り朝にすべきことは済ませ、拓人は自分の部屋に静かに戻って、クローゼットの中を開いた。
そのクローゼットの中には、スーツやネクタイなど、とても高校1年生とは思えないような
内容の物が揃っていた。
もちろんこれは拓人が集めたのではなく、誠二が拓人のために用意してあるものだが、
正直拓人にとって、このスーツ類などは自分には似合わな過ぎて着るのが苦手だ。
拓人「はぁ......めんどくさいな......」
誰に向けての言葉かは分からないが、拓人はそう呟くといかにも高級そうなスーツを着こなし、
髪型も一通りセットして自分の携帯に手を伸ばした。
拓人「......もしもし、もう来てる?............わかった、今行く」
拓人は携帯の通信画面を終了させると、そこにあった紙とペンで桜たちに置き手紙を書き残し、
そのまま革靴を履いてこの家を後にした。
”桜、美雪へ
ちょっと用事があるので出かけてきます。
昼ごはんは二人で食べるように
拓人より”
メイド「お待ちしておりました、拓人様」
拓人「遅くなってすみません、パーティーには遅れそうですか?」
メイド「いえ、このまますぐ乗ってもらえると、予定の時間までには着きます」
拓人「わかった、じゃあ今すぐこの車を出してくれ」
そう言うと、拓人はでかいリムジンに乗った。
今さっき電話でしゃべっていたのはこのメイドで、リムジンがついたかどうかを連絡していたようだ。
現在拓人が起きるのが少し遅かったため、少々遅れ気味なのだが、メイド曰くなんとか間に合うようだ。
拓人はそれを聞いてほっとすると、パーティー会場に着く間まで少しばかり休息をつこうと、
ゆっくりと瞼を閉じた......が、次の瞬間、拓人の携帯の着信音が鳴り響いた。
拓人はその着信音に反応し、閉じていた瞼を開けて、その携帯の着信に出た。
拓人「はい、拓人です」
桜「もしもし兄さん?! この手紙はなんですか!」
電話をかけてきたのは、どうやら桜のようだった。
桜の少し怒り口調な声色とは反対に、拓人は申し訳さなそうに桜に謝った。
拓人「ごめん桜、急に行っちゃって。このことは帰ってからゆっくりと話すから」
桜「本当に......出かけるんだったら前もって言ってくれてもいいでしょう?」
拓人「ああ......それに関しては全面的に俺が悪いよ......」
まるで兄妹間の立場が逆転したかのように、桜はお姉さんらしく拓人を叱った。
桜「はぁ~......もういいですよ、兄さんがこういう人だって言うのは分かってますから。
それに......きっと言わなかったのも、きっと”言えなかった”の方だと思うし」
拓人「............」
桜の的を射たような発言に、拓人は黙ることしかできなかった。
こんなにも勘が鋭いものかと、逆に感心したくなるほどだ。
桜「とにかく! 兄さんは何かとハプニングに巻き込まれがちですから、気を付けてくださいね!」
拓人「あ、ああ、心得ておくよ」
桜「じゃ、じゃあその......気を付けて行ってください......」
拓人「うん、心配してくれてありがとうな、桜」
桜「......妹として、当然です!」
その桜の元気な声を最後に、お互いに「それじゃあ」と言って、電話が途切れた。
そして、桜との電話が終わってから間もなく、パーティーの会場となるところに着いた。
拓人「う~~ん......相変わらずでけーな......」
拓人はリムジンから降りると、その会場の外観と大きさにそう本音をこぼすのだった。
受付を終え、パーティーの場となるところに足を運ぶ拓人。
拓人「うわっ!......」
拓人は未確認生物を見たかのような声と表情を浮かべ、しばらく遠くからその光景を見ていた。
その光景というのは、華やかな雰囲気に包まれ、上品な笑い声や話し声が聞こえ、
いかにも”この場にふさわしい!”みたいな人達ばかりいたということだ。
拓人はもともとこういう集まりは避けてきたのだが、さすがに今回ばかりは強制的に行くことになり、
久しぶりのこういうパーティーに少々違和感を覚えていた。
もうパーティーはすでに始まっていて、様々な御曹司やら令嬢やらが一緒に談話していた。
一方拓人は、特に知り合いがいるわけでもないので、テーブルにおいてあった飲み物に手を付けた。
拓人「見た目はシャンパンぽいけど......て、ただのリンゴジュースか......」
拓人はその飲み物の見た目にシャンパンだと思ったのだが、
実際は果汁100%のリンゴジュースだったようだ。
そのリンゴジュースを吟味している拓人に、ある令嬢”たち”が拓人のところに集まった。
有原「こんにちはですわ、わたくしは有原財閥の令嬢の有原ですわ」
木村「わたくしは木村物産株式会社の木村ですわ」
佐藤「私は佐藤製菓株式会社の佐藤です、ごめんあそばせ?」
そう挨拶してきた令嬢たちに、拓人は............
拓人「(ぜ、ぜ、全員超一流って呼ばれてるとこばっかじゃねーか!
なんでそんな方々が俺のとこなんかに......あ、でも俺もよそから見たら超一流か......
ってそういうことじゃなーい! 今はとりあえずこの状況を乗り越える案を考えるんだ!)」
拓人は令嬢たちの挨拶にどう答えればいいのか、必死に冷や汗を流しながら考えていた。
有原「あ、あの、ご自分の名前を言うのは、このパーティーの基本ですわよ?」
有原財閥のご令嬢からのご指摘を受け、拓人はそうだったのかと思い直し、
即座に自分の名前と父の勤めているところについて話した。
拓人「え、えっと! その、朝峰財閥の朝峰拓人です!
趣味は読書で、特技はありません、高校1年生で、16歳です!
好きな食べ物は妹が作るものは全般的に好きで、歌はポップ系が好きです!」
その拓人の発言を聞いて、ご令嬢たちは目を丸くしてその場で硬直した。
まあ無理もない、拓人は血迷いでもしたのかいきなり聞かれてもいない自己紹介を初めて、
挙句の果てにはシスコンともとれる発言をしてしまったからだ。
拓人も言った後すぐに自分の失態に気づいたが、時すでに遅かった。
有原「お、おほほほほ......その、個性的なお人ですのね......そ、それでは失礼しますわ!」
そう言うと、他の令嬢たちも足早に拓人から離れその場を去っていった。
振り向きざまに拓人のことを見た令嬢たちは、とても冷ややかな目をしていた。
拓人「はぁ~......全くどうしろって言うんだよ......」
そうぽつりと呟いた拓人は、一人やけ酒のようにリンゴジュースをがぶがぶ飲むのであった。
パーティーも始まってからもう一時間が経過しようとしていたところ、パーティーでは
ある動きが出ていた。
それは、この会場にいる男女1組になり一緒に踊りを披露するというものだった。
この踊りはまだ先のことなのだが、今のうちにペアを作らないといけないというものらしい。
パーティーにいる御曹司、令嬢たちはもうすでにペアを作ろうと必死になっていたが、
そんななか拓人は大あくびをしながら目をしょぼしょぼさせていた。
拓人「ペアって言われても......女の人に話しかけるなんて無理だろ......」
拓人はそう言うと、ガクッと肩を落とした。
??「や、やめてください......!」
拓人「んっ?」
突然聞こえてた女の人の声に、いち早く反応した拓人。
その声の聞こえた場所に、視線を移すと、そこには拓人と同い年ぐらいの女の人が、
複数人の御曹司からペアの申し立てをされているところだった。
御曹司A「私と一緒にペアを組みましょう、あなたのような高嶺の花、
私が存分に貴女の美しさを引き出して見せましょう!」
御曹司B「いいえ、僕と一緒に組みましょう、貴女には僕が良く似合っている!」
御曹司C「何を言ってるんだ、組むの俺だ!」
御曹司D「何を! 姫、ぜひ私と!」
御曹司E「いや私と!」
そういうと、男たちは囲んでいた女の人の手を取り合っていた。
??「や、やめてください!」
その御曹司達の言い合いは見ててとても醜かったが、とりあえず真ん中に立っている
女の人が困っているということは、拓人の目からも分かった。
拓人「(あれはさすがにあの人も困ってるな......)」
そう思った拓人は、その場で一度深呼吸してから、ゆっくりと女の人の方に歩いて行った。
拓人「あの、すみません!」
拓人の登場に、囲んでいた御曹司たちと女の人が拓人の方に振り向く。
御曹司A「なんだお前、お前もこの美しきレディーにペアを申し込むのか?」
御曹司B「まあ所詮、お前がそのレディーに選ばれるわけないんだがな」
早速拓人に毒を吐く御曹司たち。
しかし、拓人はそんな言葉を聞き入れもせず、女の人に歩み寄った。
拓人「今は逃げた方がいいと思います」
??「え?」
拓人「少しの間捕まっていてくださいね」
??「ふぁっ!?」
拓人は、女の人にそう耳打ちすると女の人の手を引いてそのままその場から離れた。
御曹司A「おい待て! 盗みは犯罪だ!」
御曹司B「追うぞ!」
そう御曹司たちは言うと、走っていった拓人と女の人......いや、美しきレディーを追うのであった。
拓人「はぁ、はぁ、はぁ......」
??「はぁ、はぁ、はぁ......」
ようやくしつこい御曹司たちの追っ手を振り切り、本会場の廊下で息を整える拓人たち。
??「あ、あの......ありがとうございました、助けてくれて」
その女の人は、拓人の顔をの覗くと、少し微笑みを交えながらそう言った。
拓人「ああいや、さすがにあんな来られると困りますよね、当然のことをしたまでです」
拓人は女の人の言葉に、敬語をうまく使って返した。
??「あの、その、お名前を聞いてもよろしいですか?」
拓人「ああ、俺は朝峰拓人、朝峰財閥の朝峰で、一応高校1年生です」
拓人の自己紹介を聞くと、女の人は「本当ですか!?」と嬉しさと驚きが混じった顔で拓人を見上げた。
アリス「あ、失礼しました///私は朝比奈=フリード=アリスです。
アリスも朝峰様と同じ高校1年生です、よろしくお願いしますね?」
拓人「ああ、そうなんだ......よろしく、朝比奈さん」
アリスと名乗るその女性は、キレイなベージュ色の髪をしていて、良く育った胸、
すらっと伸びている脚、そして全体的にスタイルが良い、いわゆる美人だった。
そして、そのアリスが来ているドレス姿もまた美しく、拓人もしばしばその姿に見惚れていた。
そして、その拓人の視線に我慢ができなくなったのか、アリスは顔を真っ赤にして拓人に言った。
アリス「あ、あの~///そんなに見つめられると......///」
拓人「えっ? あ、ごめん朝比奈さん!///」
拓人は無意識で見つめていたらしく、その指摘に拓人も顔を赤くする。
アリス「あの......私のことは、アリスって呼んでください」
アリスはそう言うと、拓人に一歩歩み寄ってそう伝えた。
拓人「あ、ああ分かった。俺も拓人でいいよ」
アリス「はい! 改めてよろしくお願いしますね、拓人様?」
拓人「う、うん......よろしく、アリス」
アリスの様づけに若干戸惑いながらも、拓人はアリスと会釈を交わした。
拓人に助けられてからまだ余韻が残る中、拓人は幾つかアリスに質問した。
拓人「その、答えられないんだったら別に答えなくていいんだけど、
アリスはどこの会社のご令嬢なのかな?」
アリス「アリスはAHNというファッション用品を主に作って販売している会社の社長も娘です。
ちなみに父はフランスで、母は日本人でハーフなんです」
拓人「(なるほど、だから名前やミドルネームもあったのか......って!)」
拓人「AHNって、あのAHN!?」
拓人は、その企業名に少し見覚え、聞き覚えがあった。
拓人「AHNと朝峰ってたしか結構社長同士仲良くて、関係も良好って聞いたことがあった」
アリス「本当ですか!? これもまた何かの縁かもしれないですね」
そう言うアリスは、手を口元に添えて、「ふふふ」と可愛らしく笑った。
その可愛らしい仕草に、拓人がまた顔を赤くしたのは言うまでもない。
アリス「それで、その......一つ拓人様にご相談があるのですが、よろしいですか?」
拓人「ああ、俺でよかったらなんでも聞くよ」
アリス「その......ペアを組んでもらえませんか?///」
拓人「えっ......!」
拓人は、アリスの相談に若干、いや、かなり驚いた。
拓人「(俺にとっては、こんなチャンス願ったり叶ったりなんだけど......
俺なんかがアリスとペアを作って踊るなんて、いいのかな?)」
拓人はそう考え、自分が本当にアリスのペアにふさわしいのか、少し不安になった。
アリス「あの、お返事は......?」
拓人「あ、いやその......俺なんかがアリスのペアなんかになっていいのかな、なんて......」
拓人は思っていたことを正直にアリスに告白した。
そう言う拓人を見て、アリスはまた「ふふふ」と笑みをこぼした。
拓人「そ、そんなおかしいこと!?」
アリス「いえいえ、すみません、拓人様は面白い方ですのね」
拓人「う~~ん? そうかな?」
アリスの指摘に納得はできなかった拓人であったが、拓人はある程度自分の決意を決めた。
アリス「それでは、もう一回聞きますけど.....アリスとペアを組んでいただけませんか?」
拓人「......うん、俺でよければ」
拓人はアリスの誘いにYesをだすと、アリスは分かりやすくうれしがった。
そして、拓人はこの後ある踊りを、まだこの時は知らなかったようだ。
拓人「......なあ、アリス、ペアを作るだけじゃなかったんだな」
アリス「当たり前です! これがパーティーの醍醐味じゃないですか!」
今、二人は手を繋ぎあって、お互い体を向かい合い、今でも曲が流れれば踊りだすような体勢でいる。
拓人「俺、うまく踊れるかな?」
アリス「拓人様だったらきっと大丈夫です!」
拓人「ははは、根拠ないじゃんそれ。だけど、ありがとう」
アリスの答えを聞いておもわず笑いをこぼした拓人は、力が脱力するような感じがした。
それはもちろんいい意味で。
アリス「もうそろそろ始まりますね!」
拓人「うん、こうなったら思い切り楽しもう!」
その拓人の言葉を機に、踊り用の曲が流れ始め、拓人たちは一斉に踊り始めた......
アリス「今日はありがとうございました!」
拓人「うん、こちらこそありがとう」
パーティーも終わりを告げ、空の模様はすっかりと橙色を帯びていた。
拓人のダンスの出来は正直うまいとは言えなかったが、それなりに楽しめたようだ。
アリス「なにか、拓人様とはまたどこかで会えるような気がしますわ」
拓人「うん、俺もそんな気がする」
それはから返事なんかじゃない、本気に思ったこと、拓人はそう思いアリスにそう告げた。
アリス「はい、ではまた会える日まで、またです拓人様!」
拓人「またね、アリス」
そうお互いにさよならの言葉を告げ終わると、お互いに背中を向けてリムジンのある方向に
向かっていった。
帰りの車の中、メイドは拓人に色々と気になったことを聞いた。
メイド「拓人様、あの方は一体......?」
拓人「うん、アリスって言うんだ、いいやつだったよ」
メイド「そうでございますか~、楽しめましたか?」
拓人「う...ん......それなりに......ね............」
メイド「そうですかそうですか~では......あらあら」
メイドが次の質問を拓人にしようとしたが、メイドは拓人の方を見るとその言葉を寸止めした。
メイド「いくら体が大きくなっても、拓人様は変わらないのですね~......」
メイドはそんな独り言を呟くと、拓人のほうにブランケットをかけてあげた。
メイド「ゆっくりと休息なさいませ、拓人様」
そのメイドの言葉も、嬉しそうな寝顔で、小さい寝息を立てる音に搔き消された。
拓人「......アリ......ス......」
その寝言も、リムジンが走る音で、静かに掻き消されるのであった。
今回はアリスの登場回でした!
そして安定の、長くなってしまい申し訳ありません(笑)
これからも応援よろしくおねがいします!




