21話 メイドはご主人様と部活も一緒!?
21話 メイドはご主人様と部活も一緒!?
拓人「よーっし、4時間目も終わった~......」
拓人はそう言うと、伸びをしてゆっくりとイスに座った。
美雪「ご主人様~!」
拓人「うあっ!」
拓人がイスに座ったのを見計らって、美雪は拓人の机の方へやってきた。
拓人「み、美雪......学校では”ご主人様”はちょっとまずいって、色々とさ......」
その拓人は、少し顔を赤く染めながら小さい声で美雪に言った。
美雪「何でですか? 私のご主人様は拓人様だけです!」
拓人「は~......ますます他の男たちの視線が痛い......」
美雪の分かっていたような返事に、拓人は深いため息をついて肩を落とした。
夏美「お~い、拓人~早く部室行こ~?」
そんな拓人に、濃い茶髪をなびかせて見慣れた笑顔を見せる少女、夏美が拓人にそう言った。
拓人「ああ、今行くよ」
そう言って、拓人がイスから立ち上がろうとすると、
ものの成り行きが分からず、ぽか~んとした顔をした美雪が拓人の方を見つめた。
美雪「ご主人様、どちらに行かれるのですか?」
拓人「ん? ああ、美雪には言ってなかったか......
昼休みのお弁当を食べる時間は部室で食べるってことになってるんだ」
美雪「......ご主人様とあちらの夏美様のほかに、誰がいらっしゃるのですか?」
拓人「え~っと、ベルと茜と初音と、たまに真だな」
その返事を聞くと、美雪は少し顔を俯かせてから、後ろに邪悪なオーラを発しながら拓人にこう告げた。
美雪「ご主人様? 今日一緒にその席にご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
拓人「は、はい!」
拓人はその邪悪なオーラに怖気づいて、返事が敬語になってしまった。
拓人「(なんで美雪はこんなにご機嫌斜めなんだ......?)」
拓人はそんなことを考えながら、待っていた夏美と美雪の三人で部室へと向かった。
拓人「おっす」
ベル「あ! 拓人さん! お待ちしていましたわ!」
そういうと、ベルは拓人めがけて勢いよくハグをした。
美雪「はい!?//////」
その光景を初めてみた美雪は頬を真っ赤に染めながらおろおろとしていた。
まあ最初にこの光景を見た人はそういう反応をするのはむしろ普通だが、散々この光景を
見せつけられている夏美たちにとっては、この光景が当たり前となっているので、
特になんの反応も示さなかった。
しかし、この男だけは未だに初めての時と同じ反応を取っていた。
拓人「お、おいベル! いつも抱き着くなって言ってるだろ?///」
ベル「は~い、すみません、拓人さん?」
拓人「うぅ......は、反省してるんだったら、それでいいんだ///」
ベル「はい! わたくしすごい反省してますわ!」
拓人「うわぁ! だから抱き着くな!//////」
未だに抱き着かれるのに慣れない拓人は、こうやっていつも赤くなりながらベルを相手してるのだが、
ベルは変わらぬ拓人の反応を逆に嬉しく思っているのは言うまでもない。
美雪「ベ、ベル様! 早くご主人様からどいてください!///」
先ほどからずっとその光景を見ていた美雪は、赤くなりながらベルにそう告げた。
ベル「嫌ですわ、わたくしは今拓人さんと愛を確かめ合っている最中ですの」
拓人「いや、ちょっとというかだいぶ言い方に語弊はあるけど......」
ベル「とにかく、その時間を邪魔されたくはないですわ!」
美雪「なっ......」
ベルの少し鋭い言い方に、沈黙する美雪と部室。
その状況を、拓人はおどおどするだけでなにもできなかったところを、夏美がこの場を収めた。
夏美「はいはい、この話はここまで! せっかくのお昼の時間が台無しになるよ?」
美雪「す、すみませんでした、みなさん!」
ベル「わたくしとしたことが、申し訳ありませんでしたわ」
その夏美の言葉を聞いて、この状況に気づき、お互い謝罪した。
そして、ベルと美雪もお互い謝りあうのかと思いきや......
ベル&美雪「ふん!」
と、すっかりケンカになってしまった。
茜「もう......どうするの、拓人?」
拓人「どうしようって言われてもな......ケンカの原因が俺だもんな......
俺が何かしたって火に油をそそぐだけのような気もするし......」
茜「確かにそうね......」
初音「このまましばらく様子を見ようか」
拓人「そうだな、迷惑かけちまって悪いな、みんな」
初音「そんな、拓人が謝ることじゃないよ!」
茜「うんうん、ベルの性格なら、案外すぐに仲直りするだろうしね」
拓人「まあ、そう祈るしかねーな」
そんな話を、拓人たちがしているさなか、ベルと美雪はお互いに背中を向けてお弁当を
食べていて、それを必死になだめている夏美がいた。
キーンコーンカーンコーン
6時間目の終了するチャイムが鳴り、拓人は部活に行く準備をしていた。
そんな拓人のところに、金髪で碧眼をした美少女が顔を俯かせてもじもじ体を揺らしながらやってきた。
拓人「どうしたんだ、ベル?」
ベル「あ、いえ、その......昼休み(ランチタイム)の時のお詫びをと思いまして......」
拓人「お詫び?」
ベル「はい......色々とお騒がせしてしまい、申し訳ありませんわ」
ベルはそう言うと、拓人の前で頭を下げた。
拓人はそのベルの行動を見て「顔を上げて」というと、優しい顔つきでベルにこう告げた。
拓人「悪かったな、美雪のことは。美雪は普段はおとなしくていいやつなんだけど......
ベルもそんな気はなかったんだよな? それは分かってるから気にするな」
そう言い終えると、拓人はベルの頭をすりすりと撫でた。
ベル「はぅ//////」
ベルは、不意打ちに拓人に頭を撫でられ急に顔を赤くした。
拓人「よし、じゃあ行くか!」
ベル「は、はい......///」
すこしベルは頬に赤みを残しながら、拓人と一緒に部室へと向かった。
ガチャ
会話部の部室の扉を開け、部室に入る拓人とベル。
その部室内には、すでに夏美、茜、初音、そして美雪が用意されているイスに座っていた。
拓人「みんな! それに美雪も、早かったんだな」
夏美「ちょっと色々と話してたからね」
そう言うと、夏美と茜と初音が一斉に拓人の前に集まる。
拓人「な、なんだよ!」
夏美「今さっきまで、私たちずっと美雪さんの話を聞いてたのよ?」
拓人「美雪の?」
拓人は首を傾げ、夏美たちの顔を見回した。
茜「私たちが呼ばれてさ、拓人とベルは連れてこないでって言われたから、そのままこの3人で
来たら、2人に謝罪がしたいって」
拓人「......!」
初音「特にベルには申し訳ないことをしたから、協力してくれないかって頼まれてさ」
拓人「そうだったのか......」
拓人は夏美たちの話を聞いて、少し驚いた表情を見せた。
拓人「(美雪も、ベルと同じように思ってたのか......)」
今さっきベルからも似たようなことを聞いていた拓人だったので、お互い謝る気持ちはある
ということなのは、すぐに理解できた。
しかしなぜ謝れていないのか、それはお互いに素直になれていないからだというのは、
誰からも分かることだろう。
夏美「それで、協力してあげるって言ったんだけど、具体的にどうすればいいのか、
いまいちよくわからなくて」
夏美は、再びその話に戻り、拓人に疑問を投げた。
拓人「うーん、とりあえずはそういう謝罪の場を作ってあげることが大事なんじゃないか?」
茜「そうね、じゃあ二人向かい合わせになるようにしたら?」
初音「さすがにそれができてたら謝罪は済んでると思うんだけど......」
夏美「そうよね......う~ん......あ!」
夏美は少し考えてから、いいことが思いついたようで、瞳をキラキラさせながら拓人の方を見た。
拓人「何かいいことでも思いついたのか?」
夏美「うん、簡単に二人を向かい合わせる方法......!」
拓人「おお~! どんな作戦なんだ?」
夏美「うん、その前に、拓人ももちろんこの作戦に協力してくれるよね?」
拓人「ああ、もちろんだ!」
その拓人の返事を聞いて、安堵の笑みを浮かべてから夏美はゆっくりと作戦のことを言った。
夏美「二人を簡単に向かい合わせる方法、それは.............よ!」
拓人「なっ!」
茜「確かにそれだったら二人を向かい合わせることはできるかも!」
初音「名案だよ夏美!」
夏美の衝撃的な作戦に、拓人以外の二人は好印象の色を示した。
しかし、拓人はその作戦に少し難色を示した。
拓人「な~、それ本当に成功するのか?」
夏美「あら? さっき協力してくれるって言ったよね~!」
拓人「く~~~~! わかったよ、やるよ、その作戦通りやればいいんだろ!」
夏美「うん、ありがとう、拓人!」
拓人は半分やけになりながら、夏美は少し嬉しそうにその作戦を実行する準備をした。
その作戦というのが............
ベル「............」
美雪「............」
拓人「......まあ結果オーライか」
今の状況を簡単に説明すると、ベルと美雪の間に、拓人がぽつんと立っているという状況だ。
その作戦、その名も”拓人、間に入ればベルと美雪が振り返って向き合うんじゃないか作戦”だ。
何ともバカバカしい作戦なのだが、結果が伴っている以上失敗とは言えないのである。
拓人「まあ、とりあえず向き合ってるんだし、なにか話したらどうだ?」
その拓人の言葉に、少し気まずさを憶えながらも、ベルと美雪は必死に言葉を振り絞った。
ベル&美雪「あ、あの!」
ベル「な、なんでしょうか?///」
美雪「そ、そちらこそなんでしょう///」
同じタイミングで言ってしまい、また一層気まずさが増した部室内の雰囲気。
今度はどちらも奥手になり、二人ともなかなか喋らなくなってしまった。
拓人もその状況を見かねて手助けをしようとしたら、ガチャと部室の扉が開いた音がした。
女子A「失礼しまーす、オーランド・ベルさんはいますかー?」
拓人「え?」
美雪「えっ?」
ベル「え!?」
いきなりの訪問者に、少し驚きを隠せない拓人たち一同。
さらに驚くべきなのは、今入ってきた先輩らしき女子を、拓人たちは誰も知らないということだ。
夏美「あ、あの......何か用ですか?」
女子A「ああ、はい。オーランド・ベルさんはいらっしゃいますか?」
ベル「あ、はい。わたくしがオーランド・ベルですわ」
女子A「あなたに少しお話がありまして......
それは、この部活をやめて、我々テニス部に入部してもらえませんか?」
拓人「え?!」
先輩の言葉に、思わず驚きの声を上げる拓人。
ベル「つまり、この部活をやめろ、と?」
女子A「うん、というかぶっちゃけ、この部活ってお遊びみたいなもんでしょ?
あなたみたいな逸材がこんなところにいちゃダメよ、あなたの能力だったら、
もっと輝ける場所で羽ばたける、あなたもそういう場所で輝きたいでしょ?」
そう言い終えると同時に、拓人は心に大きな衝撃を受けた。
”お遊び”、”こんなところにいたらダメ”、”もっと輝ける場所で羽ばたける”
そんな言葉たちが、拓人の頭の中を彷徨いはじめた。
拓人「(確かにこの部活は、俺が原因で創られた部活だ。
お遊びって言われても過言ではないし、ベル以外にも、夏美や茜、初音だってこんなところよりも
もっと活躍できる部活なんていくらでもある。
だけど、夏美たちがここにいるのは......間違いなく俺が原因だ)」
そんなことを思うと、拓人はいたたまれない気持ちで、この状況で突っ立っているしかなかった。
そんな拓人を察するかのように、ベルははっきりとした声で、先輩に向けてこう告げた。
ベル「わたくしはこの部活をやめることはありませんわ、
そして、今さっきの言葉、撤回していただきます! この部活はお遊びなんかじゃありません!」
ベルがそんなことを言ったことに、拓人はただただ呆然としていることしかできなかった。
そんなベルの言葉を聞いて、さすがの先輩もおだやかにはいかなかった。
女子A「だから......こんなところにいたってあなたは輝けないのよ!
あなたほどの能力を持つ人が、こんなところにいたってなにもならないのよ!」
美雪「それは違います!」
先輩の言葉に、真っ先に反論したのは、ベルでも夏美でも拓人でもなく、美雪だった。
美雪「ベル様は......この部活でご主人様と居てとても輝いてます! 嫉妬するぐらい!
ご主人様といるときはいつもいつも嬉しそうに微笑んで、積極的にアピールして、
必死にご主人様のことを振り向かそうとして......
こんなにベル様にとって輝ける場所は、ここしかないと思います!」
美雪はそう言い終えると、はぁはぁと息切れしていた。
しかし、ベルをこの部活にとどまらせたいという気持ちは、これまでかというほど分かった。
ベル「美雪さん......」
女子A「なによ、こんな部活でどうやって輝けるというの?」
その先輩の質問に、拓人は一歩前に出て答えた。
拓人「ベ、ベルの気持ちもちゃんと考えてやってください!」
女子A「なんですかあなたは?」
拓人「えっ!? いや、その、なんというか......同じ部員で......」
女子A「じゃあ部員はとっとと引っ込んでて!」
拓人「は、はい!」
先輩の威圧的な言動と態度に、拓人はすっかりと呑まれていった。
その拓人の姿を見て、やれやれと鼻で息を吐いてから、夏美は先輩にこう言った。
夏美「あの、私一応この部活の部長やってまして、その部員が引き抜かれようとなると、
さすがに私も黙ってられませんね......拓人も言った通り、
ベルの考えをちゃんと聞いたらどうですか、先輩?」
そして、夏美はベルの方に顔を向けると、一回頭を頷かせた。
ベル「わたくしは......わたくしはこの部活にいたいです!」
そのベルの声はとても透き通っていて、先輩の心にも十分に聞こえただろう。
女子A「......どうなっても知らないわよ」
そう捨て台詞を言い残して、先輩はそそくさと部室を後にした。
茜「やっと行ったわね......一体何だったの?」
初音「スカウトだよね、あれ」
夏美「まあ、とりあえず行ったからいいじゃない、それに......」
そう言うと、夏美はベルたちの方を指さした。
ベル「あ、あの美雪さん......今さっきはすみませんでしたわ!」
美雪「......! こちらこそ、本当に申し訳ありませんでした!」
そう言うと、二人お互い頭を下げて謝った。
ベル「美雪さん、わたくしはあなたのことを見誤ったそうですわね......」
美雪「私もベル様のことは勘違いしてました」
ベル&美雪「......ふ、ふふふふふ」
美雪が言い終えると、二人は一緒にして笑った。
夏美「どうやら仲直りしたみたいね」
茜「一件落着~」
初音「ことが大きくならなくてよかったね!」
そう言うと、夏美たちも安堵の表情を浮かべて微笑みあった。
だがその時間も束の間、またガチャと扉が開く音がした。
花山先生「冬野さ~ん、入部の件、完了しました!」
夏美たち「「「「......え?」」」」
夏美たちは、何がなんだか、よくわからないでいた。
ベル「美雪さん、この部活に入部しますの?」
美雪「はい、昼休み終了後に花山先生に入部届を提出しました!」
茜「拓人、あなたはそれ知ってたの?」
拓人「いや......初耳だな」
美雪「当たり前です、サプライズですから!」
美雪はそう言い終えると、満更でもなさそうな笑顔で「ふふふ」と微笑んだ。
ベル「あら、これから色々大変そうになりますわね?」
美雪「これからもよろしくお願いしますね? 皆さん」
美雪の入部が決まって、ベルも他のみんなも、嬉しそうにそれを歓迎した。
それに、美雪もとても嬉しそうだったのは、拓人からでも分かった。
しかし、拓人は、あの先輩と話した後からずっと自分のことを責めていた。
拓人「(結局俺は、ベルたちの役に立てなかった......
このままで、俺はいいんだろうか? もっと、あいつらを守れるような存在に、俺はなれるのか?)」
拓人は、そんなことを考えながらも、美雪の入部を祝った。
しかし、拓人の様子がその時変だと思ったものは、その時は誰もいなかった。
美雪が会話部に入部しました!
これからまた騒がしくなりますね~
これからも応援よろしくお願いします!




