18話 可憐な来訪者
18話 可憐な来訪者
拓人「............」
桜「............」
誠二「............」
食卓に囲まれている豪勢な料理を、無言で食べる拓人たち。
拓人の隣には桜が座っており、拓人の向かい側に誠二が座っている。
拓人と桜の後ろには美雪が立っているが、誠二の後ろには約20人ものメイドが居座っている。
親子水入らずであるというのに、まるで葬式の後のような思い雰囲気がこの部屋に漂う。
未だかつてこんな重苦しい食卓はあるのだろうか。
その静寂な部屋の中、誠二は口を開いた。
誠二「拓人、お前最近花咲学園の高等部に進学したのか」
拓人「......はい」
誠二「どうだ、生活に支障が出るようなことは起きていないか、
もし起きていたら、早急に絶やさねばならん」
拓人「別に起きてません、父さんは首をつっこまないでください」
誠二の親バカとも取れるこの会話は、本当はそんなものなのではない。
大切な”次期朝峰財閥の跡取り”としての現社長の心配なのだ。
決して”父”と”子”の会話などではない。
誠二「それで拓人、お前はなんの部活に入ることにしたんだ」
拓人「............」
そろそろ誠二の過剰な質問攻めにもうんざりしてきた拓人は、ふと桜の方へ目を向ける。
桜はなんとも言えぬ寂しげな表情を浮かべ、目の前にある料理を頬張っていた。
その桜の姿に、兄としての情けなさを改めて感じ、拓人は誠二の質問を無視して桜の話題をふった。
拓人「そういえば、桜このあいだの剣道の全国大会で優勝したらしいな!
本当に桜はすごいな、兄ちゃんとして誇りに思うぞ!」
桜「え!? あ、ああ......うん......ありがと」
突然桜は自分の話題を振られたので、思わず動揺を隠せない桜。
何故拓人がこのタイミングで桜の話題を振ったのか、桜自身分からなかったが、
とりあえず拓人が褒めてくれたことに関しては嬉しかったようで少し顔が赤くなっている。
誠二「そうか、まあ当然だろう。朝峰の字を汚さぬようよう頑張るんだな」
桜「......はい、お父様」
嬉しがっていたのも束の間、今度は誠二から全然誉め言葉とは思えないような言葉が返ってきた。
その返事に、すこし寂しさを憶えながら言った桜。
その桜を見て、すかさずフォローを入れる拓人。
拓人「桜? お前はなんも考えずに楽しくやっていけばいいんだからな?
家のこととか、そんなことは忘れて自分がやりたいようにやればいいさ、兄ちゃん協力するからさ」
拓人は、優しくとても落ち着いた口調で桜にそう告げた。
そう言われた桜は「うん」とだけ呟いて、頬を若干赤く染めながら俯いた。
誠二「まったく、お前は”あいつ”みたいなことを言うようになったな......」
拓人「ん?」
誠二は、拓人や桜、それに数多くいるメイドにも聞こえないような声でそう呟いた。
そして次の瞬間、誠二は一回拳で思い切り机をたたき、拓人たちの視線を集めた。
誠二「拓人! お前にはまだ”跡継ぎ”としての自覚が足りないようだな!」
そういう誠二は、目を鋭く拓人に向け、鬼の形相で拓人に言い寄る。
誠二「いいか! 朝峰というのは、昔から受け継がれた伝統と地位がある、
それに私が今まで積み上げてきた権力だってある。
それを忘れて楽しめだ? ふざけるな!
朝峰の次期当主としてお前は未熟だ......
まあ、所詮お前は朝峰財閥の”道具”に過ぎないのだがな」
誠二の言い放った最後の一言に、桜は席を立ちあがって顔を俯かせたままこう言った。
桜「最後の一言......取り消してください!
兄さんは道具なんかじゃありません、私の......たった一人の兄さんです!」
そう告げた桜の目は、涙を必死にこらえて、体も震えていた。
その桜を察するように、拓人も席を立ち桜を落ち着かせて座らせた。
拓人「今さっきの俺の失言、すみませんでした。まだ朝峰家の自覚が足りませんでした」
そう言うと拓人は誠二の前で頭を下げた。
桜「兄さん......」
誠二「ふん、まあいい......それより」
拓人の謝罪を軽く流してから、今度は涙が今でも流れ出すような桜の方を向いてこう告げた。
誠二「桜、お前はなぜこいつが次期社長になることを承認したか、知っているか?」
その誠二の問いに、拓人は目を見開き、体を前のめりにして誠二に言い寄る。
拓人「おい! それは桜のまえでは言わない約束だったろうが!」
誠二「お前は少し黙っていろ!」
拓人「......!」
誠二の気迫に負け、これ以上に何も言えなくなってしまった拓人。
そして当の桜は、そんな拓人と誠二の会話を不思議そうに眺めていた。
その様子を見て、誠二は少し口を歪ませてから、桜にさらに言った。
誠二「そうか、それじゃあ拓人がなぜその話を断らなかったのか、説明してやる」
拓人「............」
誠二が今から話そうとしていることは、拓人には安易に想像できた。
そしてそれは、決して妹の桜には知られてはいけない誠二との”約束”だった。
誠二がゆっくりと口を開き、その”約束”の内容を桜に言う......その瞬間だった。
ピンポーーン
部屋に、玄関のチャイムの音が、音大きく響き渡る。
こんな時間に来客者なんて、正直誰が来たのかの見当は全然つかなかったが、
とりあえずこの絶好なタイミングでチャイムを鳴らしてくれたことに、拓人は大きく安堵した。
拓人「美雪、すまないが今来た来客者の対応に行ってくれないか?」
美雪「分かりました、ご主人様」
拓人はそう美雪に告げ、美雪を玄関へと行かせた。
誠二「......ふん、今回はここまでにしておく」
拓人「............」
誠二はそう言うと、口元をいかにも高級そうなタオルで拭いた。
やはりこの人は油断ならない......拓人は改めて、誠二の恐ろしさと威厳さに気づいた。
桜は少しもったいなさげな顔を浮かべると、今度は不安そうに拓人の方を見つめてきた。
その桜の頭に、ポンと手を置き、撫でてながら拓人は明るい声でこう言った。
拓人「桜が心配することなんてなんもないんだからな?」
そう言うと、拓人は撫でる手を止めてからニコッと桜の前で笑うのだった。
桜「もう......兄さん......」
拓人が無理に笑ってこうやって言ってくれることは、桜にはもうとっくに分かっているのだが、
桜はこれが拓人なりの”優しさ”なんだと思い、これ以上は言及しないようにした。
美雪が玄関に行ってからおよそ5分、一向に帰ってこない美雪を拓人は心配そうにしていた。
拓人「美雪、遅いな......ちょっと行ってくる」
拓人はそう告げると、部屋を後にして玄関へと向かった。
玄関に近くなってくると、少し話声が聞こえてきてので、さらに心配になって走っていくと......
??「あなたは誰ですの!? 早く拓人さんに会わせてくださいな!」
美雪「あなたたちこそ誰ですか! あなたたちにご主人様は会わせられません」
??「ご主人様? それってまさか、拓人のこと!?」
美雪「当たり前です。私のご主人様は他ならぬ朝峰拓人さんだけです!」
美雪と激しく言論していたのは、普段良く見慣れた人たちだった。
拓人「待て待て、美雪、一旦落ち着け。こいつらは俺の学校の友達だ」
拓人の登場に、その来訪者たちは一斉に喜んだ。
美雪「!? そうでしたか......大変ご無礼すみませんでした」
拓人「俺からも謝るよ、みんな」
夏美「別にいいよ、誤解も解けたことだし」
ベル「拓人さんに会えて嬉しいですわ」
茜「それにしても、家大きいわね~」
初音「ホントだね!」
その来訪者......それは、夏美たちだった。
拓人「それにしても、なんで夏美たちが俺の家に来たんだ?」
拓人は素直な質問を夏美たちにぶつける。
夏美「ああ、それは......」
そう夏美が言うと、ここに来るまでの経緯を教えてくれた。
~~今日の放課後~~
初音「それじゃあさ、拓人に家に行ってみない?
もしお父さんが来ていたとしても、その時は友達ですって言って入ればいいし、
そしたら拓人も少しは気が楽になると思うんだけど......」
ベル「それ、いい考えですわね!」
初音「うん、私もそうしたい!」
夏美「......分かったわ」、それじゃあ今日行きましょう」
~~回想終わり~~
夏美「......ってことなのよ」
拓人「そういうことだったのか......ごめんな、心配かけて」
ベル「どうってことないですわ! 拓人さんのためなら、どんなこともやってのけますわ!」
拓人「あ、あははは......ありがとう」
茜「べ、別に拓人のために来たわけじゃ、ないんだからね!」
拓人「うん......それでも嬉しいよ」
初音「ボクたちこそ、迷惑じゃなかったかな?」
拓人「ううん、いらっしゃい」
その不安げな表情で聞く初音に、拓人は歩み寄って初音の頭を撫でた。
初音「//////」
拓人「ん、どうした?」
初音の顔がものすごく赤くなっていることに気づき、初音の顔を覗く拓人。
初音「い、いや......その......急に頭......撫でられたから//////」
拓人「あー、なんか初音の顔を見たらついついやりたくなっちゃって......迷惑だったか?」
初音「ううん! そんなこと全然思ってないよ! むしろ......気持ち良くて、いいかも」
拓人「ん?」
初音が最後にボソボソッと言った言葉を拓人はうまく聞き取れなかった。
そんな拓人と初音を見て、他の女の子も当然羨ましくその光景を見る。
ベル「拓人さん!? 私にもなでなでしてもらいたいですわ!」
茜「初音にだけやるのはずるいわ!」
美雪「ご主人様......私にも、この冬野美雪にも頭を撫でてください!」
夏美「ちょ、ちょっとあなたたち......!」
拓人「うわ!?」
ベルと茜と美雪は、拓人の胸めがけて一斉に飛び込んだ。
そして、拓人は3人が胸に飛び込んできたのを受けとめきれず、そのまま床に転倒した。
拓人「いたた......ん? またあの時と同じ感覚......けど少し小さい......」
拓人は倒れてから、自分の両手にある本当にかすかにある弾力を揉んでいた。
そして、拓人はふと思い出す。
この弾力、この柔らかさ、そしてこの感覚......
拓人「まさか!」
拓人が気づいたのはもう手遅れだった。
茜「んっ......あ////ダ、ダメ......そんなに......揉まないで......!//////」
拓人「あ、茜!////」
拓人は、しっかりと両手を茜の胸に掴んでいた。
そして、拓人は状況を把握すると、すぐに茜の胸から手を離した。
拓人「ご、ごめん!////わ、わざとじゃないんだ!」
拓人は慌てて立ち上がって、かろうじて座っている茜にぺこぺこと何度も頭を下げた。
茜「も、もう......本当に拓人は......!//////」
茜は涙目になりながら、拓人にそう言った。
そして、拓人は、今度こそヤバい......と、
後ろで拳を握りしめている4人の姿を、しばらく見ることはできなかった。
拓人「......というわけで、着いた」
拓人は、へとへとになりながら、ようやく誠二と桜がいる部屋に着いた。
あの後、結局拓人は4人からキツイお説教を受けたばかりなので、正直疲れ切っていた。
夏美「それで......お父様、いるんでしょ?」
拓人「......ああ」
拓人の返事に、みんな顔をがこわばる。
拓人「じゃあ、開けるぞ」
拓人はゆっくりと扉を開けて、夏美たちを案内した。
夏美たち「「「「............」」」」
拓人「父さん......みんなは俺の友達だ」
そう言って、拓人は夏美たちを誠二に紹介した。
夏美「上原夏美です、よろしくお願いします」
茜「こんにちは、雨宮茜です」
初音「ボクは如月初音です、はじめまして」
ベル「わたくしはオーランド・ベルです、よろしくお願いしますわ」
誠二「......私は朝峰誠二だ、拓人がいつも世話になってる」
誠二は、少し表情を鋭くしてから、自分の自己紹介をした。
誠二「それじゃあ......拓人、私はそろそろ家を出る。
あとはこの来客者とお話でもしときなさい」
拓人「......わかりました」
そう言うと、誠二は席を立ち、メイドたちを連れて扉に向かっていった。
そして、誠二が扉の奥側に行こうとした瞬間、誠二はそっと立ち止まり、ベルの方を向いた。
誠二「オーランド・ベルと言ったな? オーランドからの刺客か偵察かは知らんが......、
朝峰家の大事な”道具”にあまり深くかかわらないようにしていただきたい」
ベル「!?」
誠二はそう言うと、振り向きざまにかすかに笑い、この部屋を後にした。
ベル「............」
拓人「......ベル? あいつの言うことなんて気にしないでいいんだからな?」
ベル「完全に忘れていましたわ......わたくしがオーランド家の者だったと、
もしわかっていたら......拓人さんがあんなこと言われなくて済みましたのに......」
ベルは、瞳を潤わせながら、必死に言葉を紡いで拓人にそう言った。
その拓人は、ゆっくりと落ち着いた口調でベルにこう告げた。
拓人「ベルのせいなんかじゃないよ。それに、俺は大丈夫だから」
その言葉に、ベルは少し救われたよな気がした。
しかし、今さっきの誠二の言葉は、想像以上に夏美たちにとっては衝撃的で、
夏美たちはみな言葉を失い、桜や美雪も顔を俯かせている。
そんな重い空気が流れるこの部屋に嫌気がさしたのか、拓人は明かるげな声で言った。
拓人「もうこの話は終わりだ! さ、これから何しようか?」
拓人のその明るい声に、言葉を失っていた夏美たちも、顔を俯かせていた桜たちも、
お互いに反応して、少し緊張がほぐれたような気がした。
美雪「それでは......ご主人様、一つ提案があるのですが......」
拓人「ん、なんだ?」
美雪「この方々の関係性について、話し合うって言うのはどうでしょうか?」
拓人「ええ!?」
美雪はすこし怒りっぽく、桜はすこし不安そうに拓人のほうを見つめた。
夏美「それ、私も賛成」
拓人「え、夏美も?」
夏美「うん、私たちも、まだその”メイド”の正体分かってないし」
その夏美の言葉に、ベルたちもうんうんと同様に頷いた。
ベル「それじゃあ、はじめましょうか拓人さん?」
そして、拓人は椅子に座らされて、夏美たちとの関係性や美雪の存在など、
事細かく徹底的に絞らされた。
拓人「か、勘弁して......くれ」
拓人は、かすれた声でそう呟いたが、その声は誰にも届かず、
結局拓人がゆっくりできたのは、それからまた数時間後だった。
投稿遅れて本当に申し訳ありませんでした。
活動報告の方に書かせてもらったのですが、パソコンの不具合で色々と投稿できなくなりまして......
楽しみにしてくれた方々、本当にすみませんでした。
これからも「俺の非リア充生活は終わりを告げた。」をよろしくお願いします。




