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17話  兄の覚悟

17話  兄の覚悟


ピロピロピロリンピロピロピロリン

拓人「............」」


......ガチャ

目覚ましが鳴っている拓人の部屋に、メイド服を着た少女がやってきた。

美雪「ふふふ......本当に朝が弱いのですね......」

そういう美雪は、どこか色っぽい笑みを浮かべ、足音を立てないようにゆっくりと

寝ている拓人のそばに寄った。

今何故美雪が拓人の部屋にいるのか、それは単純に拓人が起きられないからである。

拓人曰く、朝は大嫌いで起きるのが憂鬱になるのだという。

そして、目覚まし如きでは、拓人は微動だにしていない。

なので、美雪や桜がこの時間になると拓人の部屋に来て起こしに来るのだが......


美雪「寝顔もかっこいいのですね、ご主人様......」

拓人の寝顔をじっくりと見て、拓人に呟く美雪。

そして、そう呟いた直後、美雪は寝ている拓人の上にゆっくりまたがった。

美雪「拓人さん、あと10秒後に起きなければ”熱い口付け”で起こしますね?」

美雪は、当然起きていない拓人にそう告げ、カウントダウンを始めた。

美雪「10......9......8......7......6......5......」

徐々に減っていくカウントダウンに、美雪の胸の鼓動も早くなる。

美雪「4......3......2......1......0......」

そして、ついに拓人は、カウントダウンが0になっても起きなかった。

美雪「本当にご主人様は罪なお方ですね? では、約束通り......」

自分が一方的に決めたことを”約束”と称し、美雪はゆっくりと顔を拓人に近づけていった。

美雪「//////」

あともう数センチで唇と唇がくっつく、その時だった。

だだだだだと、物凄い勢いで階段を上る音が聞こえてきた。

そして、その音の主はそのまま拓人の部屋のドアを開けた。

桜「こら~~~~! 美雪さん、何やってるんですか!」

その音の主、桜はぜぇぜぇと息を切らしながらも大きな声で美雪に詰め寄った。

美雪「あら? ご主人様を起こしにいってと言われたのでその通り起こそうと......」

桜「どこがですか! そんな態勢で言われても説得力ないです!///」

美雪「この態勢もご主人様を起こそうとしての結果ですよ?」


拓人「......ん、んん......?」


桜と美雪の論争に、ようやく重い瞼をゆっくりと開けた拓人。

美雪「あ! ご主人様、おはようございます!」

拓人「おはよ......って! なんで美雪が俺の体の上でまたがってるんだ!」

拓人は状況をつかめずにいた。

拓人「(何かうるさいなと目を開けたら、桜と美雪が論争を繰り広げているし、

美雪が頬を赤くして挨拶をしてくるし......)」

そんな戸惑いを隠せない拓人にに、桜は呆れた顔で言った。

桜「兄さん、もう朝だよ? 早く下に降りて朝ごはん食べてきて」

そして、俺にそう言い終えた後、桜は美雪を見つめて美雪の手を引きながら言った。

桜「それと、美雪さんには手伝ってもらいたいことがあるのでついてきてください!」

美雪「あ、ちょっと桜様!? ご主人様助けて~~!」

強引に桜から俺の部屋を出て行かされ、拓人に助けを求める美雪であったが、

そういう拓人は大きいあくびをして、頭を掻きながら下に降りる準備をしていた。

そして、制服に着替えてからいつものネックレスを付け、朝ごはんを食べてから

洗面などして、そう間もないうちに学校に行く時間になった。

拓人「んじゃあ行ってくる、今日は早く帰ってくるから」

桜「行ってきます、美雪さん」

美雪「はい、わかりました。いってらっしゃいませ、ご主人様、桜様」

そう玄関で美雪に言い終えると、拓人と桜はお互いに花咲学園へと一緒に向かうのであった。




キーンコーンカーンコーン


4時間目を終わらすチャイムの音が鳴り、その音と一緒に拓人は大きなのびをした。

生徒が先生に礼をしてから、夏美たちが一斉に拓人の方にやってきた。

夏美「拓人! 今日は部室で食べない?」

ベル「拓人さん! 今日は部室でランチタイムを過ごしません事?」

その誘いに、茜と初音もうんうんとすごい勢いで頷く。

あまりにも気合というか気迫がいつもより違うので、拓人はすこし黙ってしまった。

拓人「え......あ、ああ、いいぜ」

拓人の返事を聞くや否や四人は安心したようにそっと息をついた。

初音「それじゃあ行こうか、拓人?」

拓人「お!? おい」

初音はそう言うと、拓人の腕をぐっと自分の胸に押し付けて、にっこりと拓人の方を見た。

夏美「な! 拓人......!」

茜「何やってるのよ初音!」

ベル「わ、わたくしの拓人さんから離れてください!」

初音の行動に、夏美たちはそれぞれ顔を赤くしながら反応した。

その初音はいうと、自信満々な顔であいかわらず拓人の腕を離さないでいた。

そして拓人は顔を赤くして腕を掴まれたままでいた。


そんな拓人を見て......

夏美「拓人の変態!」

茜「鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ!」

ベル「拓人さん、後でわたくしにもやらせてくださいね......?」

拓人「勘弁してくれ~~!」

こんなことがありつつ、部室に着いたのは四時間目が終わってから15分後なのであった。



拓人「......それで、なんで部室で食べるってことになったんだ?」

拓人は桜が作ってくれたお弁当を食べながら夏美たちに聞いた。

夏美「いや、まあその......私たちで話し合って......」

拓人「ん? 何をだ?」

その質問に夏美は少々間をあけてから答えた。

夏美「これから......昼食は部室でみんなで食べない?」

そういう夏美は、顔を赤くしながらも、拓人の顔を見据えてそう言った。

ベルたちも真剣な顔で拓人を見つめていた。

拓人「なんだそんなことか、だったら全然いいぜ!」

拓人はそう笑顔で返事をすると、またお弁当の具材を食べ始めた。

その返事を聞いて、安堵した四人であったが、また顔を曇らし拓人に聞いた。

夏美「実はもうひとつ、理由があって......」

その言葉に、拓人は首をかしげながら黙って聞いていた。

ベル「その、今日の拓人さん......なんだか元気がないと思いまして」

拓人「......!」

その言葉に、拓人は小さな衝撃を受けた。

茜「だから、拓人になんかあったんじゃないかって......」

拓人は驚いて鳥肌まで立っていたが、夏美たちの言うことを静かに聞いた。

初音「拓人、何かボクたちに隠してること......ない?」

拓人「............」

その質問に、拓人はすぐに答えることはできなかった。


拓人「(今日、父さんが来る。それがとても嫌悪で怖いだなんて、言えるはずがなかった。

それに、俺は夏美たちに心配されないために普段通りの振る舞いをしていたはずだ。

それなのに、俺が元気がないと見破った夏美たちには......敵わないな)」


拓人はそう四人に感心すると同時に、自分に情けなさを憶えた。

夏美「それで......どうなの?」

もう一度来た同じ質問に、拓人はこう答えた。

拓人「ご、ごめんな、そんな気遣わせちゃって......

俺は元気だぜ! だから、心配しないで早くお弁当食おう?」

夏美「そ、そう......じゃあこの話は終わりで! さ、みんなで食べましょ!」

なんとか話しを逸らしたのが功を奏したのか、夏美が無理矢理この話を終わりにした。

危ないところだったと、拓人はそっと息を吐いた。


結局、その後も多少ドタバタはあったものの、無事昼食を終えて教室に戻った。

教室に帰っている途中、俺はああそうだと思い出して、夏美たちの方に目を向ける。

拓人「そういえば、俺今日部活出れないから」

夏美「え、部活来ないの?」

俺の言葉に夏美はすかさず反応する。

ベルたちも、俺の顔を見て心配そうに見つめる。

拓人「今日はちょっと用があるからな......悪い」

夏美「あ、ううん。わかった、じゃあ今回は拓人抜きの部活だね......」

そういうと、夏美たちはみんな寂しげな表情を顔にした。

俺はその四人にとてつもないうしろめたさを感じながらも、一緒に教室へと戻った。



キーンコーンカーンコーン


6時間目が終了して、掃除当番が今掃除をしているところ。

ふいに拓人の席を見たが、授業終わってすぐに帰ったみたい。

拓人の机を見て、どうしたんだろうと考えていると、夏美、と私の名前を呼んだ声が聞こえた。

その聞こえた方向に顔を向けると......

茜「夏美! ちょっと話があるんだけど......」

その声は茜のものだった。

茜の顔は真剣で、私に話したいことには、だいたい見当がついた。

夏美「拓人......のことでしょ?」

私が言うと、茜は赤面して俯きながらこくこくと小さく頭を縦に振った。

私もみんなと相談したいことがあったので、いい機会だと思ってベルと初音も呼んでから話した。

夏美「部室に行かない? 今日の部活動は、結構忙しいかもね」

その言葉を聞き、ベルたちは一様に頭を頷き、会話コミュニケーション部の部室に足を運んだ。

夏美「......それで、どう思う? 今日の拓人」

茜「うん......やっぱりいつもの拓人じゃなかったよね......」

ベル「そうですわね、あの時の質問もうまくごまかされましたし......」

部室では、今日の拓人について話されていた。

初音「それに、どこか無理して笑っていたところもあった」

夏美「そうね、とりあえず今日の拓人は様子がおかしかったわ」

その夏美の発言に、ベルたちも賛成した。

そこに、夏美が一つ気になったことをしゃべり始めた。

夏美「実は1回ああいう時の拓人、見たことあるの」

その発言に、ベルたちはホントに?! と口には出していなかったが顔には出ていた。

夏美「確か、あの時は拓人のお父さんが家に来ていた時だったような......」

夏美が言ったことに、大きな疑問符が頭に浮かぶベルたち。


ベル「なぜお父様が来たらあんな拓人さんになってしまうのですか?」

そのベルの質問に、夏美はゆっくりと口を開いてからこう答えた。

夏美「拓人が朝峰財閥の御曹司だってことは、みんな知っているでしょう?

その朝峰財閥の社長が、拓人のお父様である朝峰誠二って人なの。

その朝峰誠二って人は、業界でも有名なほど仕事に厳しい人で、容赦ないの。

だから、家族よりなんでも、仕事を優先してきた人なのよ。

昔、拓人のお母さんが若くして亡くなった時に、当時朝峰誠二は仕事でアメリカにいて、

急げば葬式には間に合ったはずだったのに、彼は葬式より仕事を優先して帰ってこなかったの。

それが拓人には許せられないことで、ずっとお父さんに嫌悪感を抱いてるって、

昔拓人から聞いたことがある」


夏美から聞いた拓人の過去を知って、ベルたちはみな顔を俯かせた。

普段あんな拓人なのにそんな過去があったのかと、ベルたちは驚きを隠せないでいた。

重い空気が部室に漂う中、初音はすっと席を立ち、その場で夏美たちに”ある提案”をした。

初音「それじゃあさ-------------------------------」

ベル「それ、いい考えですわね!」

茜「うん、私もそうしたい!」

夏美「......わかったわ、それじゃあ今日、行きましょう」

夏美の掛け声に、みな、はい! とか、おう! とか様々な返事があったが、

夏美らはなにやら”ある提案”を実行する形で、話を進めていた。

”ある提案”とは何か、それは後に明らかになることだろう............


一方その頃拓人は......


拓人「それで、部活はやっぱり剣道部にするのか?」

桜「うん、たぶんそうかな......」

拓人「そっか......」

学校の帰り道、拓人は桜と一緒に長い一本道を歩いていた。

普段であれば、他愛もない話などで会話が途切れることはないのだが、さすがに今日は日が日なので、

拓人も桜も、何を話せばいいのか迷っていた。

拓人は、次は何を話そうかと、試しに桜を見てみた。

すると、拓人から見た桜は、かすかに体を震わせていた。

本当にかすかではあるが、確かに震えていた。

その震えは他でもない父親の誠二への恐怖からだと察し、

そんな桜を見て、拓人は優しく言葉を口にした。

拓人「桜? 桜が不安がることはないんだぞ? 兄ちゃんがついてるから」

桜「兄さん......」

拓人の言葉に、少しだけ平常を取り戻した桜。

それでも少しだけ震えは消えなかったので、拓人はある行動に出た。

拓人「ほら、桜!」

桜「に、兄さん!?///」

拓人はそう言うと、桜の手を自ら取り、手を繋いだ。

拓人「桜は昔から怖がりだったからな、こうやってよく手を繋いでたんだ。

そしたら、桜いつも元気になって......懐かしいな」

桜「......」

拓人「でも、今はもう怖がりじゃないもんな、桜は」

そう笑顔で言って、拓人は桜の手を離した。

桜「あ......」

拓人「ごめんな、勝手なことしちゃって」

拓人は申し訳なさそうに笑うと、桜の前を歩いた。

桜「......ない」

拓人「ん?」

桜が何か言ったかと思い、後ろを向いた拓人に、今度は桜が拓人の手を取った。


桜「私、昔と変わってない。だから、昔みたいに......手、繋いで?」

桜は涙目になりながら、そう拓人に告げた。

驚いた拓人であったが、すぐにやさしい顔に戻り、桜の手をぎゅっと握り返してこう告げ返した。

拓人「まったく、仕方ないな。じゃあ家の前までな?」

桜「う、うん......やった!」

そうして桜も、拓人の手をぎゅっと握り返して、家の前まで手を繋いで帰った。


拓人たちは家の前まできて、お互いの手を離した。

そして、家の方に目を向けると、そこには大きなリムジンが停められていた。

桜「......お父様は、もうここに来てたのですね......」

拓人「......そうだな」

拓人はゆっくりと家の門を開けて、ゆっくりと家の扉まで進んだ。

そして、おそろおそる扉を開けてみると、

誠二「おお、おかえり、拓人、桜」

桜「ただいま帰りました、お父様......」

拓人「............」

誠二「......ふん、朝峰財閥の跡継ぎがこんな簡単な挨拶もできない......か、

少し生意気になったんじゃないのか? 拓人」

拓人「......そうかもしれませんね......お父様」

誠二「............」

拓人「............」


睨みあう拓人と誠二、それを心配そうに覗く桜の間に、不穏な風がビューと荒々しく吹き込んだ。
































今回はだいぶ長くなってしまいました。

ブクマ、感想、本当にありがとうございます!

これからも応援よろしくお願いします!

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