10話 ボクは女の子だよ?
10話 ボクは女の子だよ?
拓人「は、初音が女の子......?」
さっき、夏美たちの言ってたことを未だに信じられずにいた拓人。
屋上から帰っている途中に、一緒にいた真が、拓人に問いかける。
真「拓人,いい加減認めろって」
拓人「......いや、実は俺もそうなんじゃないかなって、
最近思ってたんだ」
真「んじゃあどうして信じられないんだよ?」
真の核心をつく質問にすこしばかり黙り込む拓人。
そして、しばらくしてからようやく口を開いた。
拓人「もし、初音が本当に女の子だったら、
俺は女子とあそこまで気が許せるってことになる......
けど......俺にはまだ女子に苦手意識はあるんだ」
真「......それで、結果何を言いたいんだ?」
拓人「初音は......ほかの女子とは違うんだ。
なんか、的確にここが違うとかは言えないんだけど......
女子と喋ってる気が全くなくて、普通に話せるんだ。
だから、俺はもしかしたら女子と普通に喋れるんじゃないかと思って、
クラスメイトの女子に頑張って話しかけてみたけど......やっぱり無理だった」
そういう拓人は、どこか寂し気な表情をしていた。
そうか、と背中を優しくたたく真に、拓人はさらに続けた。
拓人「だから、どうしても信じられないんだ、初音が女の子だって......
......だから、今日確かめてみるよ、実際に聞いてさ」
真「もし、本当に女の子だったらどうするんだ?」
拓人「......どうもしない......かな?
だって、初音とは......友達だしな!」
元気よくそう言う拓人に安心して、
またそうか、と言い優しく拓人の背中をたたく真であった。
がらがら
教室のドアを開けて、自分の席にゆっくりと向かう拓人。
そこへ、初音が走って歩み寄り驚いた表情で拓人に顔を向けた。
初音「あ! 拓人! どこにいたの? 探してたんだよ~?」
拓人「ん!? あ~ちょっとな......
それで、なんで俺を探してたんだ?」
初音「うん......実はね?
ボク、今日外で昼食を食べていたら、この子に会ったんだよ」
そういうと、初音は後ろから子猫を抱かせて拓人の前に出した。
拓人「ん......? 子猫?」
初音「そう! 子猫!」
初音の目をキラキラさせた無邪気な表情に、またドキッとしてしまった拓人は、
初音にある疑問をぶつける。
拓人「子猫に会ったっていうのは理解したけど......
それと俺を探してたのは、なにか意味があるのか?」
初音「大ありだよ! その、頼みがあって......
拓人にこの子猫、預かってほしいなって......」
拓人「この子猫をか!?」
初音「うん......無理......かな?」
拓人「わるい......俺の家にペットはダメなんだ......」
初音「そっか......」
俺の答えを聞いて、とても寂し気な表情をする初音のことを見ていられず、
俺はどうにか打開策を見つけようと、必死に頭の中の考えを巡らせていた。
そして......
拓人「あ! そうだ!」
初音「え! 何か思いついたのかい?!」
拓人「ああ! とっておきの考えだ!」
拓人の考えた、とっておきの考えというのが......
夏美「......それで、私にその子猫を飼ってほしいと?」
拓人「ああ、なんとかお願いできねーか?夏美?」
初音「ボクからもお願いするよ!」
拓人の考えとは、”夏美だったらなんとか預かってくれるのではないか大作戦”だった。
しかし、その大作戦も、早々と砕き散るのであった。
夏美「お願いを断る形で申し訳ないんだけど、私猫アレルギーなのよね......」
拓人「そ、そうだったのか!?」
夏美「ええ、だから預かりたいのはやまやまだけど、ごめんね?」
拓人「いや、夏美が謝ることじゃないよ、こっちこそ急に頼んでわるかったな」
夏美「べ、別にいいけど......///」
拓人「どうしたんだ?顔赤くして?」
夏美「もう! なんでもない!///」
夏美がなぜ顔を赤くしているのかは分からなかったが、
夏美が面倒を見れないとなると......
ベル「”わたくしにこの子猫の面倒をみてほしい”ですの?」
拓人「ああ、お願いできないか?」
ベル「拓人さんのお望みなら!......と言いたいところですけど......
わたくし、いまいち動物のお世話に自信がありませんの......
昔ハムスターのハムちゃんを飼っていたのですけれど、エサをあげすぎたせいで
すっかり太ってしまいまして、ハムちゃんがすっかり元気がなくなってしまいましたの。
ですので、この子猫ちゃんを思うのなら、わたくしに任せないほうがよろしいかと......」
拓人「ベル......悪いな、思い出したくないであろう過去を話さちまって、
でも、ありがとな? ベルがそんなにこの子猫のこと考えてくれて、俺嬉しいよ」
ベル「そ、そんな///とと、当然のことですわ///」
拓人「それでも、ありがとうな」
夏美が無理だったので、次はベルにお願いした。
でも、ベルがあそこまで子猫のことを考えてくれてのベルなりの答えだったので、
俺はそのベルの答えを尊重することにした。
夏美とベルがダメとなると......
茜「私に子猫の面倒を見てほしい?」
拓人「ああ、やっぱダメか?」
拓人自身ダメもとで聞いていたし、前の2人も無理だったので、
正直茜も無理かなと思っていた。しかし......
茜「いいわよ」
拓人「え!? 本当か?」
初音「ホント!?」
俺も初音もまさかのOKに驚きを隠せないでいた。
茜「私、こう見えて動物は結構好きなのよね~」
拓人「本当にありがとうな!」
そう言うと、拓人は茜の手を握った。
茜「べ、べつに拓人のためじゃないんだからね!
この子猫のためなんだから......///」
拓人「でも嬉しいから」
拓人の言葉にまた赤面し、「もう!」と照れる茜。
初音「お取込み中いいかな?」
その言葉を機に、茜は恥ずかしくなって素早く拓人の手をほどいた。
初音「では茜、子猫のことよろしく頼むよ、
お前もお利口にしとくんだぞ~」
初音はそう言って、茜に子猫を渡そうとした、が......
初音「離れない......」
拓人「というか、その子猫だいぶ初音になついてるな」
茜「そうね......一向に離れる気がないもんね」
拓人「実は茜が怖くて初音から離れられなかったり......」
茜「なんですって!? 拓人! 今なんて言ったの!」
拓人「悪い悪い! ......それより、本当にこの子猫どうする?」
初音「う~~~~~ん......」
茜「う~~~ん......あ、そうだ! 学校で飼えばいいんじゃない?」
拓人「学校で?」
茜の提案に、俺と初音に疑問が浮かび上がった。
初音「学校でって、教室で飼うってこと?」
茜「ちがうちがう! 校庭の隅っこに空きスペースがあるでしょ?
そこにその子猫のお家を作ってあげたらいいんじゃない?」
拓人「ああ~! それはいい考えだな!」
初音「うん、そうだね!」
俺と初音は、お互い目を合わせその提案に賛成した。
拓人「じゃあ、早速放課後にでも作るか!」
その拓人の言葉に、夏美とベルがやってきた。
夏美「拓人、わたしにもその子猫のお家作りの手伝いさせてくれるかな?」
拓人「夏美?」
夏美「ほら! その子猫のお世話私にもさせてほしいな......なんて」
ベル「わたくしも同じですわ! わたくしにもぜひ、その子猫の手伝いをさせてほしいですわ!」
拓人「夏美、ベル......! ありがとう!」
初音「ボクからもお礼を言うよ! 本当にありがとう!」
拓人「よし! それじゃあ放課後、校庭のあの空きスペースで待ちあわせて
お家作りをするとしよう!」
「「「「おお~~!」」」」
そうして、あっという間に5,6時間目が終わり、俺らは校庭の空きスペースに集合した。
拓人「それじゃあ、早速お家を作っていこうか!」
その拓人の言葉を最後に、拓人たちはお家作りに着手した。
そうして、お家作りからかれこれ1時間が経とうとしていた。
俺らはついにお家を完成させた。
段ボールで作られているので、見栄えはあまりいいものではないが、
屋根は段ボールを何層も重ねたので、雨対策はばっちりだ。
夏美「完成したわね!」
ベル「はい! わたくし的にはもうちょっと頑張れましたけど、
さすがに疲れましたのでここまでですわ」
茜「1時間ずっと作業してたもんね~......」
初音「けど、ようやくこの子のお家が完成したね!」
拓人「ああ、これもみんなのおかげだ! ありがとう!」
みんなのコメントを総まとめするように拓人がみんなに告げた。
初音「そんな! もともとはボクが拓人が頼んだばっかりに......」
拓人「けど、俺はそれを後悔なんかしてねーぜ?
逆にこういうのも面白くて楽しかったぜ!」
そう言う拓人は、初音に屈託のない笑顔を見せた。
その様子を、初音は見て呟いた。
初音「どうして君は、そこまでしてくれるんだい?」
その声を聞き、夏美たちが答える。
夏美「......あれが拓人だからよ」
ベル「自分のことより、困っている人を最優先してしまうのですわ、拓人さんは」
茜「そこが拓人の......いいところ......かな」
その言葉を聞いて、初音は拓人の顔を見ながら思った。
拓人は男の子の誰よりも心優しい男の子なのだと......
そんな拓人と巡り合えてよかったと、改めて思った初音であった。
茜「それで、ずっと気になってたんだけど、この子猫の名前ってあるの?」
拓人「あ~確かに、俺もずっと気になってた」
夏美もベルも同様にうんうんとうなづく。
茜「それで、初音? この子猫の名前はなに?」
そう言うと、みんな一斉に初音のほうに体を向ける。
初音「ボクもさっき思いついた名前なんだけど......結構気に入っているんだ!」
夏美「へ~? 早く教えなさいよ~!」
初音「うん! この子猫の名前は......タクト!」
「「「「......え?」」」」
初音の発言に、拓人たちは意味が分からないでいた。
夏美「た、たくと? この子猫の名前が?!」
初音「うん! なんだがとても似ていると思うんだ、拓人とタクトは」
ベル「ま、まあ~分からなくもないですけれど......」
茜「うん......」
3人の感想はいまいち......だった。
まあ、それもそうだろう。想い人の名前を子猫の名前にして呼ぶのは、
あまりにも恥ずかしいのである。
初音「拓人はその、嫌かな?」
拓人「い、いや! い、いいんじゃねーか?」
初音「ホント!?」
拓人「あ、ああ......」
初音「ありがとう! タクトのこと、一生懸命お世話するから、
夏美たちもタクトのお世話よろしくね?」
この状況を知らない人にとって、この会話はどんな卑猥なものに聞こえるのだろうか。
知る由もない。
そんなことを思っていると、
夏美「ごめんなさい、私ちょっと教室に戻ってもいい?
荷物おいてきちゃったから!」
ベル「そういえばわたくしもでしたわ!」
茜「あー私もだー」
そういうと夏美は俺にウインクをして、初音のことを聞きなさいよと言わんばかりの
目配りをした。
まーじゃあおそらくこれは演技か、たしかに茜はあきらかに棒読みだったし......
でも、逆に言えば絶好のチャンスだ。
初音が本当に女の子かどうか確認する、絶好のチャンスだ。
俺はそのチャンスを逃すまいと、初音に言い寄った。
拓人「なあ、初音」
初音「ん? なんだい、拓人?」
そういう初音はタクトを持ち上げながら、俺の正面に立った。
拓人は一呼吸終えて、話し始めた。
拓人「すこし、おかしななことを聞いてもいいか?」
初音「うん、いいよ」
拓人「その、初音は......女の子なのか?」
細々しい声とは裏腹に、拓人の顔は真剣そのものだった。
その言葉を聞いて、少々驚きの顔を見せた初音であったが、
初音はこくりと頭を振り、口を開いた。
初音「うん、ボクは女の子だよ?」
その言葉を聞いて、俺はやっと初音が女の子であると認識した。
初音が女の子......だとすると俺は、女の子と喋れるのか?
いや、たぶん違う。
俺は初音だからこんな風に喋れるんだ。
それはきっと、俺と初音は友達だから......
二人の沈黙の間に、ミャ~と、タクトの鳴き声が誰もいない校庭に響いた。
過去最高に長くなってしまいましたね(笑)
今日アクセス数を見てたら総PVが1500を超えていました!
本当にありがとうございます!
これからも応援よろしくおねがいします!




