空の記憶線
気がついたら、走っていた。
暗い夜の道を独りで。
なんで走っているのかも、どこに向かえばいいのかもわからない。
呼吸が辛くなって走るのをやめた。
だが、それでも、記憶は戻らない。深淵の中へと、記憶は沈んでいく。ゆっくりとゆっくりと―
蝉も鳴き止み、夏の暑さが少し弱まった頃、橘直弥は新しい事件の捜査を夜遅くまでしていた。
「これで3件目か。犯人の手がかりも何もない」
この所猟奇殺人が多発していて、気がおかしくなりそうだ。
「橘先輩、そんなに焦っても仕方ないですよ。本当に何も手がかりもないし」
そう言うのは後輩の天城優だ。天城は俺の始めての後輩で何かといつも面倒をみている。
「分かっている。だが考えないと始まらない。そうやっていつも事件を解決してきたろう。しかも今回は大きいヤマだ」
「そうですね。でも先輩なんかこの事件猟奇的って言われていますけど、なんか俺にはそうは見ないんですよね」
「おかしなことをいうんだな」
「そうですか?最近こんな事件ばっかじゃないですか」
「確かにそうか」
俺が警察官になってからというもの、事件は毎日莫大な数起こっていて、日本もとても危ない国だと思ったことを思っていたのを思い出した。
「まぁ、お前の言う通りだ。今日は遅いし、帰るか」
「そうですね」
俺は後輩から少し宥められたこともあり、仕事をする気分ではなくなり、家へと帰った。
海老名駅の近くにそびえ立つ駅ビルやデパートのある所にマンションはある。
マンションは神奈川で栄えている駅の近くなので、新しくセキュリティもしっかりしている。
二重に掛かったロックを外し、家へと入る。
30を超えてまだ独身なので家には誰もいない。
別に出会いがなかった訳では無いが、仕事が忙しいことと仕事柄あまり女性と関わる機会が少なく、このようになってしまった。
「この生活も悪くないし、別にいいか」
最近はずっと捜査に打ち込んでいたので、はやく服を脱ぎ、ベッドへと入った。
朝起きてみると、天城から多くの着信が入っていた。
気になったので、掛けた。
「先輩遅すぎますよ。あんなに電話したのに」
「悪かった。昨日は何故か爆睡してしまった」
「爆睡?爆睡だったんですか?」
「そんな事はどうでもいいから用はなんだ」
急かすように言う。
「あ、事件ですよ!場所は神奈川県伊勢原の駅近くのアパートです。でも、もう現場に来て3時間くらいなんで帰ろうと思ってました」
「そうか。俺は家から近いから行こう。」
そうして、俺は現場へ向った。