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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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99話 今は過去の地続き

 王の命は誰の目にも続かないことは目に見えていた。

 なんとかかき集めた治療術士もそろって沈黙した。彼らの治療のアーティファクトではあくまでマナを活性化するものだ。

 諦めるとは口にしなかったが。

 後からやってきたオルキスも自前の回復薬を飲ませるものの痛みを和らげるだけで王の体内のマナが活性化の限界だと知らせる。


「もっと別の方法があれば……」


 オルキスは力不足を恨む。ヴィクターも王も助けられない。

 本人の治癒力の活性化では元が弱っていたら手の施しようがない。

 もしくはヨネアのような外部マナを用いたミディエイトくらいしかない。

 ここにはいないが、ただこの辺りのマナが著しく枯渇している現状では例えこの場にいたとしても希望はない。

 そう、例えば外部から直接傷を塞ぎ、出血も抑えるようなアーティファクトが必要だ。

 過去読んだ本に外科的治療法を述べた文書があったことを思い出したが、それはすでに失われた技術として紹介されていた。

 マナを活用する治療が主になったこの世界において人が人を物理的に治療する方法はリスクに合わずすたれていった技術など持ち合わせてはいなかった。

 

 それを思い出したことすら今の力不足を認めることになり、オルキスは歯を食いしばる。

 何を考えているのかわかるのかプルルはその姿を横で見上げていた。


「もう……良い」

 

 そう言ったのはむしろドニク王だった。

 弱々しい手をあげるとベアトリアはすぐに手を握る。


「お父様!」

 

 涙を包んだ腕を伝っていく。


「ベアトリア、母と似て美しく強い愛娘……次の時代はお前が継ぐのだ」


「何をおっしゃっているんですか! お父様は王としてこの国を導いてください!」


 望みはないにしてもあきらめてほしくない心情が口を出る。

 自分まで諦めてしまってはこの時間さえも終わってしまいそうだった。


「強くあれ……! クレスよ共にこの国を支えるのだ」

 

 ドニクの手に力が込められる。

 弱々しくも今ある力を振り絞るような微かな力に、ベアトリアははっとする。

 流れ落ちる涙を気力でせき止める。


「父上、その命しかと受けました。ベアトリア姉様と共に未来を築きます」


 ベアトリアも強く頷く。

 二人の顔を見て安心したのかドニクの顔は緩む。

 そして、後ろで立ち尽くしていたフィドルに目だけを向ける。

 こちらに来いと、フィドルは涙を見せなかった。

 頬には乱暴に拭ったような痕が残っていた。


「親父……、父上!」


 ベッドに横たわるドニクに膝を付く。

 すでに血の気は失せてきているものの知識のある人間にとっては奇跡にも近い時間だった。

 心の力がこの世界に繋ぎ止めている。伝えることをすべて伝えようと。


「フィドルよ。お前の成長が見れてよかった。よくぞ自分で立ち上がったな」


 まるで見てきたような言い方だ。

 淀みなく詰まることもなく話す様子は命を失うとはとても思えなかった。

 その顔は本当に嬉しそうに動かない顔を精一杯に笑顔を作る。


「はい……。遅くなりました」


 フィドルは何より嬉しかった。よかったと言ってくれただけでフィドルの後悔しそうになっていた心を前に向かせるに充分だった。


「お前はお前の信じる道を進め。それ以上は言わなくても今のフィドルならば心配いらんな」

 その後、ついに咳き込む。

 それでももう一人に言うことがあると、瞼を閉じたがなんとかまた光を映す。


「蒼の子に言わねばならぬ。これだけは……」


 ウィルは遠目で眺めいていただけだったが、フィドル達がこちらに振り返ったことに遅れて気づき、傍による。


「……やはり後悔しているのだな」


 ウィルは見透かされたことに驚き伏し目がちだった顔をようやくドニクに向く。


「言わずともわかる。だがこれは君のせいではない。なるべくしてなるのだ。わしがあの友人に攫われていなければ、どうなっていたか。考えるのだ。過去は変えられぬ、今を直視しなさい。何を失ったかより何を得て、守れたか……だ。私は後悔などしていない。むしろ喜ばしい。それを心に刻むのだ。昔に言われた君の父の言葉通りだがな……」


 たぶん、そんな堅苦しい言い方はしなかっただろうとウィルは思った。

 もっと砕けた適当な感じに言っていたはずだ。

 何かがすとんと落ちたように、自然に笑ってしまった。


そうだ。俺が言っていたことを俺が悩んでどうする。


「そうだ。前を向け。彼は楔で待っているよ」


 客観的には不謹慎と言われそうだったが、つきものが落ちたようなウィルにドニクは満足そうに微笑む。


「……待たせたな。ミラ。今行くよ……。子ども達よ、後は任せたぞ」


 ドニクは虚空を眺め迎えに身を任せるようにゆっくりと瞼を下した。

 握っていた手がすとんと落ち旅立ちを子ども達は見送った。


 ウィルは二つの光の塊が寄り添うように窓を抜けゆっくりと天へと向かうのを見送った。

 ニーアはダーナスに支えながら同じく窓を眺めていた。

 





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