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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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95話 惚気王女

 要塞は今までの長期戦が嘘のように兵の降伏で終わりを迎えた。

 ミリアンの兵士によると王はクレスとベアトリアによる共謀により崩御しローウェルと軍大将ヴィクターによって救われたと情報が流されており、彼らにとっては国を守る正義の戦いであったがそれも蒼眼の災厄と今まで表に出なかったフィドルの参戦とローウェル以外の王族全てが反旗を翻したことと、どこからか流された全てはローウェルによる企みであるとの情報が混乱を招き、兵士は降伏を選択したのだ。 


 休んでなどいられなかった。

 今の勢いをそのままに向かう必要がある。逃亡の可能性もあったのだ。


「フィドル!」


 小休止がてら要塞に足を止めていたフィドルに甲冑に身を包んだクレスと動きやすさからか要所要所を鎧で固めているベアトリアが弟に駆け寄る。


「姉上! 兄上!」


 フィドルの引き締まっていた表情が和らぎ再会を喜ぶ。


「よく間に合ったな。正直見直したぞ」


 クレスは心から弟の成長を喜んだ。

 合流こそすれどこの軍勢の先頭を率いるなど予想していなかったのだ。


「色々あってね」

 フィドルは評価されたことが嬉しく顔を緩める。


「ところで蒼の英雄は?」


 ベアトリアも微笑ましく眺めていたのだがふと思い出したように蒼の少年を探そうと周りを見渡す。


「え? ああ、それならあっちでーーって姉上!?」

 フィドルが指を指すやいなや早歩きで急造のテントの幕を勢いよく開ける。


「蒼の英雄殿!!」


「ねえ、もっかい言ってよ! ほらほら!」


「レイ、もう勘弁してくれよーーん?」


 どうやら降りたった時の口上が聞きたいようでレインシエルに請われており、周りの仲間もむしろ早くしろと急かしていたところに気にせず入り込んできた女性が何者か判断付く前に事は起きた。


「ベアトリーーああ!?」


 ウィルが名前を言う前にベアトリアはウィルに抱きついた。

 皆、目を丸くしたものの、一瞬にしてレインシエルとニーアそしてなぜかプルルまで顔を赤くして怒った。

 ダーナスとオルキスは出遅れたようで、ティアはこれはと記録を開始していた。


「ちょっと離れて!」

「ウィル兄のバカ!」

「ぷる、ぷるる!!」


 レインシエルが引き離そうとするもののベアトリアは離れない。


「姉上ーーって、何してんだあああ!」

「これは、これは」


 新たな乱入者フィドルが間に入ろうとしてくる。

 クレスは愉快と言わんばかりに遠巻きに見守っていた。

 それに感じるところがあったのかユーリはクレスと堅い握手を交わしていた。


「痛い、痛いって! 離れてくれ!」

 胸の感触は柔らかくなく、金属の膨らみがウィルの胸を圧迫していた。

 なんとか引き離すと名残惜しそうな顔を浮かべていた。


「これは失礼。少々舞い上がってしまいました」


 妖艶という言葉が正しいだろうか。

 ベアトリアは紅潮した顔でうっとりとした目をウィルに向ける。

 

「くっ! これが大人の魅力か……!」

 

 ウィルは胸の物理的な痛みよりも内側に来る何かにやられるように胸を押さえる。

 

「姉上、落ち着いてください。惚れやすいのは変わってないんだから」


 ベアトリアの惚れやすさは周知の事実だった。

 それは良いとしても惚れた途端、猛烈に迫るのが難点だった。

 幸いにも行き過ぎた恋心に男性の方から引くことが多く大事にはならなかった。


「ええ、私は落ち着いています。落ち着いていますとも!」


 ベアトリアは耐えられなかった。

 再び抱きつこうと迫ってくるが今度はニーアとレインシエルが立ちはだかった。


『落ち着いてない!!』


「ん、なんで傷増えてんだ……?」


 ひとしきり制裁を受けたウィルはその瞬間の記憶が抜け落ちよろよろと立ち上がる。

 見かねたオルキスが回復薬を飲ませる。


「ふふ、ライバルが多いようで燃えますわ」

 

 さすがに足を留め謎の闘志を二人に燃やす。


「ライバルって……!」

「兄姉! 兄だから!」


 ライバルという言葉に狼狽えるレインシエルとニーアに愉悦、余裕の表情をベアトリアは浮かべた。


「なんだ、なんの話だ?」


「うっさい!」


 当事者であるはずのウィルは振り向き様に怒号を浴びせられ、痛みが再び襲いそうだと本能的に引いた。


「姉上、そろそろお戯れはよしましょう」


 もっと早く止めに来られたはずのクレスはなお愉快そうな表情で姉を現実に引き戻す。


「分かっていますよ。後でなら……」


 後半は聞き逃したものの、ベアトリアはようやく表情を引き締めた。

 凛とした立ち姿は先ほどとは雲泥の差で威厳を漂わせる。

 その雰囲気にあてられニーア達も平静を取り戻す。


「蒼眼の英雄殿、神々しきエファンジュリア、そして勇敢な仲間達よ。改めてお礼を。よくぞ参戦をしていただきました。身内の醜い争いで大変申し訳ありません」


 ベアトリアは姿勢を正しウィル達に立て膝を付き頭を下げる。

 クレスも並び同様に頭を下げた。


「姉上、兄上!?」


 戸惑ったのはフィドルだった。

 王族が頭を下げるどころか膝を付くまですることが何を意味するのかフィドルにも分かっていた。

 周囲の取り巻きの兵士達も王族のその姿にウィルに対しての評価とその力の大きさを感じさせる。


「……礼ならこいつに言ってくれよ」


 ウィルはフィドルの服を引っ張り前に立たせる。


「お、おい……」


 顔を上げた取り巻き達の視線が集中する。

 ベアトリアとクレスは立ち上がると、ふっと笑みを浮かべる。


「皆の者! 我らに勝利をもたらした我が弟、フィドルである。此度の戦い、このフィドルがいなくては負けていた! 皆の先頭に立ち勇敢に我らを率いた勇ましきフィドルに敬意を!」


 ベアトリアがよく通る声で周囲の兵士を一瞥する。

 兵士達、元は戦っていた相手の兵士達も膝を付き敬意を姿勢で表した。

 誰も立っている者はいなかった。


 それほどまでにフィドルの功績は認められていた。


「ほらなんか言えよ」


 ウィルに背中を押され、フィドルは兵士に向かう。


「俺は第3王子フィドル・リード・ミリアン。俺はようやく自らの足でここに立つことができた。だが、まだ終わりじゃない。俺たちが向かいその足で立つのは城を取り戻し国を取り戻したその地だ! 身内の諍いに巻き込んだことは弁解のしようもない羞恥ではあるが、どうか今は俺たちと共に戦って欲しい! その足を奮い立たせ国の為に自らの家族のために共に行こう!!」


 一斉に兵士は立ち上がり一つの咆哮を上げる。

 本当の国を王子達と共に取り戻すと皆の視線は城へと向けられていた。



 

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