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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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94話 黒竜と共に蒼は降り立つ

 ミリアン東南部のフォートランドから北西を周りながらテイントリア大陸東部ミリアン国の北西部に位置する王都ミリアへと向かう。

 多少回り道はするが最終的にイシュミリアの直前でクレスとベアトリアの反乱軍に合流する作戦だった。


 イストエイジアは表だっての協力はできないがウィル達の支援ということでクレスとベアトリアの反乱軍に対して情報伝達をケインは申し出た。

 足並みをそろえ一気に攻勢をかける算段だ。


 当然その動きをミリアンは察知、増援が増しミリアに近くなるほど戦闘が激しくなっていった。



 王都ミリアの前哨基地、ロー要塞の攻略は厳しいものだった。

 日が天を回り切り下降を始める頃だった。


「姉上、戦況は思わしくありません。これ以上の長期戦は兵の士気に関わります」


 後方の陣にて第1王子クレス馬を走らせる。

 甲冑に身を包み、色の濃い茶髪をなびかせ同じ瞳で戦況の苦しさを馬に跨がった姉に伝える。


「それはこの目でもわかるほどですね」


 高台に位置する陣は要塞の攻防を一瞥できた。

 指揮はしやすいものの一向に要塞にとりつくこともできない現状を目の当たりにもしており、前髪に金が一房混ざったきめ細かな長髪が要塞から流れてくる風になびく。

 血の匂いまで感じるような殺伐とした風に忌々しそうに整った顔が歪む。


「弟はまだでしょうか」


 ふとケインというイストエイジアの軍人の情報を思い出す。

 弟の軍もこちらに向かっているはずだった。

 

「そのはずですが、いや、弟のことです。大事なところで覚悟ができていないのかもしれません」


 クレスが足踏みをする馬の(たてがみ)をさする。

 

「あなたは弟を過小評価していますよ。あの子のここ一番の強さは知っているでしょう。……信じましょう」


 ベアトリアは優しく微笑む。

 だが、戦況は思わしくない。

 少しでも増援を期待せざるを得なかった。


 飛空挺でもあればとは思うもののすべてミリアンに抑えられ、あげくはアストレムリの技術供与があるようで大型の砲台から迸る閃光によって近づくに近づけない。


「私も出ます」


 クレスは馬の腹を蹴り、頼みます、と言う姉に力強く頷くと方向を変え高台を降りようとする。

 王子が自ら前に出るのは士気を高める効果はあるもののそれほどの不利な状況ということも意味した。


「魔砲隊は攻撃を続けなさい! あの砲台を抑えるのです!」


 ベアトリアは後方の魔砲隊に指示し、砲台に攻撃し続けることで敵巨大砲台の閃光の標的を絞らせないようにしていた。

 しかし、マナが尽きるのも時間の問題で徐々に光の弾幕は薄くなっていく。

 マナが欠乏し倒れる者まで出る始末だった。


 それを知ってか知らずか砲台がベアトリアの方向へ顔を向ける。

 普通なら届かない距離ではあったが、要塞の主のようにそびえる巨大砲台ならそれも可能であるとは容易に想像できた。

 護衛達はベアトリアを逃がそうとするが、ベアトリアは凛としてその場を動かなかった。

 それに心を決めたのかベアトリアの前に同じくして立つ。


「……クレス。後は任せます」

 

 鎮魂歌のような唄が聞こえてくるほどに死を実感した。

 砲台が紫の光を存分に溜め、収束した後、大きさに似合わずチュンと軽い音の後、閃光が解き放たれた。

 唄に身を任せるように力を抜き目をつむる。

 一瞬、太陽の光を遮り影が落ちる。


 その影はなくなることはなかった。

 それは閃光の前へと突如現れ、閃光の輝きはベアトリアを照らすことはなかった。


 唄は鳴り止まない。

 それどころか空気が呼応するかのように広がりを強める。


 いつまでもこない死にベアトリアは痛みもなく死後の世界に行ったのかと、おそるおそる瞼を上げる。

 眼に映ったのはおよそ天国にふさわしくない翼を広げた漆黒の竜が背中を向けていた。


 何が起こったのかと考える前にその背中に乗った少年少女の背中が見えた。

 前を見据え、天の光を存分に身に浴びる彼らを天の遣いと見紛うほどに美しく思えた。


 『失せろ』


 低くしゃがれた声が竜の背中越しに聞こえた。

 どうやら竜そのものの声のようだった。

「黒竜ディアヴァロ……と蒼の英雄」


 噂には聞いていた、黒竜を従えし蒼の一派、それが背中に立つ黒髪の少年と歌い続ける少女だと。


 


 ディアヴァロは正面に巨大な黒玉を出現させると拡散しようとした閃光が引き寄せられるように黒玉に吸い込まれていく。

 収束していく閃光に反し黒玉は黒い閃光を迸らせ、巨大化していく。


 光を吸収し終わると閃光は闇へと変貌し禍々しい暴力的な閃光が砲台に向けて解き放たれた。

 増大した闇は砲台の比ではなく、闇に飲まれた。

 

 巨大砲台はその土台、要塞の壁を破壊するではなく完全に消失させた。

 壁の接合部は溶けた金属の如く大粒の水を落とす。


「だああああ! やりすぎだっての!」


 背中に乗ったウェルはその惨状に激怒した。


『何を言う。砲台と突破口である壁も消し去ってやったのだ。感謝して欲しいものだ蒼よ。後は人間達の仕事だ。行くぞ』

 ふん、と鼻を鳴らすディアヴァロは翼を羽ばたかせると要塞へと降下していく。

 同時に要塞に向かう一つの軍勢が森を抜け出し、全速力で前進していく。

 万にも届く軍勢を赤銅色の髪をなびかすフィドルが先頭で馬を駆り、敵へと切り込んでいった。

 戦意を黒竜に削がれていた敵はあっけなく瓦解する。

 元は同じミリアンの兵士と逃げまどう兵を追撃したりはしない、目指すは要塞と軍勢を切り裂いていく。 


「いきなり加速すんなって……」

 

 あわててしがみついたウィルは怒るよりも身の安全を優先した。

 フィドルの軍勢は当時は百ほどだったがいつの間にかあふれるほどの塊となっていた。

 彼らは皆、各都市でフィドルに従うと決めた者達だった。

 

「じゃあ、ニーアを頼むぞ」


 フィドルに併走するように飛んでいたディアヴァロは先頭を抜き敵のど真ん中で止まる。

 ウィルは背中を飛び乗り地面に降り立つ。


「て、何で敵にど真ん中なんだよ!」


 かっかっかと笑けるディアヴァロは上空に舞い上がっていく。

 ウィルの周囲を避けるように周りを兵が取り囲む。

 誰も攻撃をしかけてこなかった。


「お、おい、蒼眼の……」

 

 ウィルの蒼の瞳に気づいたのか兵士はおののく。

「だが一人だぞ。みる限り瞳だけが蒼いだけじゃないか」


 だんだんとウィルに対しての戦意が高められていく。

 じりじりと詰められていく空間、すると上空で響いていた唄が切り替わる。


 優しくも強い意志を持つ唄がウィルの周囲を輝かさせウィルを通して剣に蒼が伝っていく。


「恥ずかしいけど、やるか。俺はウィル! 俺は蒼眼、お前達にとっての災厄だ!」


 自分でも恥ずかしくなる台詞だったが、投げやりに剣を天へ穿つ。

 刀身から蒼の輝きが放たれる。雲はかき消え蒼天が輝く。


 その光景を眺めた兵士は、言葉を失った。

 ウィルは天を見上げる顔を下ろすことはできなかかった。

 どんな眼で見られているか不安でたまらなかったのだ。


 体感十秒、実際には一秒ほどだが、剣が地面に落ちる音が一つ聞こえるときっかけのように幾重にも増え兵は戦意を失った。


「あ、あれが蒼眼の災厄。エヴィヒカイトで一人で千人を屠ったという、勝てる訳がない……」

「ましてやエフェンジュリアもいやがる。竜を従わせるような奴が偽物なわけがない」


 尾鰭がついたような話に余計に顔をおろせなくなった。

 すると馬の足音が聞こえてきた。


「どけえ!」

 そこに入り込んできたのはフィドルだった。


「あれは第3王子フィドル様では……」


 兵士達は馬に乗る堂々とした人間を仰ぐ。

 フィドルはウィルに手を伸ばし、馬の後ろへと引き上げる。


「お前達! 何をしている! 敵を見間違えたか! どちら正義があるかよく考えることだ。流されるな考えろ! どちらが正しいか決めるのはお前達だ! オレと蒼の英雄に付いてくるならば……武器を城に向けろ! 共に国を取り戻そうとするならば胸を張れ! 誰も過去のことなど責めはしない、責めさせん!」


 フィドルは言い切ると要塞へと駆けていく。

 そして既に要塞へとたどり着いていたフィドルの軍に合流していった。


「あれがフィドル様なのか……? 噂ではあのような堂々と前に立つお人ではなかったはずだ」

「あれが、王子フィドル様か……」


 彼らは大勢に従っただけだった。

 国に従う彼らは王が誰であろうと従うのみだった。

 彼らはその後ろ姿を見送った。


 


  


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