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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
アストレムリにて
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9話 関門

 メレネイアは正直、驚いていた。

 王都までの道を進み、アネ、オルディア、カルディエーラ、ヒッセンニルスと各都市を経由し、もちろんその途中途中で魔物の襲来はあった。

 馬車を乗り継ぎ、ここま三ヶ月、非常に順調と言えるだろう。

 その三ヶ月でウィルは目覚ましい成長を遂げていた。


「ほいっ」


 コウモリのような羽が生えた空とぶ一つ目の魔物モノアイを切り裂く。

 三ヶ月前は何もできなかったウィルが、だ。


 レインシエルを師匠として戦闘経験を積み、三ヶ月である程度の魔物は倒せるようになっている。

 それがメレネイアには信じられないことだった。


 レインシエルには悪いが人に物を教えられるほど達人ではない。基本的な立ち回りくらいで、剣の扱いについても基礎の基礎だ。

 だが、ウィルはそんな状況にもかかわらず剣技としても確立するかもしれないところまで来ているのだ。

 おそらくしばらくすればレインシエルに並ぶ、いや抜かすだろうと感じていた。その動きは徐々に洗練され、成長しているというよりも戦い方を思い出しているような印象があった。そう感じるほどレインシエルの立ち回りを真似していたはずのウィルは独自の動きを確立していった。


 魔物を一掃し、魔物から売れそうなものを回収する。ウィルは一体の魔物を眺めているかと思うとそのまま空へと視線を上げる。それは時々ウィルが行っていることで、何かを見送っているかのような仕草だった。


「ところでいつも何を見ているのですか?」

 

 たまらずウィルに問いかける。


「光の粒子みたいなの見えないですか?」

 

 メレネイアもレインシエルも見渡してみるがそんなものは何も見えなかった。


「ウィル……今日は休んでいいよ?」

 

 かわいそうな人をみるような目でレインシエルはウィルへと問う。


「お、おう……そうします……」

 

 その目は納得がいってない様だったが、おとなしく引き下がったのだった。


 旅を始めて三ヶ月、ウィルはレインシエルの動きについていけるところまで自信を深めていた。一分一秒も無駄にはできない。

 ある意味この三ヶ月は必要な時間だったのだ。ニーアを助ける、ということには戦いがついてくると確信していた。だが、ウィルにはその戦いがこれまでと意味が変わってくるものであるとは、その時は気づいていなかった。


 それからしばらくして陽が沈みかけたころ、王都の玄関口である砦、ヘルトヴァイシュ砦が見えてきた。

 砦はあまりにも巨大でその先の王都をうかがいしることができない。それに人も増えてきた。ちらほらとアーティファクトを使用した、宙に浮く「フォーゲル」という乗り物も目にする。


「おお、あれが……」

 

 ウィルは目を輝かせる。見たことのない遺物が実用化され生活の一部となっているのだ。心が躍り荷馬車から顔を出しきょろきょろと回りを見渡す。


「なあ、あれは?」


 別の乗り物を発見したり、見たことのない大型の動物が大きな荷を牽引していたりと新たな発見があった。


「やめなよー、みっともない!」

 

 レインシエルは恥ずかしそうに顔を出すが、王都までは来たことがないらしく、横目でちらちらと景色を眺める。


 砦の入り口へ近づく、とたんに速度が落ちる。検閲のため列にならぶ。

 砦の外壁は滑らかなグレーで表面は薄く光の膜で覆われていた。メレネイアに聞くと、アーティファクト化された建造物だという。ますますアーティファクトが良くわからなくなるウィルはそれ以上考えるのをやめた。結局はプログラミングされているのだ。その方法も素材もよくわからなかったが。


 検閲が近づく。ウィルは急に不安になってきた。


「メル、問題なく通れるんですか?」


 そもそも自分たち、ウィルに至っては指名手配のようなものだ。すぐ見つかってつかまって終了ではないのか、直前に気づいたことに後悔が押し寄せてきた。


「ああ、それなら大丈夫かと思いますよ。ミュトスは軍とは一枚岩ではありませんし、このお祭り騒ぎです。おそらく顔は出回っていないはずです」


「本当に?」


 ウィルが不安の目で訴えると、メレネイアはにこっと女神のように微笑む。


「その時は、ウィルさんを囮にして私たちはその隙に入国してしまいますね」


「おお……さすがっす」


 薄ら寒いものを感じ奥に下がる。しばらくして順番が回ってきた。


「目的は?」


 黒い軍服の細い男が詰問しがたいの良い兵士は荷馬車と人間を確認してきた。兵士はレインシエルの顔を間近で覗き込む。鼻息がかかるほどの至近距離にレインシエルの顔は引きつっている。今に殴りかかりそうなほどに彼女の右手は固く握りしめられている。


「もちろん神託祭をこの目で見るためですわ。商売にもなりますしね」

 

 メレネイアが質問に答える。そして懐からなにやら書状を渡す。


「ん? 確認する、しばし待て」


 書状を確認し、うなずくと書状をメレネイアに返した。


「ふむ、アルフレド商会か、許可状は問題ないが、かの商会は辺境での取引が主だと聞いたが?」

 

 検閲官の華奢な男がいぶかしげな目を向ける。


「神託祭もそうですが、辺境への物資の仕入れですよ。物資が届かない地域へも豊かさを、がモットーですから」

 

 メレネイアはにこりといつもの笑顔を見せる。その笑顔に一瞬で落ちそうになる検閲官はなんとか正気を保ちながら、姿勢を正す。


「そ、それもそうだな。うむ、通ってよし」

 

 その声にがたいの良い兵士がレインシエルへの接近戦をやめた。既にレインシエルの右手は肩まで上がっていたが、すんでのところでとどまった。


「……」

 

 レインシエルは無言で荷馬車に戻る。その後ろ姿は何人も話しかけることを許さなかった。


「さあ、いきますよ」


 メレネイアが馬を操る。門を通りくぐった先には、首が痛くなるほどの高い壁と更なる大きな門があった。門は開いているものの薄い膜がかかっているようでその中はうかがい知れない。周りを見ると行商人のほか、団体の一般客の姿も見られた。別の通りには、さぞ出自の良さそうな風貌の人間が、無駄に派手なフォーゲルに乗っているのが見える。しかも多い。どうやらあちらは貴族など金持ちたち専用のルートらしい。こちらよりスムーズに列は進んでいる。



「気持ちの準備はできましたか?」

 

 きょろきょろしているウィルに気づいたのかメレネイアは話しかけてきた。同じようにきょろきょろしていたレインシエルもメレネイアのそばへと寄る。


「準備?」

 

 ウィルがきょとんとすると、いたずらっ子のように一瞬だけ笑みを浮かべた。メレネイアのそのような表情は見たことがなかった。メレネイアも楽しみなのだろう。


「あの門をくぐれば、世界が一変しますよ」

 

 メレネイアの言葉に更にその奥へと瞳を輝かせる。


「ウィルったら子どもっぽいね! あたしはこんなに落ち着いているのに!」

 

 勝ち誇ったかのようにレインシエルはふふんと鼻を鳴らす。


「どっちがだよ」

 

 ウィルのつぶやきは本人には届かなかった。レインシエルも紅い瞳をきらきら輝かせているのがわかる。初めての王都に興奮がとまらないらしい。噂を聞いていたであろうレインシエルのほうがその期待が大きいのだ。どっちが子どもっぽいか言い争っているうちに門は目の前へとやってくる。


 前方の集団が薄い膜に突入している。一瞬歪んだかと思うと集団はそのまま突き進み、その後には波紋のように膜が波打っていた。


「この膜は通った者の出入りを記録します。外見や体型のパターンマッチングですね。レイとウィルさんは初めてですので緊張すると思いますが気にしなくても大丈夫ですよ。ある意味演出ですし」


 そういうメレネイアはそのまま馬を進め、馬の頭が膜を通過し、メレネイアも飲み込む。レインシエルとウィルもそのまま膜へと入り込むのだった。


 少しひやりとした感覚が顔を包む。思わず目を瞑ってしまった。まぶたの先に強烈な光を感じ、顔をしかめながらそろそろとまぶたを上げた。


「すっげぇ……」


 ウィルの視界に飛び込んできた景色は、今までの常識を覆される。先ほどまでの薄暗い外が嘘のように、都は目が痛くなるほどのきらびやかな光で包まれていた。


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