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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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85話 記憶の真実

決して煌びやかではないシンプルな宿の広めな一室で一同は落ち着く。


「で、お前達の目的を改めて聞かせてもらおう」


 フィドルは椅子に座ったなりにウィル達に向き合う。

 ウォルトは備え付けの紅茶を淹れ、ティアは自発的に手伝い皆の前にカップをおいて回る。


「助かります。ティア様」

 ティアは様付けで初めて呼ばれ舞いあがったのか思わずカップを落としそうになる。


「おわっ!」

 それはウィルのもので危うく火傷するところだった。


「す、すみません。呼ばれるのには慣れてなくて、でも良いものですね」


 謝罪も早々に恍惚な表情で様と呼ばれた瞬間を繰り返し思い出していた。

 そんなティアに何を言っても無駄だとウィルは諦め、答えが返って来ず段々と不安そうにしていたフィドルに顔を向ける。

 ようやくとフィドルはほっとした表情に変わった。


「俺たちの目的は楔の解放だ」


 ウィルは紅茶を一口含む。

 じんわりとした暖かさが喉を通り気持ちを落ち着かせた。


「楔?」


 楔という言葉にピンと来ていないようでフィドルは首を傾げる。


「エファンジュリアの巡礼遺跡、で分かる?」


 なんて説明しようかと悩んでいたウィルに変わってニーアが言い方を変える。

 それには心当たりがあるようであーっと上に目線を移す。


「エファンジュリア巡礼な、確かに国内でいくつか回ったらしいが、直接対応してたのは父上だからなあ」


 どうやら深い知識があるわけではないようだった。


「確かこの東部にもあったかと思いますが」

 メレネイアが過去の巡礼の記憶からフィドルに期待するが、悩んだあげくウォルトに助けを求めた。

 紅茶を淹れ終わったウォルトは話もちゃんと聞いていたようでちょうど自分のカップを持つところだったが一旦やめた。


「若が覚えがないのは仕方ありません。東部に位置する遺跡クロムは蒼の災厄直後、物理的に塞がれ今では知っているものも少ないでしょう」


「物理的?」


 ウィルは座りながらウォルトに顔だけ向ける。


「はい。クロムの入り口は山に面した部分にせり出していたのですが、今は土砂崩れにより完全に埋まっています」


「……それは蒼の災厄と関係あるのですか?」


 メレネイアはそこが気になったのかウォルトに問いかける。

 どこか言いにくそうでもあった。


「いえ、それに関しては何とも断定できませんね。豪雨が続いていたのもありますしそれでもきっかけではないとは言い切れませんが」


「そうですか……」

 メレネイアはそれ以上聞くことはなかった。

 カップを置くては微かに震えていた。


「なあ、蒼の災厄って結局なんなんだ? 親父達が裏切ったことが蒼の災厄って思ってたけど」

 ウィルは蒼の災厄がきっかけかもしれないというウォルトの言葉に疑問を抱いた。

 裏切りの事件そのものではなくそれを象徴する出来事があったように思えたからだ。


「お前、知らないのか?」


 今度はフィドルが口を開いた。

 それは誰でも知っていると言わんばかりでウィルを見る顔は本当に不思議そうだった。


「なんだよ」

 フィドルの表情にウィルは少しむっとした。

 ふと周りを見てみるとニーア以外は全員知っているようだった。

 一方でプルルはニーアの膝の上ですやすやと眠っていた。


「しゃあねえな、エファンジュリア、アリスニアは知ってるだろ? 蒼の災厄はな、もちろんその裏切りもそうなんだが、それだけじゃ災厄にはなんねえよ」


「まあそうだよな」


「蒼き光再び世界を破滅させんとす、忌むべき蒼光、母なる大地を空を血に染める」


 いきなりフィドルが何かの文を読み上げるようにしゃべり、ますますウィルにはいらつきが重なっていった。


「これも知らねえか。つまりお前の親父とアリスニアは海上の結界塔で結界をぶっこわしかけたんだよ。城にいた俺もあの光は覚えてるぜ。あん時は綺麗だなんて思ってたけどよ。なんとか修復できたらしいけど、それに加えてその一帯のありとあらゆる人、女、子どもも含めて皆殺しにしたってな」


 フィドルは言い切った後にウィルの表情を見て、言い過ぎたと後悔した。

 

「な、親父がそんなことするわけーー」


「待ってください」


 何も関係がないフィドルではあったが思わずウィルはつかみかかろうと迫ったが、メレネイアが否定した一言でウィルはかろうじて止まり、メレネイアに振り向く。

 ウィルのどうしようもない感情の隆起はメレネイアへと向かう。

 ニーアはプルルを抱く力が強くなりプルルは瓢箪のように延びさすがに飛び起きる。


「そうだ、メル。なんで言わなかったんだよ!」


「ウィル!」


 レインシエルがウィルの体を掴み制止させる。


「それに関しては、すみません。話すべきことなのになぜ話していなかったかわかりません……信じてもらえるかはわかりませんが」


 ウィルは嘘でも言い訳でもなく自分を責めて唇を噛むメレネイアを見て力が抜ける。

 メレネイアが嘘を付くわけがない、それはウィルも充分わかっていた。


「……ごめん。ちょっと落ち着くわ」


「ウィル……」


 レインシエルは留まってくれたウィルを掴む手を離し椅子に座り直す。


「今の話は、結果的には正しいです」


「まじかよ……」

 一気に脱力しウィルは椅子にへたり込む。


「しかし、一帯の住民を殺した、というのはアストレムリ側の情報操作です。殺したのはルイでもアリスニアでもありません。ミュトスです」


 その言葉は信じるに足るほど強くはっきりとした口調でウィルは顔をあげてメレネイアの眼差しを疑うことなく信じた。



「待った待った、ミュトスってただのエヴィヒカイトの組織じゃないのか? 確かに塔はエヴィヒカイト側の範囲だけどよ。皆殺しがあいつらの仕業って聞いたことねえぞ」


 フィドルは自分の聞いていた記憶と違いあからさまにうろたえる。


「私は元はミュトスではあったが、確かにエヴィヒカイト守護とアーティファクト研究組織としては逸脱した任務はないことはなかったが、そんな話は仲間内でも聞いたことがない……。本当に腐っていたのだな……」


 ダーナスは怒りと共に自分の情けなさから肩が震えるほどミュトスという組織への失望が現れていた。


「今はミュトスの特別管理区画となっていますが、アストレムリの西の結界塔があるアリス島はアリスニアの名前の由来でもあり、アリスニアはそこの出身です。自分の故郷を滅ぼすようなことをすると思いますか?」


 メレネイアの口調は少し震えていた。

 もちろん故郷を滅ぼすことなど普通はないだろう。

 誰も疑うものはいなかった。


「メレネイア様、それでは結界の破壊は滅びを招くものではないと? 結界が解かれれば外界の魔物が押し寄せ結果的には同じことになるのでは?」


 ウォルトはメレネイアの言葉を信じた上で当然浮かぶ疑問を口にした。


「それはーー、結界は……、外に……そんな」


 メレネイアはそれに答えようと口を開くものの言葉が出てこない。

 やがて首を振る。


「すみません。どうにも思い出せません……どうして?」

 メレネイアは自分自身の記憶が出てこないことに関して気持ちの悪い感覚が遅う。

 とても重要なはずなのに、ぽっかりとあいた空白の記憶に胃液すらこみ上げてくる。


 その答えは諦めざるを得なかった。

 そもそもルイノルドのことも暫く忘れていた事実も思いだし自分自身が信じられず頭が痛くなった。

 レインシエルに支えられて椅子に座らされた。

 


 


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