81話 海賊の根城で海賊
マナクリスタルの入手という幸運から一旦落ち着き、ウィルが涙を拭い終わると一様に心配する目を向けてくる皆に嫌気が差した。
どうせ医者に見せろとか言われるのがオチなので詳しく説明する気も失せた。
「町に行ったら医者に診てもらえ」
説明するまでもなく、ダーナスに真剣な顔で言われ、がっくりと肩を落とす。
「スライメリクには勝てねえだろう! 蒼眼野郎!! ーーゴホッゴホッ」
突如、ウィル達が出てきた入り口の向こう側の高い位置にある穴から声がとどろいた。
急いで来たのだろうか、急に咳き込み、周りの取り巻きが介抱する。
「ほら、一回深呼吸しましょうって言ったのに」
「ほら、大きく吸って、はい、吐いて」
おとなしくそれに従い深呼吸し、息を整える泥や砂で汚れた青年。
「すう、はあー、ーーってやらすな!!」
顔を真っ赤にして取り巻きに怒鳴る。
しかし、そのおかげかだいぶ休めたようだ。
「よし、スライメリクには勝てねえだろう! 蒼眼野郎!!」
「ちょっと同じ台詞は、ねえ? ドル」
取り巻きの肌が露出した軽装の女は隣のもう一人の小柄な無精髭を生やしたドルという男を横目に見る。
「ああ、ウォルト様が居たら嘆くだろうな、ラプタ」
ドルは同意する。
若干恥ずかしかったのか青年は耳が真っ赤だった。
「こっちの道が近そうですね」
「ういーっす」
「マナクリスタルが手に入るなんて……」
「もう少しヴォルトの威力強められませんか?」
「痛くてもいいなら」
「早く行けってディアヴァロも煩いなあ。ハクト兄みたい」
「最後の私の活躍みました?」
「あたしに聞いてる? うんうん、見た見た」
「お、おい。相手しなくて良いのか?」
メレネイアは地図を眺めて青年が出てきた穴とは違う道へ先導し、皆何もなかったように荷物を持ってメレネイアについて行く。
ダーナスだけはちらちらと青年のほうを見ていたが、やがて諦め皆について行った。
別の穴の出口で仁王立ちしたままの青年はそれを目で追う。
「おーい! こっちこっち! どうしたー? あのーフィドルですよ……蒼眼さん……?」
段々と声が小さくなり震えていく。
最後にはへりくだるほど弱々しく後ろの二人は笑いを堪えるので精一杯だった。
「……さん、……許さんぞ! こっちからいってやらあ!!」
涙目になりながら青年フィドルは飛び降り、勢いそのままに剣を抜きメレネイア達の進路を塞ぐ。
「はあ」
メレネイアはスルーできなくなったと後ろのウィルへとバトンを渡す。
「え、何? えーっと、ごめん、誰だっけ?」
ウィルは悪びれるように頬を指でかきながらその乱入者をとぼけた目で見つめる。
「てめえ、この顔を忘れたか!? フィドルだ!」
激高するフィドルにウィルは腕を組み目を上に向けて思い出す仕草をする。
「いや、だってよ海戦の時、俺じゃないっていうかあんまり記憶ないんだよな」
「くっ、なるほど。それは仕方ない。って覚えてるじゃねえか!!」
一瞬、納得しそうになったが、海戦のことを覚えていることに思考が行き着き、剣を振り地面にたたきつける。
砂埃が舞う。
その中でそんなつっこみ方があったか、と斜め上に感心するウィルだった。
「ほら、可哀想だから」
ニーアは小声でウィルに構ってやれと言わんばかりに耳打ちする。
「ちぇ、しゃあねえな。なんか用か?」
歩みを完全に止めてやっとフィドルに向き合う。
「無性に苛ついてきた……。 はっ大方スライメリクに太刀打ちできてないんだろ? 俺たちでもあいつは手強かったからな。なんなら討伐の協力してやってもいいぞ。俺らの根城をずっと奪われている訳にもいけねえからな」
「ああ、おまえらがここに住んでたのか。じゃあ結構長い間なんもできなかったってわけか」
その発言から察するに海賊の次に生活していたのがフィドル達だと分かった。
フィドルはなにもできなかったと言われ悔しそうに震えていた。
既にウィル以外の仲間は二人と距離を開けて茶番を楽しむように観賞を決め込んでいた。
「減らず口もあいつを倒してから言うんだな。それでスライメリクはどこだ? ーー! わかったぞ。俺にお恐れをなして引っ込んだか」
空間内を見回しても一向に現れる気配のないスライメリクに何度も頷きどや顔をかます。
「いや、俺達が倒したけど」
「言わずとも良い、俺の力を魅せられないのが残念だーーは? 倒した?」
途中でウィルの発言が理解できたのか呆けた顔で聞き返した。
「ああ、倒した」
「スライムじゃなくてスライメリクを?」
「だから倒したって」
ウィルは何度も言わすなといらつき片足に体重を乗せ腕を組む。
「ああ、もう! 勝手に行かないでくださいよ!」
「そもそもここに入った時に出てこない時点で気づきましょうよ」
遅れてフィドルに追いついたラプタとドルはやれやれとフィドルに告げる。
「……抜け」
フィドルはわなわなと肩を振るわせながら剣の切っ先をウィルに向ける。
「は?」
意味が分からず相変わらず馬鹿にしているウィルの態度についにフィドルは激高する。
「剣を抜け! よくも馬鹿にしやがって! このフィドラル・リード・ミリアンと命を賭して戦え!」
ウィルの返事を待たずしてフィドルは切りかかってくる。
「お前、名前変わってんぞ!!」
ウィルは素早く指摘しながら鞘のままその剣を受け止めた。
空間内に金属音が反響する。
「よく受け止めたな。少しは戦えるようになったか」
ウィルの指摘は聞こえていないのか感心したように一旦距離を取り剣を構え直す。
「あちゃあ、言っちゃったよ。しかもフルネームで」
ラプタは手で頭を押さえる。
「こうなったらあの蒼眼に任せよう」
ドルは大きくため息をつくと離れて見ているニーア達と共に成り行きを見守った。
「さあ、剣を抜け! 今度はお前の首を取らせてもらう!」
剣を構えたままウィルの動きをフィドルは待つ。
「はあ、なんだってんだよ。こっちは急いでんだよ。邪魔するって言うならーー」
ウィルは剣を抜く。
「容赦しねえ」
意を決めたウィルは理不尽にも思える怒りをフィドルに向けた剣に込め、再び開けた空間の中心に示し合わせたかのように共に移動する。
しかしにらみ合う二人以外はそれとは違うところを見ていた。
フィドルの頭上、天井から落ちてくる小さな固まりを。




