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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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80話 終焉のクマ印

 体が本来の状態を思い出すように重くなり始めていた。

 ニーアの唄の効果が切れ始めてきたことを意味していた。


「オルキス! まだなのか!」


 ダーナスも疲労が見えてきたようでオルキスの状況を確認する。


「うー、定着!!」


 すぐ後にオルキスは水球を解除する。

 水は地面に水たまりを作り、オルキスの手には熊印の小箱が乗っていた。


「皆! 離れて!」


 オルキスは息つく間もなく杖を引き抜き、小箱を握ってスライメリクに向かって走り込んでいく。

 そして、勢いをつけてスライメリクに投げつける。

 その勢いのせいかオルキスは前のめりにずっこける。


「いたたーー」


 既にその手に小箱はなく、皆その行く末を負う。

 だが、だれがどう見ても届かないことは明らかだった。


『えぇ……』


 ウィル達は力ない軌道に力が抜ける。

 だが、早めに降下を始めた小箱は二段跳びのごとくもう一度スライメリクに飛んでいった。

 空間の歪みにはね飛ばされたようだ。


「これでいいでしょう」


 メレネイアの力場だった。

 その力を受けて小箱は今度は確実にスライメリクに接触する。


「ありがとうございます!! ーージレメント展開!!」


 オルキスは大きく息を吸って杖を掲げる。

 杖の石が光り輝くとそれに呼応するように小箱は膨張し赤い炎が飛び出し液体の様にスライメリクの体を這いながら炎に包んでいく。


「ーー!!」


 スライメリクは突然の出来事に驚くように身を震わせる。


「効いた?」


 レインシエルはその光景を眺める。


「ーー!」


 動きが鈍ったはずのスライメリクは再び大きく震えると燃え上がった腕を幾本も出現させ暴れる様に周囲に叩きつけていく。


「て、おいおいおい!」


 炎を纏った腕はウィル達にも振るわれる。

 予想外の炎が付加された攻撃に困惑しながら避ける。

 炎は飛び火することなくまとわりつくように燃えていたこともあり二次災害はなかったのが幸いだった。


「熱いんです! 次は冷やします!」


 オルキスはそのスライメリクの様子にも驚くことなく杖をもう一度掲げる。

 小箱は張り付いたままで今度は冷気を発しそれを中心に炎を鎮火させながら広がっていく。


「寒い」


 傍観していたアイリが両腕をこする。

 冷気がスライメリクの体を完全に覆うと、スライメリクの動きは鈍っていき、腕は収縮し元に戻っていく。


 今度は氷が付加されて攻撃してこない様だったので皆、少し安心した。


「で、どうなるんだ?」


 ウィルは完全に動きが止まったように見えるスライメリクを眺めつつオルキスに次の行動を確認する。


「先に熱したことで体内に散らばったコアが自由に動ける状態になりました。そして冷やされることで散らばったコアはまだ暖かい中心へと集中します。後はそれを破壊すれば終わるはずです。あのコアのせいで分離しても動けたんです」


「ってことは最後は俺たちの出番か」


 ウィル達はその時のために再び武器を構え直す。

 オルキスは何も言わずその瞬間の準備をするウィル達に嬉しく思った。

 綻ぶ顔を今は我慢して目の前のスライメリクを注視する。


 外側から凍っていくスライメリク。

 その内、赤い粒がそれぞれ合流するように現れて中心へと向かっていった。

 オルキスの言うとおりに粒は玉となり人間一人ほどの大きさの赤い球体となった。


「では、やっちゃってください」


「ああ!」


 ウィルは剣をコアに向け振るう。

 表皮は固まってはいたもののひどく脆く砕けた体もただ落ちていくだけだった。

 ユーリは続いて紫電の剣を振るい、レインシエルも氷に穴を開けていく。


「でた!」


 コアが空気に触れる。

 その亀裂にメレネイアは力場を膨らませると周りの邪魔な氷を弾き飛ばし、完全に露わになった。


「よし、後はーー」


「私の出番ですね!!」


 通りで攻撃に参加しないわけだとウィルは横をかすめていくティアを見て呆れた。


「最後は私の一撃でえええ!」


 声を張り上げティアは跳躍し薙刀をコアに突き立てる。

 ぴしっとコアに亀裂が入る。

 その亀裂にさらに刃を突き刺し、レバーを操作するようにに薙刀を引く。


 バキッ


 大きな亀裂が編み目の様に入っていき、一度、明滅した後粉々に砕け散った。


「ふふ」


 愉悦の表情を浮かべ地面に降り立つティアにやっぱり壊れてんなこいつとウィルは心の中で思うのだった。

 スライメリクは形を失っていき地面に砕け落ちていく。

 凍った体は溶けて蒸気のように昇華していく。


「うわ……」


 ウィルは思わず仰け反る。


「どうしたの?」


 レインシエルがウィルをのぞき込み、その視線を追うがうっすら蒸気が見えるだけで仰け反るほどではなかった。

 だが、天を仰いでいく様子にレインシエルは心当たりがあり、前と同じく哀れみの表情をウィルに向ける。


「また見えたの? 最近言わないから治ったと思ったけど、色々あったもんね。町で休もうね」


 他の仲間もその言葉に疑問が沸き、ウィルの様子についてレインシエルに説明を求め、ひどく可哀想な説明をしたのだろう、ウィルを見る目はとても優しさで溢れていた。


 ウィルはそんな事になっているとは知らず、それを眺めていた。

 光の粒子、それはまるで魂のようで以前、魔物を倒した時よりも多く、その光は天井へと消えていく。


「あ、あれ」

 ウィルは頬を流れる涙に気づき、理由が分からず慌てて拭う。

 それを見てさすがに大丈夫かと心配する面々。


「ウィル……」


 ニーアはウィルの隣に立ち、同じように天へ視線をあげていく。


「お前も見えるんだな……やっぱ俺おかしくないよな」

 涙は勢いを止めない、むしろ増えていた。


「うん。エヴィヒカイトで色々あった後くらいからね。私もよくわからないけど、哀しくてでもどこか良かったって」


 ニーアも一筋涙を落とす。


「ああ」


 ウィルはその光景を見つめる。

 どこか目を反らしてはいけない気がしたからだ。

 無数の光は天にやっと帰るように儚く哀しく、理由はわからないがそう感じた。


 ユーリは二人を見つめる。

 時折目の前を遮る歪みを通して共に天を仰ぐウィルとユーリを興味深げに眺めるのだった。


「哀しい……ですか」


 ぼそりとつぶやくユーリは歪みが消えるまで、ウィル達がこちらに振り向くまでじっと見つめ続けた。



 消えゆく光の一部がまるで意志を持つかのようにウィルとニーアの顔をくすぐるように周回すると、それだけが砕けたコアへと戻っていった。


 少なくともウィルとニーアには自分たちに反応したのではないかと思う。

 子どものように無邪気でくすぐるような感覚がただの光ではないと思わせた。


「コアが消えずに残ってる」


 オルキスはスライメリクの巨体が消え失せた後、コアが消えずに残っていたことに気づく。

 そして、だいぶ小さくなってしまったが片手になんとか収まるほどのかけらを持ち上げる。

 かけらにしてはずいぶん対称的な形で宝石の様に赤い光を反射していた。


 それをまじまじと眺めていたオルキスだったが、やがて気づいたのか手が震え始める。


「うそ……!」

 信じられないのか、日記を再び取り出しぱらぱらとページをめくり該当の部分とコアのかけらを見比べ、なにかの劇のように大げさにそれをウィル達に腕を伸ばして見せつけた。


「こここ、これ!こりゃ!」


 興奮状態かまったく言葉になっていなかった。


「なんだ、まず落ち着け」

 

 ダーナスがオルキスの背中をさすると、オルキスは息を整わせることができたようでゆっくりと再び持ち上げた。

 案外、面倒見がいいなとウィルは関係ないことを考えていた。


「これ、たぶん、いや絶対、マナクリスタルですよ! しかも高純度ですう!」


「あ、そうなんだ」

 ウィルはオルキスとは対照的な反応でそんな珍しいこともあるもんなんだなと冷めた反応だった。


「そうなんだ、じゃないですよ! なんですかその反応は! もう取れないってユグドラシルの扉が開かないとって無理って言ってたじゃないですか! ほらほら!」


 ウィルの反応に怒りを覚え押しつけるようにマナクリスタルと日記を押しつけてくる。

 もちろん、押しつけられてはその記述に焦点が合うことはない。


「だああああ、わかったって! とにかくエリクサーの材料が一つ手には入ったんだろ!?」


 オルキスを手で押し返す。

 押した部分が柔らかいとは思ったが、幸いにも誰も気づいていないのでウィルも気づかないようにした。

 無駄に反応すれば両サイドの女子からの暴力は避けられなかったからだ。


「でもどうしてここにそんなものが?」


 メレネイアはやりとりをそっちのけでマナクリスタルが手には入ったことに驚きを隠せなかった。

 その質問にやっと平静を取り戻したのかオルキスが咳払いして何もなかったかのように居直った。

「うーん。わかりません。あるとすればスライメリクはスライムの集合体、あの大きさになるまでそれを繰り返して凝縮した結果、マナクリスタルという形を保ったということでしょうか?」


 わからないとは言うもののその推測は的を射ていると全員が納得した。

 オルキスは誰からも反論がないので認められたのが嬉しかったか帽子を深くかぶる。


 ウィルは納得しながらもどこかあの粒子がそれを手助けしてくれたのではとなんとなく思った。

 

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