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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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79話 震わす者

「……なにこいつ」


 レインシエルは現れた見上げるほど巨大なものに名付けるべき名前が見あたらなかった。

 粘性があるように地面に垂れ続けるその緑の半透明の物体は小刻みに震えながら地面に潰れるように広がった体を中心に戻していき、その巨体をぷるんと波打たせる。


「スライムでしょうが、この場合はなんと頭につけていいのでしょうね」


 この状況にも関わらず名前を付けようとユーリは考えているようだった。


「つける必要はありません。奴はスライメリク、スライムの特異体というところでしょう」

 

 メレネイアはそのスライメリクから目を離さなずにティア達と三角形を作るようにゆっくりと移動した。


「スライメリク……」

 オルキスはその巨体を眺めながら記憶を探る。

 ただしその記憶探しの暇もなく、スライメリクはその巨体の一部をひねり出す。さながら手のない腕をひねり出すとゆっくりとレインシエルの方向に振り下ろす。


「このくらいのスピードならーー!?」


 その動きはゆっくりと見え、レインシエルは余裕でかわせると思ったが、違った。

 大きい故に鈍く見えたが想像以上に速く振り下ろされていた腕はレインシエルの眼前に迫った。


「レイ!」

 メレネイアの力場によってその一撃はかろうじて方向をそらす。

 レインシエルは横っ飛びで避けるがそれがなければ下半身は紙ぺらになることはその衝撃音と窪んだ地面で容易に想像できた。


「オルキス、大丈夫!?」


 レインシエルの後ろにいたオルキスはダーナスに抱えられなんとか入り口まで下がっていたようだったがその風圧で体勢を保つので精一杯だった。


「は、はい!! ダーナスさんありがとうございます」


 ダーナスは頷くと延びきったスライメリクの腕を両断しようと剣を振り下ろす。


「あ、だめです!」


 オルキスは慌ててダーナスに警告するが、既に刃はその腕を捉えていた。

 あっさりと切り離された腕だったが、瞬時にその切り口は閉じられ分割された腕が別の意志を持ったかのようにダーナスに横に振り胴体を捉えようとする。


「なっ!?」


 オルキスの警告のおかげで回避行動は無意識に準備できていたこともあり、後方に跳躍し腕の一振りは空を切った。

 腕はその後、かがむようにすると本体へ飛び込み、再びその一部へと戻った。


「打撃はもちろん効きませんし、剣で切っても分離します! って家の本で読みました!!」


 オルキスは入り口で叫ぶとリュックを漁り始める。


「それは……わかったが、どうするんだ!?」

 ダーナスは一旦、距離をとるが、次の標的はダーナスだと腕を今度は二本生やし連続して振り下ろしてくる。

 かろうじてダーナスはよけつづけ、ウィル達に合流する。


「これならどうですか! モード、ライトニング!」


 ユーリはヴォルトを起動し、その紫電を纏う筒を上空に投げる。

 そこから落雷のごとく稲妻がスライメリクを捉える。

 

 ウィル達の死刑から救った電撃は束ねられその威力を何倍にも跳ね上げていた。


「スライムは大半が水分なのは常識ですから」


 感電するように体に電撃を走らせぶるぶる震えるスライムメリクの様子を見て、ユーリは得意げに言った。

 その通りか次第に体を保てなくなったか溶けるように地面に延びていく。


「ほーら、やりましたよ」

 勝ち誇るユーリは早々に裏切られる。

 電撃がなくなると溶けた体は再び盛り上がっていき、なんのダメージも負っていないように元に戻った。


「あ、あら?」


「なにが常識だって?」


 ウィルはスライムメリクの脇から顔だけ除かせユーリを小馬鹿にする。

 所在なさげにウィルから目を反らすユーリにウィルは満足したのかすぐにスライムメリクに視線を戻す。


「納得はしたけどな。じゃあこいつに打つ手なしじゃないか?」


 ウィルは剣を構えるものの攻撃の手段がなくスライムメリクの様子を伺うしかなかった。

 考えなしにつっこもうとするティアを押さえることも余計な仕事だった。


「少し時間をください! 錬成します!!」


 オルキスはやっとお目当てのものを見つけたのか引っ張りしたのは赤い液体と青色の液体のガラス管、木片に大きめの瓶に入った水、そして上部に丸い透明な石をはめた杖を取り出す。


「こんなところで錬成できるのか!?」

 

 アトリエにあったような錬成用の台座はオルキスの手元には見あたらなかった。

 さすがに持ってきてはザラクが困るのだろう。


 心配するウィルの声に応えることなく行動でそれを示す。

 

「練習通りにやれば……!」


 オルキスは杖にマナを注ぐ。

 にわかに杖の石は紫色に光を放つ。


 オルキスはそれを確認すると杖を地面に突き刺す。

 杖はそれ以上に沈み込んでいく。

 ちょうどオルキスの腰の高さまで沈んだ辺りで紫の光が皿のように広がる。

 

「次……!」

 オルキスは水を注ぎ込むとアトリエの台座の時のように水は宙に浮かぶ。


「ウィル!!」


 オルキスを見ていたウィルはニーアの声と共にウィルに影がかかっていることに気づき、横に転がる。

 風の轟音と共に地面が衝撃で潰れる。


「よそ見してる場合じゃねえってか。オルキス、任せたぞ!!」


 ウィルは体勢を整えると錬成を開始し始めるオルキスに声をかける。


「はい!」


 力強い返事にウィルはオルキスの様子を見ることをやめてスライメリクに集中する。


「ニーア、ディアヴァロは召喚できないの?」


 レインシエルは攻撃を適度に加えながらスライメリクの攻撃をかわす。

 幸運にもスライメリクの攻撃パターンは少ないようで回避は容易だったが、かすった程度でもそれなりな被害があることもあり大きく避けざるを得ず、体力の面が心配だった。


「だめ、この空間に呼ぶことはできないことはないけど、あの人加減知らないからたぶん生き埋めになっちゃう。リヴァイアスは眠ったままだし」


「ああ、確かにっ」


 リヴァイアスとの戦いの時にジェイルの懇願叶わず大穴を開けたことを思い出す。

 どさくさに紛れて隠そうとしていたジェイルだったがイリアに速攻ばれて正座させられていたことも余分に頭をよぎった。


code:maxim(コード マキシム)


 ニーアは離れた位置で小さく宣言すると、唄を紡ぐ。

 力強く鼓舞するような唄、空間内で反響しニーアの声に空気中のマナが反応するように輝き、仲間達に纏うように降り注がれていく。


「すごい、軽くなりましたよー!!」


 ティアは体の変化を感じ取り薙刀を思い切り振るう。


「あ、バカ!」


 突然素早く動いたティアにウィルの制止は間に合わなかった。

 振るわれた薙刀はスライメリクの腕をなんなく両断する。


「ほら! ニーアさんの唄のおかげで全然疲れないです!」


 それは皆も感じていた。

 疲労が出始めていたものの唄のおかげか疲労回復どころか力が沸いてくる。

 これならしばらくは戦い続けられそうだった。


「それはいいけど、また分離したじゃねえか!!」


「ご、ごめんなさーい!」


 ウィルの指摘にティアは謝りながら分離した腕の攻撃を受け流しながら回避する。

 腕は再び本体に合流する。


 ニーアは一区切りついたのか唄をやめる。

 それでも効果は持続し強化は消えなかった。

 

「そんな唄いつ覚えたんだ?」

 

 動きのよくなった敵に戸惑う心があるかはわからないがスライメリクは的を絞りきれないように攻撃を緩めた。

 ウィルはニーアのところまで下がり皆とは反対に疲労したようなニーアの前に立つ。


「うーん、覚えたというか出てきたというか」


 ニーアは自分自身に何が起こったか掴めないようで答えを濁した。


「後でいいから聞かせてくれよ」


 ウィルはニーアの力に助かっていることは事実ではあったが、それ以上にニーア自身になにか起きていることが心配だった。


「うん。それじゃあいくよ。code:forte(コード フォルテ)


 ニーアは一息つくと、次の唄を紡ぐ。

 静かに始まった唄は先ほどの力強さではなく、静かに生まれいずる闘志のような感覚だった。

 それはウィルに向けられた優しくかつ芯のある唄。

 ウィルを纏うマナに変化が生じる。

 ウィルの体を通して剣にマナが宿っていき、それは蒼の炎を纏う剣へと昇華した。


「調整、炎素40、氷素50、術式構築……」


 オルキスの前で赤と青がぐるぐると回転しながら術式が構築されていく、そして木片を水球に入れ込む。


「後は装填……」


 錬成の終わりが近づいていた。

 ウィルは蒼炎を纏う剣でスライメリクを攪乱していく。

 それに続くようにレインシエル、ユーリもスライメリクを分離しない様に気をつけながら攻撃を加えていった。

 ティアは余計に気をつけすぎているのか刺すだけに決めたらしかった。





 






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