77話 壊れてやがる
船に乗り込む直前、荷物を船員に預け乗り込もうとしていると桟橋を勢いよく走る音が聞こえ、ウィルは何の気なしにそちらを見やると、見えたのは眼前に飛び込む純白だった。
「ちょっと待てやああああ!!」
うっわ、懐かしい。
そう思ったのもつかの間、衝撃と共にウィルは吹っ飛び危うく桟橋から海に落ちるところまで滑っていった。
スカートを翻し、ふんぞり返る彼女、ティアの姿は逆光で後光が差すように立っていた。
「私を置いていかないでくれますか!!」
怒りを露わにするティアだったがまったく心当たりがなくウィルは砂埃を払う。
衝撃とは裏腹にダメージがないのが上級者であると思わせ、ウィルは感服した。
「って、そんな崇めないでください! 私も連れて行けってディファルド様に聞いてますよね。なのに置いていこうなんてひどすぎい!!」
いつになくテンションが高いティアにどうしたものかと思っていたが、どうやら察するに同行するらしい。
食らわずにいられたのではとウィルはディファルドに一瞬、憤慨したもののいろんな意味でいいものが見れたと不問にすることに決めた。
顔に出ていたのかニーアがその名の通り鬼の形相で降りてくると鳩尾を蹴られ船内に引きずられていった。
これはまともにダメージが入った。
「それでは、改めてティア・ランフィールと申します。ティアとお呼びください」
船は既に沖に出航し、正座でティアは皆に挨拶した。
「ティア!」
オルキスはいきなりティアに抱きついた。
「あ、オルキス! 少し見ない間に大きくなって!」
「いや、そんな時間たってないだろ」
ウィルは未だ鈍い痛みを残す腹をさすりながらも言わざるを得なかった。
「というか二人仲良しなんだね」
ウィルのつっこみはレインシエルによってスルーされ、二人の関係について話は広がった。
「はい、オルキスとは子どもの時からの友達ですよ! まあ年は私が上なんですけど」
自虐かは分からなかったがウィルの目には確かに同い年の友達のように見えなくもなかった。
自虐かは本当にわからないが。
「それでディファルド殿はなぜティ、ティアを?」
ダーナスはさっそく呼び捨てにするが慣れていなかったようで人付き合いの苦手さが露呈し、耳が真っ赤になっていた。
ウィルは真っ赤になっているダーナスにギャップも合わせ可愛さを感じ見とれていると、今度はなぜかレインシエルに頭を叩かれた。
ウィルはそれを素直に受け入れる。
でなければ、ニーアの振り上げていた拳が連撃になることが予想できたからだ。
青少年たるもの正しい反応だとは言いたいが痛みには返られず顔の筋肉を引き締めなにも無かったように振る舞う。
「ダーナスさんでしたよね? いえ、ダーナス! よろしくお願いします。さっきの質問に答えると旅の管理と後は記録です! 皆さんの活躍を本にして歴史に残るようにしたいんです!」
ダーナスは呼び捨てにされた時点で照れ隠しに頭を下げていて後半はまったく頭に入っていないようだった。
ウィルは半ば反射的にダーナスの様子を逃さず首が直角に回り見つめる。
「見るな!」
ニーアに頭を掴まれ逆方向に無理矢理持ってかれる。
ごきっと嫌な音がして一瞬意識を失った。
「ユーリもあれになるの?」
何事もなかったように顔を整えるウィルから少し距離を開けてアイリはぼそりと隣で微笑ましく眺めているユーリに言うと、ユーリはアイリの頭を撫でる。
「僕には無理ですよ」
アイリはくすぐったいようなしかしやめてほしくないように抵抗しなかった。
「確かに荷物の管理やお金のことに関しては私もそこまで面倒みれるわけじゃありませんし、良い申し出かと」
見かねたメレネイアがティアを歓迎する。
平常心を取り戻したウィルは同意はしたものの不安があった。
「でも冗談抜きに戦うこともあるぞ? ましてやディアヴァロみたいな竜と戦わないといけないだろうし」
ウィルはディアヴァロとリヴァイアスとは戦いが避けられなかったことから次もそうなるだろうと踏んでいた。
「ご安心を!」
待ってましたとごそごそとポケットから指輪を取り出し右手の人差し指にはめる。
立ち上がったかと思うと手を振る。
その紫の光の軌跡が円を描く。
「とう!!」
かけ声と同時に指輪は形をなし、それは長い槍、先の刃は長くどちらかというと薙刀のようだった。
ウィルの額を寸でのところでかすめ、柄を床にたてる。
「私も当然戦いますよ!! どうですか!?」
目が爛々と輝き戦力であることを示す。
「こいつ、壊れてやがる……」
軽く額に皮が切れた痕が残りウィルは心の底から恐怖の言葉を口にした。
色々一悶着あったものの晴れてティアはウィル達の仲間に加わった。
船旅の中、ウィルはティアから距離を取って話すようになったのは誰もが同情した。




