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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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75話 それぞれの役割

 ダーナスは差し出された手をニーアから追うように見つめ迷い無くその手を取った。


「お兄、兄さんを救えるならこの命、捨てる覚悟はできている」

 ダーナスは立ち上がる。


「ごめんね。様子見してたみたいで」

 ニーアはダーナスを引き揚げ申し訳なさそうに頭を下げる。


「いや、いいんだ。あなたの意志ではないんだろう。それよりもどうしたらいいんだ?」


「うん、これは私の思いだけど捨てる覚悟は覚悟だけに留めてね。あなたが死んだら意味ないんだから」

 

 ニーアの言葉にダーナスははっと息を飲む。

 その後に軽く吹き出すように笑った。


「ふっ、それはその通りだな……ありがとう」

 

 心が軽くなったように張りつめた顔は余裕が出てきたのか、少し緩み素直な様子でニーアに礼を述べた。


「でもどうやって? お母さんの日記じゃもう無理だって」


 オルキスは日記を片手にその方法を急かす。

 その口調は疑っているわけではなく、それができるならという希望が勝っていた。

 

「うん。むしろディアヴァロはオルティさんが創ったことに驚いていたよ。それともし素材が揃ったらそれを創製? しないといけないんだけど」


 ニーアの目線は既に決定事項のようにオルキスに向けられていた。


「え、わたしですか?」


「うん」


「本当に?」


「うん」


「まだ見習いですよ? それでも?」


「それでも」


 ニーアの短く単調な返事に反してオルキスの声は震えていく。


「オルキス! 私からも頼む! 創製方法を知っているのはオルキスだけだ。それに他の者に信頼などできない。だからこそオルキスにお願いしたい」


 痺れを切らしてダーナスがオルキスの正面に立ち手を握って懇願する。


「うう……」


 オルキスは自分を真摯に見つめるダーナスに根負けしたのか、その手を握り返す。


「わかりました! わたしが絶対に成功させます!」


 オルキスをそう決意づけたのは向けられた信頼だった。

 そして、アストレムリへの道中気遣ってくれたダーナスを助けたいと強く思った。


「ああ、本当にありがとう!」


 たまらず泣き始めるダーナスにどうしたものかとオルキスはあわてる。


「効果の底上げにはヨネアさんにも手伝って欲しいです」


 ニーアは微笑むとヨネアに声をかける。

 分かっていたようにヨネアは迷いなく頷く。


「もちろん、確実性のためにはミディエラーの力が必要ですし、エリクサーのミディエイトなんて想像もつきませんが、全力を注ぎます!」

 

 ヨネアは胸を張りニーアに応える。


「うん! ありがとう! それまで、アドルをお願い。それでーー」


 ニーアはウィルに目線を移す。

 ウィルの役割は既に分かっていた。


「死ぬ覚悟がいるってことはそれなりな道中ってことだろ? 救えるなら全力で魔物だろうがなんだろうが蹴散らすよ。 アドルにはまだ礼も言えてないしな」


「あたしも行くよ! 助けてくれた人を助けないなんて一族の恥だし!」


 レインシエルも一歩前に踏み出し参加を宣言する。


「ウィルさんが行くなら僕たちも行かない理由はありません」


「ない」

 ユーリとアイリも同行することを告げる。


「……その理由おかしくね?」


 ふと冷静になったウィルは突っ込まざるを得なかったが、それに対し含み笑いを返すだけで明確な答えは返ってこなかった。

 変なところのあるユーリとは分かっていたが、戦力になるのでそれ以上勘ぐるのはやめた。


「結局、元々のメンバーとダーナスってことか。後はアルフレドたちの許可か? めんどくさいな」


 本来の目的は楔の迅速な解放だった。

 その中にアドル救出の目的を入れるとなるとさすがに許可が出ないと勝手に動くわけにもいかなかった。


「別にいいですよ」


 するとその場にいないはずのやる気のなさそうな声が聞こえてきた。

 思わず後ろを振り返るといつの間にかアルフレドがすました顔で立っていた。


「おわああ!?」


 久しぶりに唐突に現れたため、ウィルは尻餅をつく。


「お、やはり時間をあけると新鮮な反応になりますね。よしよし」

 

 得体の知れない達成感をその顔に満たし、恍惚の表情を浮かべる。


「へ、変態! いきなり出てくんじゃねえ!」


 ウィルはさながら乙女のように身を守る仕草をする。


「アルフレドさん? 変なこと兄にしないでください」


 ニーアは髪が逆立たせ黒いオーラを纏わせアルフレドをにらみつける。


「失敬。それでエリクサー創製の話ですが、楔の解放を忘れなければ好きにしてもらって構いませんよ。それに最初からニーアさんはそのつもりでしたでしょう?」


 何事もなかったようにアルフレドは振る舞う。

 ニーアは既にオーラをしまい、素の表情へと戻っていた。


「そう。どっちにしてもユグドラシルの扉を開くために楔の解放は不可欠だって、というかユグドラシルの解放ね」


「ユグドラシルって楔なのか?」

 思わぬ新情報にウィルは立ち上がることすらできず、そのままの体勢で聞き返した。


「らしいよ。正確にはユグドラウスって名前らしいけどユグドラシルそのものとは違うみたい」


 あっけらかんと答えるニーアに一同はどう反応していいか分からず返す言葉がなかった。


「ま、まあそれはいいとして楔の場所は?」


 ようやく立ち上がりウィルは話を進めようとする。


「場所まではわからないから、当てずっぽうにはなるけど今は巡礼の道を辿るしかないね」


 ニーアは他に方法が思いつかず肩を落とし、アルフレドへと目線を動かし意見を求める。


「と、なるとお互いが様子見状態の中ですからそこを抜け出すのはいささか危険ですね。ミリアン王国は今後、内乱状態となるでしょう。その混乱の中でしたら比較的容易かと」


「内乱って?」


 ウィルはミリアンが国内で危機に瀕していることは知らなかった。

 内乱という言葉は知っていたが世界中が混迷のさなかにあるとは驚きも含んでいた。

 

「はい。一連の失態に加え、穏健主義だった王が軽率な行動を取ったとされていましたが、どうやら王が長らく行方不明たと噂になっているようです」


 どこから手に入れた情報かはケインであることは予想できた。

 しかし、それすらも計画通りと言ったように冷静さを保つアルフレドに訝しみの目を向けると、いやいやと手を振りよからぬ予想を彼は否定した。


「噂はまだしも、王の行方不明は我々の仕業ではありませんよ。それについてはジェイルとも相談していますが、下手に国が動くとミリアンも相手しないといけなくなりますので行くとしたら単独で行っていただきます」


「それは問題ないけどさ。王が行方不明って他の王族はどうしたんだ?」


「それについてはまだ情報ありませんが、おそらく……想像の通りです。あそこは昔から一枚岩ではありませんでしたからね」


 眉を潜めるアルフレドの言い方に王族も行方不明ないしこの世にいないのだろうと想像した。


 その後、目的地はミリアンに決まり、ウィル達は向かうことになる。

 アルフレドはイストエイジアに留まりジェイルの補佐と今後の対応にあたる。

 もちろん土地に疎いので、巡礼の経験のあるメレネイアはウィル達と同行することとなった。


 




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