73話 決定事項
今後の計画がおおよそ固まった。
ジェイルもといイストエイジア王国としてはリーベメタリカの共同発足宣言後、解放戦争を順に仕掛ける。
同時にウィル達の楔解放の支援という意味付けもあった。
ウィル達としては各遺跡を回らないと行けない。
セラ達がある程度力をつけるのは想定しておき、12の楔の所在を把握し先に動く必要があった。
当面は前エファンジュリアのアリスニア達の巡礼先の遺跡を回る。
ただアルフレド達も三つほどしか同行しておらず、その後はアリスニアと共にアストレムリ、エヴィヒカイトを裏切ったため巡礼は完了しておらず、その先の道筋はエヴィヒカイトから都度指示があったためその先はわからないようだった。
ただ、エファンジュリアの神託を済ませたというセラの映像には引っかかる部分があるようだった。
そういえばとウィルは蒼の災厄によって神託が延期されたという話を思い出し、その前のエファンジュリアはどうなったと疑問を投げかけたが、難しい顔をしてそのまま部屋に引いてしまったのだ。
そして現状、ケイン達の諜報部隊からはアストレムリには大きな動きはないとのことでイストエイジアの出方をうかがっているという見解が強かった。
「で、ディアヴァロはなんか言ってんの?」
オルキスのアトリエで紅茶を飲みながら一息つくウィル、ニーア、レインシエル、オルキス、そして初めて来たユーリとアイリはさっそく興味津々と店内をうろついていた。
「ううん。各地の楔の機能はリヴァイアスの時と一緒で落ちてるから感知できないって、あと距離にもよるって、必ずしもエファンジュリアの巡礼先に楔がいるとは確約できないって」
目をつむっていたニーアは瞼を開けて少し疲れたのか長く息を吐いた。
「ってことはむしろ起動が始まれば感知できるってことか、ってそれじゃあ遅すぎるよなあ。だってそれってセラ達ってことじゃん」
頬杖を付き先日とは打って変わってやる気なさげにくつろぐウィル。
「だねえ、結局、文献も特に見つからないし」
氷を入れた紅茶を喉を慣らしながら飲み干すレインシエル。
こちらもどこかやる気がなさそうだった。
「ですね……」
オルキスはやる気どころか元気がなく言葉が少なかった。
時折、何か言いたげに顔をあげるものの声を発することはなかった。
「って、貴様らはただくつろぎにきたんか!」
背後でイライラしていたザラクは大声を上げる。
それでもウィル達はしゃきっとすることはなくだらりとだるそうにザラクに振り向く。
「いや、そんなつもりじゃないけどさ、居心地いいんだよなあ」
「貴様ら……すぐ帰ってきたと思ったらくつろぎおって、オルキス! どうなってるんじゃ!」
ウィル達ではだめだとザラクはこの間見送ったはずのオルキスへ話を降った。
「え? うん、いいんじゃないでしょうか」
話を聞いていた様子はなくとりあえずというように適当にオルキスは返事をする。
「なんじゃ、お前まで」
ウィル達とは違うどこか上の空のオルキスに勢いをなくしあきらめたように座り込む。
ウィルはそのオルキスの様子には前から気付いており、頃合いだろうと思ってオルキスへ話しかける。
「なあ、オルキスさ、なんか困ったことあんの? だったら話聞くぞ?」
唐突に話しかけられ、オルキスは手に持ったカップを落としそうになる。
どうやら図星のようだった。
「こ、困っていることですか? うー、その、あの」
準備はしていたはずだが、いきなりの出番だったのであたふたと焦り言葉が出なかった。
「いや、ずっとなんか悩んでるからさ。今の内に解決できるならしといたほうがいいし、これから仕切り直して旅にでるんだし」
「そうなんです。一緒に行かないほうがいいのかなーーって、あれ、いいん……ですか?」
ウィル達は目を丸くする。
かたや奥ではユーリが商品を落とし、アイリがぎりぎりで受け止めていた。
「え、行かないの?」
思わずウィルは聞き返す。
「え、え? だってわたしだけなにか違うなって思ってて、ここでお別れしちゃうのかなって、ちょっと待ってすごい勘違いしてんですか? えぇ……」
みるみる顔が紅く染まっていきオルキスは顔を隠すように帽子を深くかぶり込む。
「だってお母さんを探すんだろ? 俺たちについてくって捕まった時言ってたからてっきりその覚悟あるんだと思って嬉しかったんだけど。でも嫌だったら残念だけど行かなくてもーー」
「ーー行きます!! いかせてくだひゃい!」
立ち上がり食い気味でオルキスは声が裏返りながら宣言すると、あわわと再び帽子を両手で引っ張り所在なさげに椅子に座った。
「ウィルってひどいよね」
「そうだね」
レインシエルとニーアが目を細めてウィルを蔑む。
「でも、オルキスは仲間! 皆そう思ってるよ! オルキスは違うの?」
それは追い打ちだろうとウィルはニーアに無言で目で抗議する。
「も、もちろん仲間だって思ってますう……」
「か、かわいい」
恥ずかしそうにうつむくオルキスにニーアは思わず駆け寄り抱きしめた。
旨にうずくまるオルキスは顔を隠せるからか遠慮なく林檎のように真っ赤になった顔を預けた。
「あ、あたしも!!」
何故かレインシエルまで逆側から抱きしめる。
「なんなんじゃ」
遠巻きに見ていたザラクは言葉とは裏腹にすこしうれしそうにその光景を眺め、ウィルに近づき小声で話す。
「分かってたんじゃろ?」
そう言うと甘い香りのする小さい黒っぽい板状の菓子を渡された。
「なんのことだか。ってこれチョコレート?」
鞄の中のチョコレートはもう無くなっていて、こっちにあるとは思っていなかったウィルは素直に喜び一口かじる。
持ってきていたものとは味は異なっていたが果実のような香りも含むチョコレートに大満足だった。
「南のカサンタという町の特産品じゃ。口に合ったようでよかったわい」
頬をかきながら奥に再び座るザラクを見て、さすが家族だなとオルキスと比べながら思った。




