71話 蚊帳の外
全員が会議用の一室でその映像を見ていた。
「やられましたね。そういうことでしたか」
見終わった後、アルフレドが苦々しく口を開いた。
その表情は悔しそうだった。
「まんまと利用されたってわけな」
ウィルの納得いってない様子にジェイルは補足するように付け加える。
それは自身にも当てはまることだった。
だが、アルフレドとは違い特に気にしてないようにも見えた。
その右頬は赤く腫れ上がっている以外は普通だった。
「どこから利用されたんだ?」
ウィルはまだ痛む右手をさすりながらその殴った対象者に問いかける。
「どこって少なくとも俺たちがアストレムリに侵攻するって読まれてたんだから最初っからか? どおりで無敵艦隊とも言われるオルゲン騎士団をあっけなく突破できたってか、突破させられたってことだわな」
ジェイルは氷袋をイリアから受け取り頬に当てる。
そもそも治癒術式でこの程度いくらでも治るのだが、ジェイルはそうはしなかった。
内心、ウィルからの一発で済んだことに安心していた。
むしろ治されたらもう一発殴ろうとウィルは思っていたのだが、そのまま受け入れたジェイルにはそれ以上怒りをぶつけることはやめた。
「しかもウィルが完全に犯人になってるし」
レインシエルは憤慨し停止した映像に映るグレイとセラをにらみつける。
自分の事のように怒りを表すレインシエルにウィルは少し嬉しかった。
レインシエルの隣のニーアはセラを見つめたままで小刻みに震えていた。
「おい、大丈夫か嬢ちゃん」
ジェイルはその異常な様子に思わず声をかける。
その声に我を取り戻したのか映像から視線を離したものの膝に手を置き腰を落とす。
「あの人、怖い。あんな目見たことない……」
レインシエルがニーアを抱き寄せ、背中をさする。
誰が見てもあの気味の悪い笑顔はニーアに向けられていることは明白だった。
明らかな敵視以上にニーアには底知れない恐怖を与えるものを感じたようだった。
「ケイン、このセラってやつの情報はあるのか?」
「情けないですが、今のところはなにもありません。部下には既に調査を命じていますが」
申し訳なさそうにケインは報告する。
情報がないということが諜報工作員たるケインは自分が許せなかった。
「情報操作の失敗どころか利用されたこと全て俺の失態です」
深々と皆に向けるように頭をケインは下げる。
ジェイルはその肩を軽く叩き、頬に当てていた氷袋をケインの首に当てる。
「うあっ!?」
突然の冷たさに反射的に顔を上げ体を仰け反らせる。
「気にすんなとは言わねえけど、俺はお前を信頼している。反省はすれど後悔はするな。次もあるんだからよ」
ジェイルはそれを咎めることはなかった。
むしろ首を抑えるケインに心から笑った。
「もう勘弁してくださいよ……」
苦笑いを浮かべるケインだったが、ジェイルの当たりの軽さに沈んだ心も浮かんだように感じた。
部下を怒るわけでも罰を与える訳でもなく、前向きにさせる心の広いジェイルにより表情にはプライドからか出さないが改めて忠誠を誓うのだった。
「ニーア、大丈夫か。下がっててもいいんだぞ」
ウィルはジェイルの行動に感心した後、顔色の悪いニーアに声をかける。
「……大丈夫だから。私だけ蚊帳の外はもうごめんよ」
咎めるような目で訴えるニーアにウィルはしまったとそれ以上言うことはなかった。
分かっていたはずだがどうしてもニーアをこの状況から離したい気持ちがあったが、ニーアの気持ちを考えていないということに気づき、分かったとだけ言った。
だが、蚊帳の外という言葉が一番応えていたのはウィルではなく、一番後ろで荷物を抱えた錬成士だったのだ。
オルキスは何か言いたげに口を開けようとしてまた閉じる。
「それにしても今後の計画はどうしますか? アストレムリとの本格的な戦争になりますが」
メレネイアが次の行動について議論を始めようとする。
オルキスは次の話が始まってしまい、ついぞ口を開くことは控えた。
その様子にウィルは察したがウィルが発言させようとすることは違うと思い、あえて行動には出さなかった。
「そうだなあ。アストレムリ方面の防衛においては抜かりないからな。こっちの予想外の力を見せることはできたし、そう簡単には攻め込まないはずだ。それに次の一手をお披露目できる段階にあるしむしろそのためにうちの力を見せつけたってわけだが。一番の問題はあっちのエファンジュリアだな。ミリアンの動向もあるわな」
ジェイルは椅子に座り寄りかかる。
聞いて欲しそうにウィルに視線を向ける。
「……次の一手って?」
ウィルは呆れ、仕方なくジェイル達の計画を聞く。
「お、聞きたいか? しゃあねえなあ」
にやにやとするジェイルは再び立ち上がる。
もう一回殴っても許されるだろうかと心底思った。
「広域共同連合ですよ」
答えたのはアルフレドだった。
「お、おい。俺の出番だぞ!」
出鼻をくじかれたジェイルはアルフレドにくってかかる。
「あなたの出し惜しみの時間が無駄なので」
一同、それを指示するように大きく頷くとジェイルは口ごもりながら椅子へ力なく座った。
おかけでウィルの拳も振るわれることはなかった。




