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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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70話 聖帝グレイと真紅のエファンジュリア

 イストエイジア軍ジェイル自らが指揮する船は後に【蒼穹】と名をつける。後の蒼穹船団にウィル達を乗せる小型飛行艇は合流し、本船である蒼穹の格納庫へ収まる。


「やっとつながった」


 既に帝都ルイネエンデから離れた時に、ニーアがほっとしたように口を開いた。


「うん。そうする」


 独り言のように相手のいない会話を続けていた。


「ニーア?」

 

 ウィルは意識を再び失ったアドルを運び出しその傷を見ながらぶつぶつ喋るニーアに声をかける。

 どこか病んでしまったのかとも思った。


「今すぐヨネアさんのところで治療を受けさせてって。ヴェローナまでどのくらい?」

 

 ニーアはまるで誰かに聞いたかのように治療室へ運ぶ治療部隊の船員へ声をかけた。

 

「大丈夫です」

 

 船員は質問に答えることはなく、治療室へ運び込む。

 開いた扉の一室には既にヨネアが緑色の液体の入った瓶を両手に持ち待っていた。


「良かった」

 

 ニーアは一つ息を吐くとダーナスと連れ添うように部屋にはいる。

 ウィルも続こうとするとヨネアに止められる。


「あなたは外で大人しく待機!」


 強い口調でヨネアに拒絶されると目の前で扉が閉まった。

 ニーアはいいのかと思ったが糸が切れたように突然ふらつき後ろに倒れそうになった。


「おっと」


 背中を支えてくれたのはユーリだった。


「お疲れ様でした」


 労いの言葉を告げるユーリではあったが、まだだと立ち上がろうとする。

 しかし襲ってきた暗闇に抗うことができなかった。

 意識が消え失せるが、ここで倒れる不甲斐なさに嫌気がさした。

 ニーアもレインシエルもまだ元気だというのに。


「ちょっと危ういか?」

 

 撤収の指揮を任せジェイルが様子を伺いにやってきた。

 その言葉は眠りこけるウィルに向けてのことだった。


「僕は精神科医ではないですしわかりませんがあなたに裏切られたと思い続けたあげく、迫った死に相当堪えたんでしょう」


 ユーリは背中にウィルをおぶる。


「後半はお前等のせいだろうが」


 ジェイルは肩をすくめる。

 だが目を腫らし薄汚れたウィルを見て思うところがあったのか、おぶられたウィルの肩を軽く叩く。


「後でいくらでも殴られてやるからよ」

「……絶対だぞ」


 返事があったことにしまったと顔を硬直させたジェイルだったが、寝言のようで起きる気配はなかった。


「私たちも覚悟しないといけませんね」


 メレネイアとルイノルドもその場に加わり寝息をたてるウィルを眺める。


「それじゃあウィルさんは休ませますね」

 ユーリはそのまま通路へと消えていった。

 その後をアイリが小走りで追っていく。


「一つ乗り切ったかと思いましたが、別の問題が出ましたね」


 アルフレドは消えていったウィルの方向へ視線を向けつつ言った。


「親しい者を失ったら、ですか?」


 メレネイアがその意味を推察する。


「こればっかりはそうならないように善処するほかありません」


 沈黙が訪れる。

 善処という言葉が絶対をもたらすものではないということを三人はよく知っていた。

 

 それが訪れた時、彼は壊れるのではないかと。

 それを口にはできなかった。

 それがもたらすものは文字通り災厄かもしれない。

 蒼の災厄と恐れられる理由が目の当たりにした人間にはよく分かっていた。


 その時が訪れないように、訪れたとしても乗り切れるように今は願う他なかった。


 その会話をレインシエルとオルキスは影で聞いていた。

 二人ともそんな覚悟など持ち合わせておらず互いに形だけの覚悟を頷き確かめるのだった。




 イストエイジアによるアストレムリへの電撃作戦は成功を納め、彼らにとっての蒼の英雄の帰還はイストエイジア国内を沸かせた。

 つかみ取った勝利が実のところつかみ取らされた勝利だったことに気付く者はこの時点では皆無だった。


 その知らせが届いた時、ようやく利用されたことに彼らは気付くのだった。


蒼眼の災厄の無慈悲な剣によりディエバ皇帝、崩御。

ご子息、神眼のグレイ王子が即位し、直ちに即位式を執り行う。


 その旨の知らせはケインによってもたらされた。

アストレムリ国内では映像技術によって国内にその様子を伝えるという。

 後にケインによってその映像が送られてきたのだった。


 かつてニーアを奪還したエヴィヒカイトの聖堂。


「アストレムリ聖皇国の臣民、並びにエファンジュリアの祈りは蒼の災厄に二度に渡り破られた。全ては私の責任だ。イストエイジア軍を見誤り、突破を許し、急ぎ父王の元へと向かったのだが間に合わず、かの蒼眼は我に勝ち誇るように父の血を全身に受け、奴は私が恐れるに足らんと思ったか嘲笑しその場を見せつける様に後にしたのだ」

 

 グレイと呼ばれた次期聖帝は怒りと共に涙を抑える事ができないようで震えながら顔を手で覆う。

 それが演技ということは跪くサーヴェ以外は知らない。

 サーヴェ含め4人の他と違うそれぞれにデザインの違う銀章を襟につけた軍服姿が一列に背後に並ぶ。

 その中には大柄のライエルも跪いていた。


「私は父王の命を奪った蒼眼を必ず討滅しその首を掲げよう。奴に与した愚かな小国イストエイジアに必ずその報いを受けさせよう。皆の平和への願い、平和を揺るがす悪への怒りをこの身に受けよう。……今聖帝として父の志を受け継ぐ!」

 

 グレイは涙を拭った後、剣を振り上げる。

 それはディエバの大剣ではない。柄が金に装飾され刀身は鉛色ではなく銀に煌めく長剣だった。

 ディエバの剣ではないことは新たな聖帝であることを揶揄していた。


 聖堂に詰めかけた民衆が大いに沸き立つ。

 口々に新たな聖帝の名を口にする。


「そして、神は私に力を授けてくれた。この危機に立ち向かえと巫女エファンジュリアを授けてくださったのだ!」


 背後の扉がゆっくりと開かれる。

 ニーアが出てきたあの日のように、その奥から少女が歩み出てくる。

 それは純白ではない、鮮血のような真紅のドレス。

 肩上くらいのきれいに解かれ、両サイドの髪が編み込まれ後ろで結ばれている金色の髪が煌めく。


 その神々しさか纏うオーラか一歩一歩と進むごとに民衆は自然と押し黙る。

 両脇に退いたユーフェリアンガードの四人は再び膝をつき頭を垂れる。

 グレイは横に除け、横に立つのを待った。

「私はセラ。この場を借りて宣言しましょう。聖帝の言葉通りヴァイスエファンジュリアではありません。私はエファンジュリアとして神託を終えました。私は新たなエファンジュリアとして皆の平和を守るために再び私自らがその力を皆のために振るいます」

 

 セラは金色の瞳を閉じる。

 

「コード、イフリーテ」

 セラは手を正面に祈るように手を組み、唄を紡ぐ。

 静かに始まった唄は力が込められるように重く大気を振るわせる。

 聖堂に反響する唄はさながら重奏のように曲を奏でる。


 突如、聖堂に影が落ちる。

 それを追うとその存在に気付く。

 

 紅蓮の黒炎を纏う竜がエヴィヒカイトを周回する。

 そしてその禍々しいほどの牙を見せつけ空に向かって咆哮する。

 その口の周囲に赤い円形の紋章が出現し、炎を中央に溜めていく。

 そして放たれた黒炎は蒼の空を紅く染め上げ空を切り裂いた。


 その圧倒的な力を見せつけられ、魅せられ人々は熱狂する。

 新たなエファンジュリアの誕生を疑うものなどいない。


 勝ち誇ったように笑みを浮かべるセラの視線はきっと見ているであろうまがい物のエファンジュリアへ向けられていた。


 そして、扉の奥にもたれ掛かるようにする真っ白な髪の少年はその様子を見て鼻を鳴らすと奥へと下がっていった。

 蒼に反する灼眼を宿して。

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