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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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69話 命を守らば奪うものあり

「えっ?」

 メレネイアだけがグローブに伝わる不可視の壁に穴が開くような感覚に気付いた。


 アドルを引っ張るウィルはその光景を見てしまう。

 メレネイアの不可視の壁を抜け漆黒の玉がアドルの胸を突き抜ける瞬間を。

 その途端、急にウィルはアドルに体を持ってかれそうになる。

 口から血を吐き出しアドルは意識を失い重力に体重を任せる。


「ーーぜってえ離さねえ!」

 

 離すことなどできない。

 詳しい説明も経緯も聞いていないが国を裏切ってまで助けてくれた恩人だ。

 なによりダーナスの悲しむ顔は見たくなかった。

 妹の泣いている姿など兄には耐えられない。


だから。


 状況を察知してか一緒に持ってかれるウィルをユーリはその服を寸でで掴む。

 それをさらにアイリが掴み耐える。


 ゆっくりと引き揚げ、ニーアとレインシエルもようやくアドルを掴み一気に力を込めた。

 

「ああ、そんな……」

 オルキスは手で口を覆う。

 その様子にダーナスは嫌な予感を察して引き揚げられたアドルの様子を伺う。


「嘘だ……うそ……」

 血が飛空挺の床の色を真っ赤に染め上げていく。

「ーーどいて!」

 一番早く動いたのはオルキスだった。

 リュックから布を取り出し胸の傷に押しつける。


 その痛みからかアドルは苦痛の表情を浮かべ虚ろに目を開く。

 しかし意識は戻っていないようで誰かを求めるように手を動かす。


「兄ーーお兄ちゃん!」

 ダーナスはその手を両手で握る。

 大粒の涙がその手に落ちアドルの手へと流れていく。


「……久しぶりだな、お兄ちゃんって」

 その叫びが届いたのか虚ろだったアドルの目に微かに光が灯りダーナスへと向く。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」

 ダーナスは子どものように兄を呼び続ける。

 それは比喩などでなく昔の呼び方だった。


 ウィルは自分がアドルのようになったらニーアはどうなるのだろう。

 ニーアがアドルのようになったら俺はどうなるんだろう。

 命を失ったときどうなるのだろう。

 想像はできるが、考えたくない。

 

「ウィルさん、押さえてて!!」

 オルキスの指示にはっと意識を取り戻す。

 とにかくまだ命が尽きたわけではない。

 最悪の結末を考えてはいけない。

 押さえつける痛みにアドルはうめくがウィルは力をゆるませることはなかった。


 垂れた髪でその表情は誰にも見えなかったが、ひどい顔をしているのだろうと内心思った。

 

「まずいですね」

 

 上空に逃れたものの当然、上空を警戒する敵の飛空挺団がそれに気付かないわけがなかった。

 アルフレドは操縦桿を握る手に力を込めるものの聞こえてくる声だけでも無茶な操縦は命をつなぐには危険すぎた。


「まだですか。あのお調子者は!」

 

 流石にアルフレドは苛立つ。

 数隻の飛空挺がアルフレド達に魔砲の照準を定め、紋章を展開しすぐにでも飛空挺が落とされるのが目に見えていた。


 そして、その時は来る。

 一斉に紋章が輝き光弾を打ち出しーーその直前だった。


 別の光弾が敵船団を貫いた。

 間を置いて爆発し敵船は地上へと煙を吐きながら墜落していく。



「間に合えばいいってものじゃありませんよ」


 やれやれとアルフレドは息を吐く。幾分か手汗引いていた。


 


ーーーー


「オルゲン騎士団が突破されたのか? もしくは……まあ良い。エヴィヒカイトまで引くぞ」

 

 空にイストエイジアの国旗を掲げる船団が見え、ガーライルは部下に撤収を告げる。


「良いのですか? このままだと皇帝陛下に危険が」

 部下の一人がガーライルを引き留める。


「良い、我々のもっとも守るべきはエヴィヒカイトであるからな。急げ」

 

 ガーライルは部下を急かし、エヴィヒカイトへと足を早めるのだった。

 その背中を眺める部下達には心底愉快に顔を歪めているガーライルの表情を伺うことはできなかった。



 

 皇帝ディエバはこの状況ですら余裕なのか玉座に居座り続けていた。

 もし、賊が攻め込んでくるのならばこの玉座の場にて迎え撃ち皇帝たる力を見せつけ希望をわずかでも抱いたことを後悔させるために。


「またあなたは動かないおつもりですか? 父上」


 扉を開け歩んできた人物にディエバは目を細める。


「グレイか……。なぜここにいるのだ? 敗走したにしては堂々たる顔つきだが」

 

 グレイはオルゲン騎士団を率いて南東で陣を引いていたはずだった。

 敗走したにしてもその態度は飄々としていた。


「やはりイストエイジアのミリアン侵攻はブラフでした。警戒していたとはいえ予想外の軍事力の高さに突破され、急いで父の元へと参ったのです」


 慇懃無礼にも思える態度で大げさに頭を垂れる。


「ふん、芝居はいい。我が気づかぬとでも思ったか」


 ディエバは焦りでも恐怖でもなく、ただ楽しそうに口を歪ませ、玉座を立つ。


「取りに来たのだろう。この首を」


 グレイもまた静かに笑みを浮かべる。

 腰に携えた剣を抜く。

 その剣は特に変哲のない一般兵に支給されるものだった。


「さすが武神とも揶揄されたほどですね。鋭い観察眼、敬服いたします。こと闘いに関しては」


 それは皮肉のつもりだったが、それでもなお表情を変えないディエバにグレイは一筋の汗を垂らす。


「我に剣で挑むか。良かろう。その心意気に全力で応えよう」


 ディエバは玉座の背に駆けられた無骨な大剣を片手で引き抜く。

 構えた瞬間、空気が張りつめたように一変した。


 目に見えない威圧を全身に受けながらも足が下がることはなかった。


引くことはない。

引けばあのときと同じだ。


「……母さんの無念と弟の願いに誓って、ここで命を散らせ!」


「来い! 我が息子よ!」


 グレイは踏み込む。

 気持ちが乗った剣は、大剣とは違う重みを持っていた。

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