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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第3章 鮮血の巫女と蒼眼と緋眼
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67話 歪み

 太陽が登り切ると既に街は人々でごった返していた。

 それが処刑台へ向かう人々ということは向かう方向が一つであるということからすぐに分かった。

 

「では行きましょうか」

 ユーリは宿を出る。

 サラは二人を見送った後、いつも通り他の客との応対に向かった。


 高層建築物の間の道を塊と化した群れに紛れ込み、ただの風景へととけ込む。

 流れはやがて緩慢になり、目的地についたことを確信しようやくユーリは顔を上げる。

 少し離れた位置に見上げるほどの高さで石膏で塗り固められた処刑台。左右にはアストレムリの国旗がなびいていた。

 街を見渡せるほどの丘に建設された他の国とは規模の違う王城。街の景色とは違い大きさは段違いなものの他国の歴史を感じさせる伝統的な建築だった。

 だが表面の素材は鈍い光沢を持っておりアーティファクトによる強化が図られていることは明白だった。

 より堅牢な印象を受ける。

 王城のほど近くに処刑台を用意するとはユーリは自分ながらに悪趣味に感じた。

 喧噪は激しくユーリは耳障りなノイズを意識的に無視する。


 そして、一層激しく怒号がそこら中で飛び交う。

「ウィルさん……」

 頂上に連れられたウィルの吐瀉する姿を見てユーリはウィルが脱出できるほどの気力があるのか心配になった。

 別れ際に伝えた言葉の真意を読みとれていないわけがないとは思ってはいたが、周りの悪意と死が希望を消し飛ばすほどの力を持つのだと、好き勝手に怒声を浴びさせる群衆を横目に考え、同時に全員殺してしまいたい衝動に駆られる。必死に押さえながらそれが怒りだろうかとその感情の名称を当てはめる。


「もう少し近づかないと」


 ユーリとアイリは群衆をさらにかき分け進む。

 この人混みの中で不審者を特定することなど難しく警備の目はまず届かなかった。


 ニーア、レインシエルが遅れて壇上に跪く。

 ユーリはその瞬間にウィルの目に力が戻るのを確認する。


「どうにかなりそうですね」


 ちょうど良い距離にとどまるとアイリは円筒を鞄の中で起動する。

 待機モードにしていたおかげで起動は瞬時に終わり、神官による執行の宣言の前に起動音は声に紛れる。


「ここに蒼眼の災厄、ウィル・S・リベリ、エファンジュリアを騙った大罪人ニーア・K・リベリ、及びその一派レインシエル・G・アインツェルの断罪を執り行う。皆がこの世界の一大事を収束させた瞬間の証人となるだろう!」

 

 観衆が沸き立つ。


 神官が手を上げる。

 アイリはヴォルトをユーリに手渡す。

 だれもその行動を見ている者などいない。

 皆、待ち遠しく蒼の死の瞬間を待つ。


「『ヴォルト』」


 振り下ろされる手に呼応して死刑執行人は断罪の剣を下ろす。

 ヴォルトは電撃の塊を宙に飛び出させる。

 

 剣は振り下ろされる。

 紫電は袂を分かち三方向へ走る。


 一瞬の出来事だった。

 剣が一様に砕かれたことを皆知るまで間があった。

 その後になにが起こったかを理解するのにさらに間が生じる。


 当然、高く跳躍し壇上に躍り出たフードの二人組がなにを示しているかなど理解はまだ追いつかない。


「お待たせしました!」

 

 ユーリが死刑執行人を瞬時に剣へと形作ったヴォルトで切り裂く。

 そしてウィル達に向け大声で自分の存在を知らしめる。

 

 その言葉を皮切りにその場の全員が事態を把握する。

 それは期待が裏切られたことよりもただ恐怖が支配した。

 眼下の群衆は身を屈めるもの、我先にと逃げ出すもの、そしてその瞬間を端末で画像に保存するものと多様だった。


「と、捕らえなさい!!」

 

 呆けていた神官はようやく兵士に命令を下す。

 

 突如現れた乱入者に兵士は体制を整える間もなかった。

 隊列も崩ればらばらにその乱入者へと挑んでは死んでいく。


「あ」

 アイリは大げさに手で口を覆う。


「どうしました!?」


 戦闘を続けるユーリは横目でアイリを捉える。


「手錠あるの忘れてた」


『ええ……』

 状況を理解した手錠の三人は詰めの甘さに緊迫した状況を余所に間抜けに口を開けた。


「そうでしたっと!」


 また一人兵士を蹴散らし登ってくる兵士に死体を蹴り飛ばし転がり落とす。


「はいはい。鎖を張ってください」

 ウィル達の元に戻ってきたユーリはヴォルトの剣で鎖を両断する。

 

「助かったけど、もっと早くこれなかったのかよ。破片かすったぞ!」


 自由に手を動かせるようになると頬に一筋傷が入っておりそれを指さしてユーリに怒る。


「文句は後で! アイリ、アルフレドさんの煙幕!」


 ユーリは処刑台を駆け下り、群衆とは反対側に逃走する。

 アイリは鞄から丸い手のひらサイズの玉を地面に叩きつける。

 かち割れた玉から煙が充満しウィル達の姿をくらます。


 ウィル達はついて行くがその先が気になった。

 なぜならウィルが連れてこられた道、この先は王城だった。


「どうやって逃げるんだ?」

 

「それは」


「こっちだ!」


 ユーリが答える前に聞き覚えのある兵士の声が届く。

 王城への通路の前にダーナスの兄、アドル・ベルが剣を構える。


「くそ、ばれてるぞ!」


 兵士を呼ばれたと思い進路を変えると思ったが、ユーリは構わず走る。


「待ってくれ、あの人は!」


 ユーリは他の兵士と同様に切りかかると思い制止を促したが、意外にもそうはならなかった。


 アドルは王城へ入る扉を開けるとユーリはそのまま中に入る。

 全員が入るとアドルは扉を急いで閉め剣を閂代わりに取っ手に差し込む。


「まだ安心できないぞ」


 アドルが今度は先頭に立ち、通路を進んでいく。

 

「どうなってるの?」


 おそらくウィル以上に理解できない状況にレインシエルはただただついて行く。


「わかんねえけど、行くしかないっぽい。ニーア、大丈夫か?」


 ウィルは走りながらニーアの様子を確認する。ここまで全力で走ってきたのだ。

 声は出ないようで息を切らしながらニーアはなんとか頷いて見せる。

 ウィルはニーアの手をとり走り続ける。


 意外にも敵の姿は見えなかった。

 アドルは違和感を覚え、駆ける足を緩め始める。


「おかしい」


 進むことはやめないもののこの状況にいぶかしむ。


「あなたのおかげじゃないんですか?」


 ユーリはウィルと同じようにアイリの手をとって走っていた。


「兵士の展開に関してはそう促したのは確かだが、ここまでなにもないのは余計不安だ」


 確かに、いくらなんでも兵士の姿が見えなすぎる。

 アドルの指揮範囲を越えていた。

 まるでアドルが命令をしてなかろうが結果は変わってないようにも思えた。


「とにかく二階の発着場でアルフレドさん達がいるはずです。今は気にしてる場合じゃありません」


「……そうだな。こっちだ」


 通路脇の階段を駆け上がる。


「この先だ」


 扉が見える。

 この先が飛空挺の発着場ということはウィル達もここから来たことから理解した。


 脱出が現実味を帯び足にさらに力が入る。

 しかし、走る先の窓から差し込む光に陰ができるとガラス窓は砕け散り、同時に転がりながら入ってきた人物がいた。


 うつむいたままの白装束の女は、肩を振るわせながら腰の剣を抜く。


「兄さん……どういうことですか、これは」


 顔を上げたダーナス・ベルは切っ先と瞳を振るわせながら目の前の兄へと剣を向けたのだった。

 その言葉は泣きそうにも思えるほど弱々しく響いた。

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