66話 銀の友達
ウィル達の処刑の前日に戻る。
「では、予定通りここで一旦別行動ということで」
真夜中ではあったが聖王都ルイネエンデはやはり昼間のような明かりによって地上が照らされていた。
路地の暗がりで黒装束姿のアルフレドはここまでの仲間に別行動を告げる。
ここからはアルフレドとメレネイア、ユーリとアイリと別行動となる手はずだった。
「わかりました。警備配置も概ね情報通りでしたね。本当に恐ろしいほどの根回しですね」
ユーリはアルフレドとメレネイアとは違うが暗がりに身を隠すために黒いフードを被っている。
ユーリは端末に入れた警備の配置マップを展開して用意してきたアルフレドに恐れにもとれるほど感心していた。
「ふふん、地下協力員は案外たくさんいるのですよ」
したり顔で顔の広さを自慢する。
それは即ちこのアストレムリに不満を持つ者が多いということを差す。
警備配置の情報は軍内部にも協力員がいることだろうとユーリは推測する。
アストレムリに不満を持つという事実はユーリとしても驚きだった。
それが顔に出ていないことを慎重に確認しながら端末を納める。
当然、ウィルから連絡がくることなどなかったが電源は入れていた。
「あまり時間がありませんよ。早速行きましょう。ウィルさん達をお願いします」
メレネイアはアルフレドを急かすように大通りに向け歩く。
「もちろん」
「当然」
ユーリとアイリは当たり前かというように淡々と返事をする。
アルフレドもメレネイアに追随するように夜の街へと姿を消していった。
「ユーリ、これでいいの?」
アイリは上目遣いで二人の後ろ姿を眺めるユーリを仰ぐ。
「目的には反していませんし、大丈夫でしょう」
心配するなと慣れない手つきでアイリの頭をなでる。
リヴァイアスの一件以降、ユーリは妹に対して驚くほど以前よりもスキンシップが増えていた。
まるでウィルとニーアを真似るように。
アイリは不思議と嫌ではなく、むしろどこかがむずがゆいような感覚があり心地よくも思った。
だが、その変化はあまりよろしくないのではと内心思い悩む。
その思考すら。
「ん。わかった」
アイリが無表情で答えた。少なくとも本人はそう思う。
満足げにユーリは手を離す。
多少、頭にあたる風が冷たく感じたがそれをうまく表現できなかった。
ユーリ達は明日の処刑まで待機し、処刑のタイミングで救出。
もちろんその前の救出は計画としてはあったが、警備の穴を突くのは存外厳しく、3人を同時に救出できるかも不明で居場所が別であるということもリスクとしあったためそれは見直された。
処刑台では確実に3人が並ぶ。
民衆に紛れて行動したほうが全員救出の可能性が高いという判断だ。
それとは別にアルフレド達は逃走ルートの確保が主な役割だった。
救出後に立ち往生しては本末転倒だ。
脱出までのプランは確保しておかねばならなかった。
中心街から離れ、アルフレドに教えてもらった宿の扉をくぐる。
「いらっしゃいませ。ようこそ、風月へ。私のことはサラと呼んでくださいな」
珍しい着物という衣装を纏うかんざしで髪を結った女主人はにこやかに客を出迎えた。
「昔データでみた」
着物という服装をアイリは昔みたことを思い出した。
「あら、詳しいのねお嬢ちゃん。今じゃなんでかなんて忘れ去られたけど代々、主人となるものに受け継がれるのよ」
嬉しそうに顔を綻ばせながらしゃがみ込みアイリの頭を撫でた。
ユーリとは違う優しい手つきだった。
それはそれで新しく拒否することはなかった。
「ところで珍しい料理があると聞いてきたんですが」
ユーリはアルフレドからサラという女主人に伝えるように聞かされていた言葉を伝える。
「ああ、分かりましたよ。とりあえず部屋にご案内しますね」
サラは思い当たり、ゆっくりと立ち上がると二階の一室へと案内する。
珍しい料理というものを内心期待していたものの海鮮料理が主で確かにこのあたりでは食せないほどの美味しさではあったが、それが合い言葉であると聞かされていなくそれに気付いたのは一階奥の隠し部屋に通された時だった。
「騙された」
ユーリは合い言葉の意味しかないということにがっくりと肩を落とす。
「最初から気付いてた」
アイリは知っていたと言わんばかりにすました顔だった。
だがそれでも何かないかと期待はしていたが。
「ま、まあ、気を取り直して調整に入りましょう。阻害のアーティファクトも働いているようですし」
まだ立ち直っていないユーリをよそにアイリは鞄を机の上に置き、中からいつもの銀色の円筒を取り出す。
「『ヴォルト』メンテナンスモード」
アイリは早速、ヴォルトと名付けられた円筒を起動する。
電撃が走ることはなく微かに紫色の光が灯ると円筒の一部がカシュッと飛び出すと光で構成されたパネルが形作られた。
「ユーリとの調整もしばらくやっていなかったからそれも行う」
「あーそうでしたっけ。痛いんですよね……」
アイリは逡巡するユーリに構わず手を出せと促す。
「優しくしてくださいよ……」
「それは無理な相談」
アイリはぶっきらぼうに言い放つ。
部屋の外には痛みに押し殺した声が当然漏れることはなかった。




