63話 自由と解放の宣誓
アストレムリ国内にとどまらずその知らせは大陸を駆けめぐった。
報道機関も第一にこれを取り上げた。
蒼の災厄の再来の終止符、災厄の蒼眼、偽エファンジュリアの断罪、死刑が即日決定!
それはイストエイジアにも当然届くことになる。
「思いの外、早かったな。民衆を巻き込んでの公開死刑とは」
ケインの報告を受け、ジェイルは驚く様子もそこそこに立ち上がる。
「こちらの準備は既に整ってます」
ケインは自分に課せられた仕事が満帆であると報告する。
「おっけい。既にあいつらも忍び込ませたところだ。始めるぞ」
ジェイルは語気を強めて宣言する。
城の外には何万という兵士が列を成し、その時を待っていた。
城の外を望むせり出した部分に進み、ジェイルは眼下の兵士たちを眺める。
ジェイルは一度深呼吸をして息を整える。
「親父、兄貴、見守っててくれよ」
小声でこの場にいない家族に祈りを捧げる。
あの時、守る力も覚悟もなかった。
結果、俺は後悔という負しか得なかった。
だからまた後悔はしたくない。現実を直視せず責任から逃れて得たものなどなにもなかった。
それが、それこそが!
顔をあげたジェイルは腹に力を込めた。
今までの自分を振り返りながらそれを土台にして、ここに立っていることを胸に刻む。
イストエイジア国王ジェイルは覚悟と決意の言葉を紡ぎ出す。
「……友人でもある蒼の英雄と心優しきエファンジュリアの兄妹が今、帝国によって処刑されようとしていることは皆の耳にも届いているだろう。我が国にとどまっていた兄妹は俺たちの国のためにその身を差し出してくれた。今、この国があるのは、命があるのは、彼らのおかげといっても良いんだ。伝説の黒竜ディアヴァロの撃滅で平和をもたらし、遺跡では俺の命を救ってくれた彼らをこのまま見捨てることなど俺にはできない。
思い出せ! かつて仲間としてエファンジュリア解放を共に誓い、そして俺たちの国を守りきった蒼の英雄を! 思い出せ! この十年、いや、親父と兄の死から他国に脅かされていたことを。俺は力がなく皆を守ることができなかった。だからこそ今、この時、俺は立ち上がる! 俺は、俺たちは生きていたのではない。生かされていたことを思い知った! つかみ取れ! 俺たちの自由を! 蒼と共にかつての自由を取り戻すのだ!! 俺にお前達の命を預けてくれ!
今この時をもって我らイストエイジア王国は自由と解放をここに宣言する!!」
ジェイルは指輪を変形させ手甲を出現させ、天の蒼き空へと拳を突き上げる。
兵士は言い終わる瞬間に同じくそれぞれの武器を雄叫びと共に空に掲げる。
「王のために!」
「家族のために!」
「蒼と共に!」
「自由を!!」
『国王陛下に!!』
小国イストエイジアの国民はかつての屈辱的な不平等条約、無条件にも思える物資提供、アストレムリともミリアンともイストエイジアは屈服せざるを得なかった。前王の死の混乱に為すすべもなく降伏するほか無かった。それでも国として保ったのは蒼の英雄だったことを皆知っている。
不思議にもルイノルドという蒼の英雄の名を思い出していることに国民の誰も気づいていなかった。
それは当たり前のことなのだから。
上空の飛空挺団が空の光を遮ってイストエイジアを飛び立つ。
「まったく原稿の意味ないじゃないですか」
イリアは戻ってきたジェイルに呆れつつ先に持たせておいた真新しい原稿を受け取る。
「悪い悪い、さてこっからは俺のために働いてもらうぞ、アル、メル」
アルフレドとメレネイアはいつもの服ではなく蒼い刺繍が施されたコートを羽織り黒い衣装へと姿を変えていた。
かつてエファンジュリア、アリスニアと旅をしてイストエイジアで解放を誓った際に、オルティとその夫の合作により創られた衣装だった。
「まさか私たちの分まで持っていたとは驚きですよ」
腕を通した袖を調子を確かめるように動かすアルフレド、懐かしさからか気恥ずかしいような感覚もあった。
しかしジェイルは困ったように答えづらそうに目を泳がす。
「いや、俺もそのつもりはなかったんだよなあ。昨日、オルティのとこのじじいがよ飛び込んできやがってよ。どこの業者かよって思うくらいに箱抱えてな。そしたら朝、起きたら玄関に置いてあったってよ。ついにボケたかと思ったね」
ジェイルはやれやれと事の顛末を話し、置かれた木の箱を指さした。
メレネイアは中から服を取り出すし机に並べる。
「これはあなたの分だとして、これは?」
だが数がおかしいことにメレネイアは気づく。
一つはジェイルのもので確かだったが、もう二着は見る限り一度も着てないような真新しさがあった。
アルフレドはそれを見て、心当たりがあったのか思い出したことがあった。
「そういえば、ルイが息子二人と娘にもあればなとは言っていましたね」
「はあ? っていうとあいつらの分か? じゃあルイの野郎が持ってきたってのか?」
「オルティという可能性もありますね。少なくともあの時はオルティにそんなもの土産にするなとぶん殴られてうやむやになったと思いますし。やはりオルティもルイと同行していると期待持てますね。実際あの時、ルイは二人を見ているわけですし。ん……?」
「ああ、そうでしたね」
アルフレドは少し引っかかったのか手を顎に添えて考える。
メレネイアは同じ記憶を辿り間違いないと同意した。
「……どうして気づかなかったのしょう」
アルフレドは思い出した。
「何かあるのですか?」
メレネイアは頭を抱えるようにするアルフレドを見る。
「遺跡でルイと出会った時、ルイが着ていた服ですよ」
思い出せと答えは自ら言わない
「……! 私たちと同じ……! じゃあやはりルイということですか!」
ウィル達と邂逅した時に仮面を被った男の服と、今アルフレド達が着ている服は同じデザインだった。
「少し確信はなかったですが十中八九あれはルイということでしょう。仮面も何か理由があるとは思いますが」
かつての仲間を確信して声がうわずる。
「なあ、一つ聞いていいか?」
ジェイルは喜ぶルイノルドとメレネイアを余所にある疑問があった。
「なんですか? もっと喜んでもいいでしょうに」
メレネイアはテンションの違うジェイルに困惑する。
「いや、それはそれで嬉しいのは俺も一緒だけどよ。俺もそうなんだが……」
言おうか迷うように淀むジェイルを早く言えとメレネイアは床を踏みならす。
「……俺たち、ルイのこと忘れてたんじゃねえのか?」
メレネイアの床を踏む音が間を置いて止まった。
「そうだろ? じゃなきゃこの服だってその時に気付いててもおかしくねえだろ。ほんとにどうして気付かなかったんだってレベルなんだよ」
誰も答えを見つけることができなかった。
少なくともルイに会うまで、最初にあったときにも記憶はなかった。
服に気付かなかったことがその証拠だ。
「確かに、それはおかしいですね。今は不思議でたまりませんが確かにルイを覚えていないという発言をしたのは覚えてますし」
アルフレドはウィル達と行動を共にしていた時の発言を思い出していた。
エヴィヒカイトでルイノルドと行動を共にしていたというデータを見てもなお得心がいってなかったのだから。
「ルイと会った時は、いや、オルティに創ってもらった銃は展開したときには思い出していた?」
自分の発言が今では気持ちの悪い違和感が胃液のように喉元にせり上がる。
「王!」
その思考の泥沼から答えは出てこなかった。
部屋に入ってきた兵士によってその答えを導くことは今この場ではやめておくことにした。
今は目の前の事に集中しなければならない。
気持ち悪さを抱えながら戦地へと出立するのだった。
やがてその問いすらもおぼろげになっていくことに気づくわけがなかった。




