62話 嫌な再会
どれほどの時間がたっただろうか。
空を飛ぶ船は陸路の速度とはけた違いだった。
日が2回顔を出した所で、前方に体を持ってかれそうになりウィルはベッドから転がり落ちた。
「いてえな、畜生」
疲れと感情が整理しきれておらず責めようのない怒りは口に出て行く。
「もうすぐ着くぞ。ふぬけた顔を洗っておけ」
外にいる見張りの兵士が扉の小さな窓を開け、布を投げ込んできた。
ウィルは冷たく布を顔に当てる。
余計なお世話ではあったが実際にひんやりとした感触がウィルを覚醒させていった。
やがて前方にかかっていた力は収まり軽い衝撃の後止まった。
小窓の外を見ると空ではなく、人工的な明かりが照らす壁がそこから見えるだけだった。
格納庫のようなところか、とウィルは推測した。
「少しはまともになったか?」
扉を開けた兵士は開口一番に嘲るようにウィルに言った。
「おかげさまでね」
ウィルはそれにいらつくこともなく布を兵士に押しつけた。
「ふん、その余裕もいつまで持つか楽しみだ」
手錠をかけられ兵士に押されるように船内を歩かされる。
前方にはニーアとレインシエルも連行されていた。
甲板にでると眩しさに顔をしかめる。
目が慣れてくると、兵士が整然と並びこちらを威圧するように囲んでいた。
「皆、無事か? オルキスは?」
ニーアとレインシエルはウィルに気づき頷く。
しかし、オルキスの姿が見えなかった。
「わたしも一緒に行きます!」
黒塊の兵士の奥からかき分けるようにオルキスが現れた。
その後、すぐに兵士がその空間を開ける。
奥にはダーナスがおり、険しい表情のままその分けられた道を進む。
「ちょっと小娘! ダーナス隊長の心遣いを無碍にするつもり!?」
船室上部からネイシャが跳びオルキスの前へと着地するやいなやオルキスは指さし、額に血管が浮き出るほどの怒りの形相で指をオルキスの頬に押しつける。
「ほんなほとないへふ!」
そんなことないです、とオルキスは言いたかったのだろうがとても間抜けな返事に見えた。
「この恩知らず! このこのこの!」
ぐりぐりと指を押しつける。
なにを見せられているんだと思ったのはウィル達だけでなく周囲の兵士も思ったことだろう。
「ネイシャ、止めなさい」
ダーナスが諫めるが、ネイシャは頬を膨らませていやいや指を離す。
「ダーナス隊長に免じて許してあげるわ」
「うう……」
赤くなった頬をオルキスは手で押さえて涙を浮かべていた。
「オルキスも同行でいいのだな?」
ダーナスはネイシャを腕で後ろに控えさせオルキスに問う。
オルキスは腕で涙を拭い、頷いた。
「……分かった。荷物は預かっておく」
ダーナスは向きを変え、甲板から延びたタラップに向かう。
それに合わせてウィル達もその後に続かされた。
タラップの先には壁と同じ一面灰色の床が見えた。
そこに数人の白装束が待ちかまえていた。
ダーナスはまさか、と声にだした所で急ぎタラップを駆け下りる。
「アルヒミト郷! まさかいらっしゃるとは知らず!」
胸に手を当てダーナスは畏まる。
ウィル達もタラップをおりきり地上へと足をつけた。
「これはどういうことだ?」
ガーライルは相変わらずきっちりとオールバックに仕上げた青髪で切れ長の目でウィルをみやると一気に不機嫌な顔へと変わった。
「はっ、皇帝陛下の勅令により我が国、世界を混乱にもたらした大罪人を連行しました!」
ダーナスは背筋を伸ばしたまま報告する。
「皇帝が? 私を通さずにだと? オルリめ……」
小声で恨めしそうに呟いた名前は誰にも届くことはなかった。
「わかった。それでアルフレドとメレネイアはどうした? もちろん共に連行したのだろうな?」
後ろにあの二人が見あたらずガーライルはダーナスへ問いかける。
「いえ、そのようの命は受けておらず。申し訳ありません」
イストエイジアに残した二人をダーナスは思い出し、連れてくるべきだったのかと後悔と焦りで汗が滲む。
「危険因子を残したままとは……!」
ガーライルは悔しそうに歯を食いしばる。
「至らず申し訳ありません。如何様にも処罰を受けます」
ダーナスは慌てて頭を下げ処罰を待った。
ガーライルは口惜しそうに拳を握りしめたが一息つくと拳をゆるめる。
「……良い。命令にはないことだからな。続き責務を果たせ」
「あ、ありがとうございます」
顔をあげたダーナスはほっとしたように胸をなで下ろした。
「小僧、今まで生き延びたようだが、お前の悪運もここで尽きる」
見下すようにウィルを一瞥するとガーライル達はその場を後に奥の通路へと去っていった。
「いつにも増してイライラしてますねー」
ひょこっとネイシャが現れその後ろ姿を見つめる。
ネイシャにはガーライルに対する敬意は感じられなかった。
「不敬な発言は控えろ」
ダーナスはネイシャに対して言いながら額の汗を拭った。
気を取り直しダーナスはウィル達を引き連れ通路を歩き奥へ歩いていく。
その途中で目隠しをされ、またもや独房のような部屋へと入れられた。
他の独房から叫びやら独り言。
ここがユベラネイム収監施設、監獄だと見張りに楽しそうに告げられた。




