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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第2章 自由解放戦争
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61話 交錯

 ニーアは置き去りになっていく雲を眺める。

 この時くらいは気を紛らわすことができた。

 落ち着いては座り、この先の不安が押し寄せると窓を眺める。

 この繰り返しだった。


 レインシエルはそんなニーアを見て、自分よりもニーアが心配になり、無理矢理にでも元気を絞り出して窓に近づきテンションを高める。


「ほんとに飛んでるね! 飛空挺に乗るの初めてなんだ!」

 ニーアもようやく話し相手ができてほっとしたのか一緒になって外を見る。


「……そうだね! ちょっと怖いけど」

 空を飛んでいるという初めての経験を改めて実感してニーアはベッドに横になる。


「大丈夫? 気分悪い?」

 レインシエルは同じくベッドに座る。

 ニーアも壁に背中を預けるように姿勢を変え、レインシエルの横に並ぶ。


「大丈夫。……これからどうなるのかな。オルキスもいないし心配」

 ニーアは初めて心に抱えていた不安を口にする。

 入り込む風は二人を気遣うように穏やかだった。


「きっとどうにかなるよ。こんなときこそ前向きじゃないといざってとき動けないよ!」

 レインシエルは自分にも向けた言葉を精いっぱいに絞り出す。


「うん。レイは本当に良かったの? メルさんと別れて」


「え? ああ、うん。たぶんあれで良かっただんだと思う。本気なら無理矢理にでも引き戻すと思うから」

 ニーアは顔を上げる。

 疲れ切り隈が浮き出る表情が痛々しくレインシエルの瞳に映る。


「ごめんね。もっと早く伝えていれば良かったんだけど。少なくともお母さん達は助けにくると思うよ。だからあたしがこっちに残ることも認めたんだと思う。事情はあたしには分からないけど家族を捨てるはずないよ」

 レインシエルは声が漏れないように小声でニーアに伝える。

 多少不安はあったものの口にすることで信じる気持ちが強まったのも事実だった。


「そうだよね。あのお調子者の王様は許さないけど」

 きっとジェイルにも事情があったのだとは思うが、王としての立場などニーアには理解できなかった。


「はは、ウィルも気づいてると思う?」

 隣の牢にいるだろうウィルを壁越しに見る。


「うーん、気づいてないに一票かな。だってあんなに怒ってるの見たことないもん」

 ニーアは口元に笑みを浮かべる。

 気持ちに余裕が出てきたのが言葉にも現れていた。


「そうなの?」


「うん、でもよくハクト兄と喧嘩してたかなあ、それでもハクト兄がいつも負けてたけど」

 懐かしむように故郷で言い争いをしていたことをニーアは思い出す。


「そんなに喧嘩する?」

「そうだよ、例えばーー」


 それからは暫く故郷での思い出をレインシエルに聞かせて笑い合った。

 不安を直視しないように考えないように、その思い出話はつきることはなかった。




 オルキスは一人、ベッドで毛布にくるまって丸まっていた。

 たった一人ということがとてつもなく不安だった。

 

皆はどうしているかな。

無事かな。

私だけこんなところでいいのかな。


 他と違う待遇に罪悪感と疎外感を覚え、丸テーブルに置かれた既に冷え切った紅茶に口を付ける気も起きなかった。

 ザラクの険しい顔が既に懐かしく思えた。

 

 なにをするでもなくただ時間が過ぎていく。

 かといって夢にうつつを抜かす余裕もない。

 ただ微かに揺れる紅茶を一点に眺めていた。


「入るぞ」

 扉の外から声が聞こえた。

「……どうぞ」


 微かに返事をするとダーナスが紅茶を2つ持ってきていた。


「これは下げるぞ」

 ダーナスは冷えた紅茶を取り替え部屋の外の兵士に渡し、暫く外してくれと頼むと兵士の足音は遠ざかっていった。

「私が入れたものでもだめかな」

 オルキスはゆっくりとダーナスを見上げると困ったように立ち尽くす姿に思わず紅茶を受け取ってしまった。

「……おいしいです」

 家の紅茶とは雑味のような味がするがなんとなく暖かく感じた。

「そうか。よかった」

 最初のような厳しさのかけらもない心の底から安堵するダーナスにオルキスはきょとんと目を丸くする。

 ダーナスは椅子に座り向かい合うようにして自らが入れた紅茶を口にする。


「む、やはりなにか違うな。兄と同じように入れたはずだが」

 納得していない様子で首を傾げテーブルにカップを置く。


「もう少し熱いお湯で淹れるといいかもです」


 話すことはないと思っていたが、近しい雰囲気からか思わずそう口に出た。


「試してみよう」

 ダーナスは素直にその意見を受け入れる。

 それが意外に思えた。


「……少しは落ち着いたか?」

 オルキスは気づくと紅茶を半分も飲みきっていた。

「ありがとう……です」


「また時間があれば淹れてくる」

 感謝されたことに焦ったように立ち上がり、部屋を出ていく。

 去り際に、慣れないことをするもんじゃないな、と呟いたこともオルキスには聞こえていた。


 静かさを取り戻した部屋だったが、なにかしようと思う気力が沸いてきた。

 母の日記でも読み直そうとリュックに手をかけると床にひらりと封がされた紙が落ちた。


「なんだろう」

 リュックに入れた覚えがないオルキスはそれを手にとり、丁寧に封を切る。

 中には見覚えのある筆跡で書かれていた。


「お爺ちゃんの字だ」

 それを紅茶を飲みながらゆっくり一文字一文字読んでいく。

 その内容に大粒の涙がこぼれたのだった。

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