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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第2章 自由解放戦争
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58話 銀の友達

 レインシエルは一対の短剣をベルトから抜きメレネイアに渡すもののメレネイアに向き合ったままだった。

 それが何を意味するかはメレネイアは理解する。

「いいのね?」

 メレネイアの問いかけにレインシエルはゆっくりと頷きメレネイアから距離を取りニーアの側へ寄り添う。


「レイ……、いいの?」

 ニーアは母親と離れてまでこちらに着く判断をしたレインシエルに嬉しさはあったのだが巻き込みたくないとの思いがあった。


「うん。あたしの決めたことだから、それにせっかく出来た友達を失いたくないもん」

 レインシエルは精いっぱいの笑顔をニーアに向ける。

「……ありがとう。ごめんね」

 ニーアは俯き、涙を堪えながら素直に感謝した。


「レインシエル嬢はお仲間ということで良しとして、後は銀髪兄妹とザラクの孫だが、お前らもどっちでもいいぜ。この場限りなら放免という交渉はしてある。特にオルキス嬢ちゃんは初っぱなで犯罪者っていうのも気の毒だしな」


 ジェイルは後ろに控えている3人に向け声をかける。

「ユーリとアイリ、オルキスもついてこなくていいからな。ごめんなオルキス、せっかく一緒に旅するって決まったのに」


 おとなしくなったからかウィルを抑える力はゆるまり両膝をついた状態で後ろ手に金属製の太い手錠をかけられていた。

 オルキスはジェイル、ウィル、ニーアを順に視線を落としていき、唾を飲み込んだ後、震える声で話し出す。


「わ、わたしの、目的はウィルさん達なしではあ、有り得ません。今家に戻ったらお爺ちゃんに勘当されそうですし、わたしはわたしの決めたことを歪めたくないです!」

 後半ははっきりと言い切った。そして、杖を投げ捨てる。

 顔を上げたオルキスには足の震え以外に迷いはなかった。


「オルキス……」

 ウィルは無理矢理にでも辞めさせたいと思っていたが、首をなんとか回してオルキスの立つ姿を見てそれを飲み込んだ。


「いい娘じゃねえか、オルティ」

 ジェイルが満足そうに口角を上げたことは誰にも見られることはなかった。



「さてと、この後に非常に言いづらいですが、僕たちにも目的があるので、行動を制限されるのはいささか不本意です。申し訳ありませんが抜けさせてもらいますね」


「抜ける」

 言いづらさの微塵もなく淡々とユーリは別離の選択を述べ、アイリは無表情のまま言葉を重ねる。


 ユーリはウィルの前に立ち、かがみ込む。

「責めるつもりなんてないからな」

 ウィルはむしろ安堵していた、事実無関係の二人までついて来られると後悔に潰されそうだったからだ。


「もちろん、許しなんて請いません。レインシエルさんの言葉のように僕たちは友達なんだから」


 ウィルはその言葉に思わず反応しそうになったが、ユーリに両肩を押さえられて反応がでることはなかった。

「そうだよな、友達だもんな。許すもなにもないよな」

 ウィルは友達という言葉を使い笑ってみせると、ユーリは満足げに立ち上がった。


 レインシエルは友達を失いたくないとウィル達と共にいることを選んだ。

 友達を失わせないようにユーリ達はウィル達から離れることを選んだ。


 ウィルは顔を俯かせる。

 表情にでないように、悟られないように。

 おそらく、きっと、いや、絶対にユーリ達が助けに来てくれると信じて。


「うし、お別れの時間もここまでだ。ということでまとまったがいかがかな、ミリアン王国のえーっとグエン外交特使殿?」

 わざとらしくその名をジェイルは告げる。


「他の仲間については離反したということで良いですかな? ダーナス殿?」

 入り口から二人の影が入ってきた。

 着飾った小柄の中年の男と白装束の女だった。

「良い」

 ただ一言の回答だけでもその取っつきにくさが丸わかりで、グエンは気にくわないといった表情を意図的でもなく隠せなかった。

 ダーナスと呼ばれたフードを被った白装束の胸には輪がかけられた十字の印が彫られた銀賞が輝いていた。

 エヴィヒカイトの紋章と同じでもあった。


「これはこれは、仮にも敵国であるミュトスの人員も一緒とは体裁上よろしくないのでは?」


 アルフレドは更に目を細め入ってきた人物に話しかける。

「ふん、既に本国との間で停戦と講和協定の締結が進んでおるからな、特に問題ではない」


 グエンは鼻を鳴らし態度も相応に大きく、ずかずかと無遠慮に進んできていた。

 服に着せられているとはこのことかとばかりに貧弱そうな顔立ちがなんとかその服によって成り立ってるといっても過言ではなかった。



「本来はこの私も講和の場に同席しているのだ。それをわざわざ来てやっているのだぞ」

 聞いてもいないことをべらべらと話し出したところでダーナスは再度口を開く。


「お喋りが過ぎる。貴国との講和については奴らの引き渡しが最低条件だということを忘れたか。ただの使者たる貴様の立場をわきまえろ。この同行は監視という意味合いもあることをその能なしの頭に刻んでおけ」

 低い声でダーナスは凄む。女でありながらも押さえつけるような言葉使いに悔しそうにグエンは言葉をつぐむ。


「お初にお目にかかる。ジェイル・ヴァン・エイジア国王。 アストレムリ聖皇国、皇帝直属組織ミュトスが銀十字長、ダーナス・ベルと申します。武器の帯同もお許しくださり恐縮です」

 ダーナスは慣れた動作で片膝を着き、頭を垂れる。


「なっ、何をしておるのですか!? この者らは大罪人を匿って追ったのですぞ!? 頭を下げる理由などないではないですか!?」

 凄まれたせいか申し訳程度に敬語をつけてグエンは当然のように声を荒げその行動に異論を訴えた。


「黙れ。イストエイジア国とは戦争状態ではない。それに我が国の要求は貴国に対してである。大罪人を素通りさせた貴国とは違い引き渡しに協力をしていただいた国に敬意こそ払えば、敵意を向ける所以はない」


 頭を垂れたままフードに見え隠れする鋭い目つきをグエンに突き刺す。

「ぐぬぬ」

 グエンは押し黙るもののジェイルに頭を下げることはなかった。


「頭を上げてくれ。こちらとしても王妃が不在で申し訳ない。体調が優れず療養しているのでね」

 ジェイルは玉座を降り、ダーナスと同じ高さへと降りる。

「いえ……顔を隠したままで失礼しました」


 ダーナスは立ち上がると忘れていたのかフードを頭から外す。

 薄く青みがかった白髪、髪は白装束の中に隠れていたようで後ろ髪を引き出すと背中までそのさらりとした整った髪が届いていた。

 目つきはグエンを見るときは鋭い者だったが平時のときは幾分穏やかにも見え、猫目のように少し目尻があがっている程度だった。


「これはお美しい。アストレムリは美人ばかりとの噂は真でしたね」

 ジェイルは社交辞令も含め、演技がかったような口調で話す。

 ダーナスはそれを分かってないのか、多少困惑が眉に現れ頭を下げるだけだった。

 その様子を見てジェイルは相手を推し量っていたのだが、ダーナスは気づいていなかった。


「……それでは、早速で申し訳ありませんが、ヴァイスエファンジュリア、いえ、その名を騙ったニーア・K・リベリと蒼の災厄を再び騙り世界を混乱させたウィルを・S・リベリ並びに荷担した人間の引き渡しをここに完了します。貴国民の無用な混乱を避けたいとのことも鑑みて我が護送部隊はヴェローナ港沖に待機させております。そこまでの護送をご依頼しても?」


「もちろん、こちらとしてはむしろ助かる。それとそこのオルキスという錬成士の荷物だが、中身は錬成用の道具のみと確認している。かの錬成士オルティの娘だ。むしろ巻き込まれたに近いんだ。できれば良きに計らってもらえると助かる」


 ダーナスはちらりとオルキスに視線を向けると、オルキスはびくりと肩を震わせた。

「あの希代の? 蒼の災厄の件もありますので表向きは風当たりもありますが、状況と有能な錬成士とあれば罪は免れるでしょう。銀十字にかけて良きようにできるよう善処します」

「情あるお方で良かった。お願いする」

 ジェイルはこの時点でダーナスという人物を理解したと同時に思惑を腹に込める。


 グエンもウィル達も蚊帳の外で話は淡々と進んでいき、本来とは違う人目のつかない城の裏から続く道でウィル達は荷馬車に乗せられる。

 グエンは罪人と一緒にするなと自らが乗ってきた荷馬に乗り込む。

 ウィル達の荷馬にはダーナスが乗り込んだ。監視という意味もあるのだろう。


 遠ざかっていく街の景色をウィルはただ眺めるだけだった。




「恨まれてしまいしたね」

 メレネイアは馬車が視界から消えたことを確認してから口を開いた。

「しゃあないっしょ。今は攻められるわけにもいかんのだから」

 ジェイルは後頭部に両手を組み、飄々と答えた。


「むしろお前らも連れて行かれると思ったけどな」

 ジェイルはアルフレドとメレネイアに苦笑いを浮かべる。


「ガーライルとは私怨みたいなものですしね。それでも期待外れの対応ではありましたが、まあ若かったですしね」


 過去、蒼の災厄の一味であるアルフレドとメレネイアであったが、同じく連れて行かれても当然だったのだ。

 その上でそうならなかったのはダーナス曰く、あくまで二人の兄妹の連行として、他の指示については知るところではない、との答えだったのだ。

 おそらく国としてではなくミュトスより上の思惑から生まれた今回の引き渡し要求だったこと、アルフレドの想定ではガーライルが出てくることも考えていたが出てこなかったことを考えるとガーライルの指揮を越えた命令だったのだろうとも推測する。

 ガーライルが関わっていたのならばまずアルフレドの存在には気づいているし彼の性格上、自ら向かってくるだろう。

 もちろん単純に優先事項ではなかったことも考えられたがそれでもダーナスには彼の指示があってもおかしくはなかったのだ。



「それでこの後は考えてあるんですよね」

 しばらく見守っていたユーリが口を開く。

「ん? ああ、本当はお前らとお別れとしたかったが、無理だよなあ」

 ジェイルは後ろの兄妹に振り向き、ため息まじりに答える。


 ジェイル達は城へ戻っていく。 

 残されたユーリは楽しいのかその足は軽やかにその後ろをついて行った。

 アイリはさらにその後ろを無表情でついて行った。

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