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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第2章 自由解放戦争
53/197

53話 息はつけず命もうけず

 終わった。

 穏やかな風が先ほどの喧噪を嘘のように凪いでいた。


「ニーアそれって」

 ウィルはニーアの手に握りしめられた青い玉を見つける。


「うん。リヴァイアスの海玉だって」

 誰かに聞いたようにニーアはその名をつけていた。

「竜の魂ってとこか、黒いのは?」

 ニーアの両手には黒玉はなく海玉だけが手のひらを転がっていた。

「ああ、それなら」

 ニーアが何の気なしに言うと右手の手のひらから浮かび上がってきた。

「なんか私に取り込まれたみたい」

 苦笑いか照れくさそうに言うと再び手の中に沈み込んでいった。

 右手の甲には黒い紋章、ディアヴァロが出現した時と同じ紋章が刻まれていた。


「心配しなくても大丈夫。ちょっと、疲れた……だけ」

 糸が切れたように倒れ込むニーアをウィルは支える。

「ニーア!?」

 メレネイアがニーアの様子をうかがう。

「眠っているだけのようですね」

 ウィルを安心させるように穏やかな声で伝えた。

「そっか。お疲れさん」

 小さな寝息をたてて眠るニーアを起こさないように優しく背中におぶった。


「帰ろうか」

 ウィルは皆に視線を向ける。

 皆、思い思いの表情だったが、達成感は同じようで満ちたれた顔で頷いた。

 ただユーリは気まずそうにウィルに向き合う。

 アイリは相変わらず無表情だった。


「あの、ウィルさん」

 少し迷うようにしたあと、ようやく言葉をひねるように口を開いた。

「申し訳ありませんでした」

「ごめんなさい」

 ユーリが頭をさげると傍らのアイリも頭を下げた。


 その謝罪に対し悩むように考えるウィル。

「え、なんで謝ってんだかわからないけど、皆、無事だし良かったな」

 ピンと来ていないウィルはユーリの肩を叩く。

「えっと、ありがとうございます?」

 予想外の対応にユーリは戸惑う。

 本当ならば、色々と質問されるはずだった。

 自己の目的を最優先し仲間を危機に陥れた。

 結果的にルイノルドは味方として動いてくれたのは良かったものの敵であれば誰か死んでいても不思議ではなかった。

 ただそこまで頭が回っていないのではともユーリは思い、同時に失望すら感じた。

 だが、

「ま、言いたくなったら言ってくれな」

 ウィルは他には聞こえない声でユーリに告げたあとエレベーターに向かっていった。

 ユーリは表現できない感情を覚える。

 胸がつまるような感覚。それを悟られないようにユーリは再び頭を下げる。

 彼の疑問を持った上で人を信ずる姿勢に、寒気すらユーリは覚えた。


「いい感じに帰る所悪いが、端末認証しなくていいのか?」

 ジェイルの一言に皆どことなく力が抜けた。

  

 無論、ウィルも踵を返しフロア中央の幸運にも無傷だった台座にに向かうのだった。

 

 その後、ジェイルが端末に認証をかけ、この国周辺でリアルタイムでの連絡が取れるようになった。

 こんなこともあろうかとアルフレドが人数分の端末を用意していた。

 ウィルはユーリから受け取った端末で認証したのだが、残念そうにアルフレドはウィルのために用意したよくわからないデフォルメされた熊がデザインされた端末を懐にしまうのだった。

 

 再度帰りのエレベーターに向かうとき、小さな地鳴りを感じた。

 一行は発生源がここではないことに安堵したあと、大穴から見える景色の先、ちょうどミリアンの方角に赤い光が広がっていた。

「そんなバカな……」

 ウィル達とは違う表情でそれを眺めるアルフレドとメレネイアは立ち上がる火柱の存在におののいた。


 その直後、ジェイルの端末に連絡が入ったかと思うと、瞬時に顔が堅くなり、急ぎ外へと向かうことになった。

 塔が上昇したせいか元の入り口の階層ではなく更に下の階層にエレベータは直結されるようになり、そこからウィル達は元の洞窟をたどっていくことになった。

 久しぶりの日光だとか澄み切った空気を存分に味わうだとかの余裕はジェイルには感じられず、それに引っ張られるように急ぎ城へと帰還することになる。




 ミリアン王国とアストレムリ聖皇国との国境沿い、大河を挟んだミリアン王国領【トーメリク】軍事的な重要拠点でもあった都市は多くの軍人、市民と共にテイントリア大陸地図から大火によって消え去った。


「ふふ、あははははは! このイフリーテの力があれば、私が、私こそがエファンジュリアなのだから!!」


 煉獄を思わせる濃い紅炎を纏う少女は金の髪をなびかせ世界にその力を思い知らさせる。

 巫女エファンジュリアは、諸外国からは魔女セラとして恐怖の代名詞となる。



「報告しろ!」

 ジェイルは上着を受け取り羽織ると、玉座に座った。


「はっ! ケイン・アマネ郷からの報告によると、アストレムリ軍と見られる5名によりトーメリクは壊滅したとのこと!」


「なっ、あの要塞都市がその人数で!?」

 忌々しい顔を浮かべるジェイルをよそにイリアがその有り得なさに驚きの声を上げる。


「はい……、それとその中にエファンジュリアを名乗る者による単独攻撃のようだと……」


 兵士は共に帰還していたウィル達の中にいるニーアを一見する。


「先手を打たれたってところか……アル」


「そうですね。次の彼らの行動は……」


「ただいま帰還しました」


 アルフレドが思案していると入り口の扉が開き、軍人らしからぬ一般市民のような簡素な服装の男が入ってくる。


「ケイン、帰ったか」

 ルイノルドはケインの無事な姿に安堵を一瞬だけ見せた。


「これは蒼の英雄ご一行、ケイン・アマネです。以後、お見知り置きを」

 胸に手を当て軽くお辞儀する。


「さて、失礼は承知ですが報告を優先させていただきますよ。概ね予想通りの要求がミリアンに突きつけられたようです」


「ではやはり」

 アルフレドは予想していたかのようにケインの続きを待った。


「貴国が匿っているエファンジュリアを騙る大罪人ニーア・K・リベリ、及び蒼の災厄ウィル・O・リベリを初めとする一団の即時引き渡し、そうすればこれ以上の尊い人命の喪失は防がれ、講和の場を持つ、ですね。国内に大々的に宣言され、ミリアン上層部はだいぶ焦っているそうです」


「ミリアンにいないことなんて既に調べがついてるくせにな」

 肘をつきため息するジェイル。


「なのに関係のない町を襲ったってことか」

 ウィルは怒りが湧いてきていた。

 関係のない人間を巻き込むやり方が気にくわなかった。


「お前の怒りはわからんでもないが、非常に有効な手段だってことさ。圧倒的な力で都市一つを壊滅させた上にミリアンが匿っている、お前等が悪いと宣言する。これがどう流れていくか分かるか?」


「……反撃じゃないのか?」

 ウィルはまさか間違えてはいないとは思ったが、ミリアンが反撃する理由を与えるとは今一つ違和感もあった。


「ざーんねん。ミリアン国民の戦意は削がれた上に戦争そのものに反対するようになる。そりゃ自分たちがいつ死ぬかわからないからな。無謀な戦いを仕掛けたって扇動する輩は既にいるだろう。もちろんその中にはアストレムリの工作員がいるだろうな」


「はい。既に各都市で国民にふれまわっている人間がいるようです」

 ケインがそれが確かだと頷く。


「国民の怒りはどこに向く?」


「ミリアン政府……」

 ウィルは国民感情が政府そのものに向かうことが想像できた。

 それによる結果は。

 

「政府そのものに向いた怒りを抑える為には、それを別の方向に向けるしかない。そして蒼の災厄であろう

人物はイストエイジアに渡っていることくらい調べはもうついているか、上層部に情報は渡っているのかもな」


「そして、すべてをイストエイジアへ転嫁してくるでしょうね。後に同じ要求をしてくるでしょう」

 アルフレドがそう結論づけた。


 そしてそれは現実となった。

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