46話 その目には映るは
中は仄かに明るかった。
遺跡と聞いていたのだが、古びた様子もなくエヴィヒカイトの材質とよく似た鈍く光沢のある壁や床だった。
入り口からは一本の通路が延びており、その先には開けた場所があるようだった。
「暗いな……」
ウィルは足下に注意して進む。
「なんでも天候と連動してるって話らしいぜ、今日は曇りだから空気読んでんだよ」
いまいち根拠にかける推論を得意げにジェイルは語りまった警戒することなく進んでいく。
内部構造は既に把握しているのだろうと考えてジェイルに一行はついて行く。
通路を抜け、円形に開かれた空間に出た。
中心には円を描いた弱々しい光が灯っており、角には螺旋状の階段が下と上へと続いていた。
それ以外には特に何もなかった。
「ここは玄関みたいなもんだ。階段登るぞ」
ジェイル多少拍子抜けしている一行に気がついたのか、まだまだこれからと螺旋階段を勢いよく登っていく。
「後ろのことも気遣いなさい」
メレネイアの注意も聞こえていないようでさっさと上に消えていく。
「まったく、私とアルは一度来たことがあるので、私たちの後ろを着いてきてください」
メレネイアが先に立ち先導した。
アルフレドはなぜか一番後方に下がっていた。
階段を上がると先ほどのフロアよりは幾分明るく見渡しが良かった。
「おせえぞ、お前ら」
先に着いていたジェイルが仁王立ちだ後ろの仲間を待っていた。
それには誰も返事をせずジェイルの脇を通り、その先を見通す。
「……ちなみにあいつがいるなら一番上だろうよ。階段はその先な」
その先、ふと上を見てみると天井はひどく遠く、海中であるにも関わらず日光が差し込むように延びていた。
「どうなってんだ?」
ウィルはその不可思議さに困惑する。
中心は半透明の柱のようなものがずっと天井まで延びていて、それに沿うように螺旋階段が延びていた。
おそらく階層ごとにフロアが延びていて階段に直結していることがわかった。
フロア毎が大きな螺旋階段のようにも思えるほどだった。
レインシエルがふと恐ろしいことに気づく。
「ねえ、この階段上っていくの?」
それを聞いて始めて訪れた者達は瞬時に嫌気が差す。
一番上まで限りなく遠い。
予想もしていなかった困難に躊躇する一同はジェイルに答えを求める。
「あ、忘れてたわ。いやあ久方ぶりだからさ。よし俺はここで待ってるから行ってこいよ」
ジェイルはそう言うと辺りを見回し壁に隣接する段となった場所に腰掛ける。
「じゃあ置いていきましょうか。ニーアさんこちらへ」
アルフレドは気にする様子もなくニーアを柱へと呼び寄せる。
「何?」
素直にニーアがアルフレドへ駆け寄ると柱のそばに細い台座のようなものがあった。
「手をかざして力を注ぐイメージをしてください」
「……こう?」
ニーアはおそるおそる手をかざしイメージを加える。
するとにわかに台座に紫の光が灯る。
光は床を這うように流れ柱を駆け上っていく。
あっという間に光が登っていった後。柱がにぶく光り上から一際強い光りが目の前の柱に降りてくると、柱に光に沿って切れ目のように入り両側にスライドした。
「えっえっ?」
その現象に戸惑っていると無機質な音声が流れてきた。
『認証マナパターンを確認しました。昇降機構の限定起動、並びにマスター以外の認証を許可します。全機能解放する場合は最上階での認証が必要です』
「やはりまだ生きていましたか、エファンジュリアの力を持つニーアさんはやはり認証されるようですね」
さも当然のように開いた柱の中に入っていくアルフレドに納得のいったメレネイアも中に入る。
「皆さん、早く行きますよ」
なんだかわからないウィル達もとりあえず中に入る。
「置いてくなよ!」
その最後に焦った様子でジェイルが中に入る。
全員が入りきると内側に映像だけのパネルが壁に浮き上がり、アルフレドは縦に並んだボタンの一番上を押した。
すると扉が閉まり、体が重くなったかと思うとみるみる内に先ほどまでいたフロアが遠ざかっていった。
「うおっ、びびった」
いきなりの挙動にウィルは焦った。それも半透明な壁であるので下が透けて見えることに恐怖を感じた。
きゅっとウィルの袖を握るニーアに気づき、兄の威厳のため気を引き締め腰に力を入れた。
ちょっと嬉しかったことも事実だった。
「10年前の巡礼の際もエファンジュリアによって起動したのですよ。ジェイルが知らなかったとは、いえ忘れていたとは思いませんでしたが」
「けっ」
アルフレドの嫌みにジェイルはふてくされるだけだった。
しばらくすると上昇は緩やかになり、静止した。
『最上部です。管理者フロアはこの先の別エレベーターを使用してください』
音声が終わると扉が開いた。
澄んだ空気が肺に満ちていく。環状に延びた細い水路には澄み切った水が流れており、別世界のように感じた。
円柱状のフロアの壁には書物の棚が幾重にも並べてあり、ぎっしりと本が積まれていた。
そして中央には環状の水路に守られるように、祭壇にも似た台座が天からの光を受けていた。
だが、ウィルの目にはそんな視覚情報は一切入らない。
唯一その台座に向かい、ウィル達に背を向けた黒フードの人間だけが目に入っていた。
来客に気づいたのか、はたまた待っていたのか黒フードはゆっくりとウィル達に振り向く。
顔は仮面によって隠されその双眸から蒼が覗いていた。
その瞬間、弾かれたようにウィルは走り出す。
何から話そうか、どんな顔をしたらいいのか、とここに来るまでに考えていたことなど全て消し飛んだ。
ただ、蹴り飛ばすか殴るかしかこの渋滞した感情を整理する方法がなかった。
「ウィル!!」
ニーアの静止する声など聞こえない。
皆、一歩出遅れウィルには追いつかない。
ユーリはその後ろで不敵な笑みを浮かべていた。
それに気づいたのはアイリただ一人だった。
二人の蒼が激突する。




