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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第2章 自由解放戦争
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44話 冷たい雨

 アストレムリ、聖域エヴィヒカイトからほど近い草原にて彼らは出発を前にしていた。


「オルティだっけ? よろしく頼むわ」

 友達かのように呼び捨てするのもいらついたがどことなく軽い感じの男、ルイノルドにこめかみの血管が浮き出る。

 寝癖がついた髪を気にすることなくオルティの肩に手を置く。

 少し日に焼けた肌がそれなりに絞り込まれた筋肉を際だたせていた。


「気安く触るな。なんだってお前みたいな軽薄男がこの旅に同行しているか疑問しかない」

 気を許した人間には固い言葉遣いはしないのだが、得体の知れない人間には言葉は固い。

 オルティはイヤそうに手を振り払う。

 オルティの分厚い灰色がかったローブが風を捉えてばさりと音を立てる。

 


「わりいわりい」

 ルイノルド気にも止めないように手をひらひらとさせる。


「ルイ、ちゃんとお願いしないといけませんよ」


 傍らに白いドレス装束を纏った少女がルイを子どもをたしなめるような扱いでルイノルドに接する。

 親子ほどの差があるはずなのだがどちらが親かわからなくなるほどだった。


「わかったよ。 オルティ、頼む!」

 先ほどと何が変わったかと言えば頭を下げたくらいの変化しかなく言葉は対して変わっていなかった。

「アリスニア嬢、本当にこいつを連れていくの?」

 やれやれとため息をついて、エファンジュリアである16歳の少女を心配そうに見つめる。


「楔の巡礼先でいきなり現れたのは驚きましたが、命を助けられたので悪い人ではないですよ。これも運命です」

 裏表のない笑顔を見せる。

 オルティは脱力した。

 アリスニアは世間知らずな所と人を信じるところがあり自らも娘を持つ親として心配だった。


「大丈夫ですよ。私達もいますし」

 馬の点検をしていた細目の男が一段落ついたのか話入ってきた。

「アル、そういうお前達は国に信用されてないだろ。たまたま同じ場所にいてアリスニア嬢を助けたってだけで」


「でもアリスニア様の信頼は得てますし」

 そういうアルフレドは自信ありげに微笑んでみせる。


「あんまり気に病むのは毒ですよー」

 そう言い残して再び馬へと戻った。

 相棒のメレネイアとシアセスカの姿は見えなかった。


「はあ、どうなるんだか」

 今後の先行きが不安だった。

 頭痛すら感じるほどだ。


「ま、元気だせよ!」

 頭を下げていたはずのルイノルドがまた肩叩いてオルティを元気づける。


「誰のせいで……!」

 一発殴ってやろうかと思い拳を上げそうになる。


「元気じゃねえと心配かけちまうからな」

 空を見上げてルイノルドは誰かに向けるように呟いた。

 オルティの紫の瞳に映る光に照らされた蒼い瞳はどこか悲しそうに潤んでおり、振り上げた拳は力を失った。


 巡礼先の海上遺跡に現れた蒼の異邦人、本来ならば死刑もやむなしだったが昇華した魔物に襲われたエファンジュリアを助けたことが、死を免れた唯一の理由だった。


 旅の中であいつのアーティファクトを創る。

 エファンジュリアの信託を受ける為には強力な器が必要だった。

 その為、オルティの旅は錬成材料の採取も兼ねていた。折り返しの時点で完全な形へと錬成させる計画だ。



 途中、旅の記録が綴られているが、箇条書きが目立った。

 あまり時間がなかったようにも思えた。

 ウィルは途中途中でルイノルドがしでかした事件やらも目に付き恥ずかしさからかページをめくるスピードが速くなる。


 ページが終わるに連れてルイノルドヘの評価が目に見えて軟化していることがわかった。

 


 呆れた。

 どこまでお節介なのだ。

 

 オルティは日記を書きながら愚痴にも近い内容を書き留めていく。

 だがどこに言っても最後には感謝されていることを思い出し手を止める。

 思い返してみるとオルティ自身も人の助けになることに喜びを感じ始めていた。


 途中、加わったジェイルもその一人でルイノルドが無理矢理仲間に引き込んだこととも、今となっては良い選択だったのかと思う。

 現に彼は重要な戦力として活躍していて人間的にも成長していた。

 ただ誰に似たのか軽薄な印象だけが汚点だったが。


 一息つく。

 オルティは錬成の最終段階へ臨む。

 工房に降りる途中で暗がりの部屋をそっと開ける。


 そこにはすやすやと眠るオルキスがいた。

 腹を見せるオルキスに毛布をかけ直してオルキスは部屋をでる。




 ページの終わりが近づく。

 そこには単に完成。寝る。

 とだけ書かれていた。そして錬成の手順や道具などが記載されていた。


 最後にページをめくる。


 どこか落ち着きのない震えた文字が綴られていた。


「愛しのオルキス、私を……」

 水が染みていたのか文字はぼやけて消えかかり所々読めなかった。

「ルイの子よ、あいつは……くそ読めねえ!」

 大事な所がにじんで読めなかった。

 

 ウィルは思わず天を仰ぐ。

 年季の入った木目が映るだけだった。

 あいつは、死んだ?

 と連想してしまう自分が嫌だった。


「ルイの子はお前か」

 黙って聞いていたザラクはようやく口を開いた。

 ウィルを見つめる瞳には厳しさが消え、子を想う優しい澄んだ瞳だった。


「あの子が最後に帰ってきたのは蒼の災厄の後じゃった。ひどく憔悴していての」


「ルイの子って、どうして俺が来ることを知っていたんだ?」

 ザラクの柔和な雰囲気に落ち着けたのか、その部分が気にかかった。

「なあ、オルキスの母親はどこにいるんだ?」


 ザラクその問いかけに俯き、しばらくおいた後、決心がついたのか口を開く。

 それはとても言いにくいようにゆっくりだった。


「あの子は……自ら命を絶った」

 次の言葉を紡ごうとしたとき扉が開いた。

 そこに立っていた人間にザラクは目を見開いた。

 おずおずと気まずそうに入ってこようとしたようだったが、ザラクの声を聞いてしまった。

 オルキスが立ちすくしていた。

「どういうこと……? お母さんは帰ってこなかったって、蒼の災厄で死んでしまったって、ねえそう言ってたたじゃない!」


 開ききった扉の脇にはニーアとレインシエルが気まずそうに立っていた。

 雨が降ってきていたらしく3人とも髪を濡らしていた。





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