40話 爆煙のアトリエ
大通りを抜け、路地を一本入る。
人通りが少ない通りだったが整備されていて風通しがよかった。
「ここです」
イリアが立ち止まる。
ウィル達はその先の建物を眺める。
「おお、いかにもな」
ウィルはそう感想を漏らした。
軒先につり下げられた看板には
【アトリエ オルキス】
とあり、凝ったデザインだった。
その看板を掲げるようにかわいらしくデフォルメされた熊の絵が、主人が女であると連想させる。
それもかわいらしい女の子なのだとウィル、ニーア、レインシエルは確信し前評判など雲が晴れるが如く吹き飛んでいた。
「かっわいい」
ニーアは看板を見上げてはしゃぐ。
それ以外にもこの建物も他の住宅や建物とは違い、どこかかわいらしい木造デザインであり、丸みを帯びたような印象を受ける。
右側の天井からは煙突が見えそこから白い煙がゆっくりと天に昇っていた。
「……行きましょう」
はしゃぐ少女二人とは相反してこめかみを抑えながら扉へと向かう。
「お邪魔しまーす」
レインシエルが看板と同じ表札がついた木造の扉を押して開く。
特に反応がない。
訝しく思うがぞろぞろとアトリエ内に入っていく。
中はカウンターで仕切られ右奥には火のついた炉、用途のわからないフラスコが壁の棚に色鮮やかな液体で並び、別の段には鉱石だろうか、石も並んでいた。
そして、左奥で後ろ向きでなにやら作業している水色のローブ姿が見えた。小さい背中だった。
「あー今日も幻聴だろうなあ。どうせ誰もこないもんなあ」
ぶつぶつとそのローブ姿の少女はやる気のない独り言を呟いていた。
「あのー」
レインシエルがその後ろ姿に声をかける。
するとびくっと少女は肩を反応させるもこちらには振り向かなかった。
「おっと危ない危ない。幻聴に気をとられちゃいけない、失敗しちゃう」
『こんにちはー!』
図らずも息を合わせてニーアとレインシエルが先ほどより大きく声をかけた。
再度、肩を振るわせる少女は二度見して器のような台座から空中に浮かぶ水球のような物体から手を離す。
「あ、ほんとにお客様!? ごめんなさい! ようこそアトリエ オルキスへ!!」
焦った様子でカウンターへと小走りでやってくる。
フードを外したが触り心地の良さそうなふんわりとした白い帽子を被り髪から耳の半分を覆っていた。
フードの意味があるのかとウィルは内心思った。
襟足からは薄目の紫色の髪がのぞかせていた。
久しぶりの客だろうか、ぱっちりとした瞳を輝かせ客を迎える。
髪と同じく紫の瞳だったが、右目だけ濃い紫のオッドアイの下には隈がうっすらとでていた。
「すみません。おじい、師匠はいま出かけてて新規の注文以外ならそちらに並んでいるのが商品ですので自由に見ていってください。もしかして何か注文してました? それとも、冷やかし……じゃないですよね」
テンションが上がったかと思うと後半は尻すぼみで声のトーンが落ちていった。
「いや、どっちかというと注文したいんだけどさ、えっと、よくわからないけどあれはいいのか?」
ウィルは少女の背後、先ほどいた場所を指さす。
水球だったものは濁ってどんどんと黒く濁っていいく、わけのわからない気泡が沸騰しているかのようにふつふつとわき上がって行き膨れていく。
「え? あ、だめ! ストーップ!!」
少女はウィルの指さす先を目で追っていきただならぬ様子で戻っていった。
「あ、だめだ」
ぽつりとあきらめの声が聞こえた後、それは爆発し店内は煙で満たされた。
「ごめんなさい」
少女は咳をしながら鼻を突く臭いに顔をしかめ手探りで水球があった上部に取り付けられた管を触る。
管は淡く光ると風の音をさせながら煙を吸引していく。
灰色だった店内は見る見るうちに視界をはっきりとさせていく。
炉の排気管と合流する管は煙を送り煙突に吐き出していった。
「またやってらあ」
外では爆音に焦る様子もなく町人が煙突からもくもくとどす黒い煙を昇らせる様子を眺めていた。
「ご迷惑おかけしました……」
一連の出来事にどう声をかけていいか皆迷った。
「なにを作っていたのかは知りませんが、あまり名物となるのは感心しませんね、オルキス」
イリアは息を整え少女、オルキスを静かに叱る。
「あ、イリアさんでしたか、面目ないです」
今更気づいたのかイリアにぺこりと頭を下げる。
「ということは君がここの店主? あたしたちと変わらないのに」
レインシエルは看板の店名を思い出し、オルキスの名を店名にしていることから思わず聞いた。
「あ、わたしはオルキシェス・クリスティアです。皆からはオルキスと呼ばれてますのでそのように呼んでください。それと確かに店名はそう変わったんですが、元は祖父の店で本当は祖父が店主で、でも私が店主にいつのまにかなってて、看板も変わってて、いずれ継ぐならって勝手に変えられてたんですよ」
「えっと、つまり実質はオルキスのお爺さんのお店ってこと? 名ばかり店長みたいな?」
レインシエルのその言い方はどうかとウィルは思ったが、オルキスは素直に受け取ったようだった。
「そうなんです! ですので申し訳ないのですが、アーティファクトのご依頼はお爺ちゃん、師匠がいないと」
「そうですか、いつ戻ってくるのですか」
イリアは多少ほっとしたようだったが問題はその人だったので問題が解決しなかった。
「素材の仕入れに行っているのでもうしばらくしたら戻ってくるかと、良ければテーブルでお待ちください。紅茶を入れますね」
オルキスはとことこと奥に引っ込んでいき生活用の棚からカップを取り出し茶を入れる準備をしにいった。
「待ちましょうか」
イリアは椅子に座り時間をつぶすようだ。
だが、初めてだろう他3人は商品を物色する。
ほどなくして紅茶の爽やかな香りが店内に漂い始めた。




