36話 夜明け
黒竜討伐から一夜明け、犠牲者は出たものの夜は宴となった。
その際、ディファルトが犠牲者の肉親に一人ずつ挨拶を交わしていた。
酒を飲みながらもウィルはその様子を見て、守れなかったことを悔やんだ。
もっと力があればとも傲慢な気持ちさえ湧いてしまった。
涙を見せるある母親はウィルの存在に気づく。
近づいてくる姿にウィルはどう反応していいものか戸惑った。
「あの、すみま」
「ありがとうございました!」
「え?」
予想外の感謝に謝罪が止まった。
「あなたが居なければ他の皆も助からなかったでしょう」
「それでも俺がもっと強ければ誰も死ななかったんです」
すると母親は優しく泣きはらした顔を笑みに変えた。
「あまり傲慢や無謀は感心しません。息子はそれで死んだのです。いつも言い聞かせていたのですが」
その言葉にウィルは誰の母親かなんとなくわかってしまった。
そして、気丈に振る舞う母親を見て送り出した母の覚悟も感じ、覚悟がやっと追いついてきたウィルは情けなく思った。
それから、酒は注がれに注がれさすがに休憩しようと輪から離れ騒ぐ皆を遠目に眺めた。
「飲み過ぎですか?」
その言葉とは裏腹に瓶に入った酒を持ちグラスを渡してきたのはメレネイアだった。
「メルさんは全然余裕そうですね」
ウィルのグラスに酒が注がれる。少し黄色がかった透明な酒が焚かれた火に照らされる。
しばし二人で無言で飲み続ける。
「メルさん、すみませんでした」
「なにがですか?」
メレネイアはさらにくいっと酒を一口含む。
その顔は穏やかで黒竜線前のウィルに対してのもやもやとした感情はなかった。
「・・・俺は覚悟できたと思います。ただ、これから先も迷うかもしれません。でも目の前の人くらいは守れるようにはなります。救えられる命を救わないのは、うまく言えないですけどふさわしくないって思うから」
「・・・迷うのが人です。後悔さえしなければ良いのです。・・・また一緒に戦いましょう。あの一撃は震えましたよ」
メレネイアは最後にグラスの酒を首をあげて飲み干した後、ウィルの頭をなでて輪へと戻っていった。
「まだまだ子どもってか・・・」
軽口は叩いたものの嫌な気分ではなかった。
少なからず一緒に戦ってくれる仲間や声をかけてくれる仲間がいる。
そのことが改めて一人ではないことを認識させてくれた。
ウィルは酒をさらにゆっくりと味わうのだった。
翌日、雲一つない青空の中、ウィル達は馬車に乗り込んだ。
「本当はフォーゲルを用意したかったのだが、交易に回しておってな」
馬車に乗り込んだウィルにディファルトは申し訳なさそうに伝えた。
「いやいや、護衛まで用意してもらったんで充分ですよ」
ウィル達の前後に馬にまたがる5人の兵士達が護衛に回ってくれた。
その兵士達は皆、黒竜ディアヴァロとの一戦を共にした者だった。
「ウィルさん、皆もお元気で」
見送りに来たとは思えない荷物を背中に背負いティアは涙声で別れを告げる。
にもかかわらず自然に乗り込もうとするティアをヨネアは止めていた。
「もう!皆さんの邪魔をしてはいけませんよー」
「だって皆さんの旅を記録する役が必要です!」
涙目だったティアはついに泣き出す。
「ああ、この子ったらー」
困り果てるようにわたわたするヨネア。
ディファルトはため息を付く。
「来たらいいじゃん」
ひょこっとニーアは顔を出し、険しい顔のディファルトに怖じ気つくことなく目で訴えた。
「ほらニーアちゃんもこういってますし」
「困らせないでくれ。いいから出発してください」
ディファルトは馬車を叩き手綱を引くアルフレドに合図を送る。
「良いのですか?」
アルフレドは振り向き、さらに暴れるティアを見世物でも見るように楽しそうに眺める。
「貴方まで勘弁してください」
苦笑いで返答するディファルトに満足したのか馬を歩かせる。
「ちょっと、ちょっと待てやああああ!!」
遠ざかっていく声に跳び蹴りがついてこなかったことに全員安心した。
「なんだかんだ一緒に旅することになりましたね」
町が見えなくなった頃に、同乗していたユーリが隣のウィルに話しかける。
アイリの姿は見えないが荷馬車の上で横になっていた。
「俺らは助かるけど、本当にいいのか?」
「元々僕たちには目的地がありませんから、それにウィルさん達の旅について行ったほうが目的の近道かと思うので」
そこでウィルは船の上での会話を思い出す。
「ああ、綺麗なもの捜しってやつ? そんないい旅になるとは思えないけどさ」
ウィルは両手を頭の後ろにつけて背もたれに寄りかかる。
「いえいえそんなことはないですよ」
「ないですよー」
聞こえていたのか空を眺めていたアイリも答える。
「あっ私も行きたい!!」
ニーアは後ろの出口に周り荷馬車を登っていった。
メレネイアは横切るニーアをよそに本を読んでいた。
その横でレインシエルは母の肩を支えに既に寝ていた。時折動く尖った耳にウィルは小動物を見ているみたいで癒された。
「ところで僕の端末はまだ持っていますか?」
「ああ、あるよ?」
ウィルは肩掛けのバックを開き見せるように少しだけ取り出した。
「ん? それは何ですか?」
ユーリはバッグに入っていた別のものが気になった。
「ああ、銃だよ」
ウィルは短銃を取り出す。
「じゅう?小型の砲筒のようですが、特にアーティファクトでもなさそうですね」
興味があるのかそれをまじまじと眺める。
「ん? こっちの世界にはないのか、あ」
「こっちの世界?」
銃への興味がウィルの話へと移ったことを感じ、ウィルはしまったと一瞬なったがすぐ気を取り直す。
「あーそっか、そこまで言ってないんだっけ。まあ仲間になったしいいか。 いいですよね?」
前方で馬を引くアルフレドの背中に声をかける。
「おっちょこちょいウィルさんにお任せします」
どことなく咎めるようなアルフレドの返事に少し迷ったが、珍しく嬉々とした表情のユーリに本当の自分の出自を話すのだった。
しきりに大げさなほど頷き話を聞き終わったユーリは満足げにウィルの手を握った。
「疑ってはいませんが、本当ですかと言いたくなる話ですね。いつかこの外にも出たいものです」
ぶんぶんと手を振り喜びを伝えてくるユーリにウィルはどう反応していいか分からなかったが、信じてくれたことには素直に嬉しかった。
「ウィルさんの故郷の話を聞かせてください!」
いつの間にか起きてきたレインシエルもウィルの目の前へと移動してその話をまった。
「あー、まあベハーブって港町でー」
思いつく所から話し始める。
メレネイアの本を読む手が止まり、尖った耳がぴくぴくと角度を変えていた。




