35話 蒼命の輝
黒竜は絶え間ない攻撃に後方へと下がり始めていた。
ディファルトは多少、違和感を覚えながらも予定通り伏兵のタイミングを待つ。
「よし、今だ!」
1人の兵士がその合図を受け筒を掲げる。
するとそこから赤い信号弾が放たれた。
すぐさま、黒竜の後ろ姿に対して光弾が炸裂した。
「グオオオ・・・・」
黒竜は力無く倒れ込んだ。
「撃ち方やめ!」
ディファルトが手を上げ静止させる。
「やったのか?」
若い兵士が確信を得るため近づいて剣で差す。
ディファルトの静止は間に合わなかった。
「いけません!」
叫んだのはティアだった。
黒竜は目を見開き、首をもたげ、兵士の上半身をその牙で容赦なく噛みつく。
「あ」
間の抜けた声を出した兵士の顔は見えなくなり持ち上げられた体は黒竜の口内へとぐしゃりと嫌な音を立てて姿を消した。
皆、その光景に呆気にとられた。
竜の口角が上がる。それは人間を見下すかのような嘲笑だった。
「・・・愚かな人間よ、貴様らの魔など痒くてたまらんわ」
しゃがれた低い声が竜の口から発せられた。
「テイクオーバーー・・・だと」
ディファルトは歯を食いしばる。
耐えきれず、一人を皮切りに皆ありったけの攻撃を放つ、それは恐怖と後悔からか後を省みていなかった。
「止めろ! 奴には」
「消え失せい…」
光弾は直撃はするものの炸裂どころか消し飛んだ。
黒竜の表皮を更に一枚被せたように薄い膜が覆っていた。
「一人だけ察する人間がいたか」
黒竜はディファルトに視線を向ける。
次の標的を定め、飛翔する。上空で大きく口を開けると黒玉が一つ発生した。
先ほどとは違い一つだけの黒玉は闇をほとばしりながら巨大化していく。
「全隊、防壁展開」
防衛隊が何重にも膜を展開する。
だが、展開仕切れず消失する。
「な・・・」
手の打ちようのない状況に皆、死を悟った。逃げ出す者は誰一人いなかった。
「諦めんな! ニーア!」
ウィルは皆の前へと立つ。ニーアは察したように歌いはじめる。
蒼がきらめき始めた頃、黒玉から闇の一閃が放たれた。
空気を切り裂きながら光線が地上へと迫っていく。
その数瞬でユーリ、アイリ、メレネイア、レインシエル、そしてアルフレドが動く。
「モードセカンド、イージス!」
ユーリの剣は上空へと投げられ、円上に広がる。
メレネイアもその残ったグローブの力でユーリの盾に力場を展開する。
光線が盾に直撃、一、二秒持ったかというところで盾は四散した。
「レイ! 力をくれ!」
レインシエルはウィルを支えるように構え、自らのマナを注ぎ込む。
人間に直接注ぎ込むことに疑問を感じる前に、ウィルの蒼の煌めきはレインシエルのマナを吸収し剣へと流れ込む。
ユーリ、アイリとメレネイアもそれに続く。
光線が迫る。
「今!」
アルフレドが合図を出すのと同時に踏み込む。
恐らくアルフレドの仕業か理由は分からないが力が大幅に増幅されていくのを感じる。
地面には一つの銀色の瓶が転がっていた。
永遠にも感じる時間の中でウィルは思う。
剣を取る覚悟。命を奪う覚悟。力があるならば守れる、誰かを守るために戦う。
なんだ、簡単じゃん。
ウィルは周りの仲間の存在を感じながら、覚悟を証明すべく迷い無くその剣を振るった。
蒼き光は膨れ上がり、黒竜の一閃とぶつかる。
蒼の粒子が周囲のマナをもニーアを経由して取り込まれていく。
「綺麗・・・」
ティアはその光景を一切の状況を忘れ、後に黒竜との一戦において【蒼命の輝】と自らの手記に残した。
そして、闇は消し飛び、蒼き一閃は黒竜を貫いたのだった。
ーーーーーーーー
黒竜は頭を垂れ地面へと落下した。
もう誰の目にも勝利を疑う者はいなかった。
「う、うおおおおおおお!」
静けさの後、歓喜の雄叫び木霊した。
ウィルはよろめきディファルトはすぐに肩を貸す。
「ありがとう英雄よ」
そのまだ華奢な少年に賞賛と感謝を告げた。
歓喜の中、ディファルトはニーアと交代し、兵士達に向かう。
ニーアにウィルは支えられながら黒竜に近づく。
黒竜は自らを討ち取った少年を見つめる。
「見事なり、懐かしき蒼よ」
その目は恨みも憎しみも無くウィルを見つめた。
「懐かしい?」
ウィルの返答に黒竜はグルルと喉を鳴らす。
「ふっ、そういうことか」
黒竜の体が光の粒子に分解され空へと登り始める。
「我は光へと還る。輪を外れし蒼と巫女よ、次は共に戦おうぞ」
「おい、待ってくれ、何を知っているんだ!」
「我らの鎖を解き放て、さすればーーー」
最後の言葉の前に完全に黒竜は消え去り光は空へと登った。
「なんだってんだ」
謎を残したまま消えた黒竜に釈然としなかった。
消えた側には食われた兵士が横たわっていた。傷はなくなっていたがすぐに死亡が確認された。
運ばれていく姿を見送った後、ニーアは光るものに気がついた。
「これ・・・」
ニーアは黒竜のいた場所に落ちていたそれを拾い上げる。
それは深く吸い込まれそうなほど綺麗な指でつまめるほどの黒玉だった。
エヴィヒカイト中枢、少女は大画面に映る文字を眺める。
一見ニーアに似ている少女は一人、悲しみか喜びか分からない涙を一筋流す。
黒の消失を確認
崩壊危険度:10
因子を確認
修正コード発行
申請を許可
・・・・
12機構を起動しました・・・・・
「ルイ・・・」
少女は懐かしきその名前をつぶやいた。
アストレムリ国内でもその光は確認された。
王の謁見室では民の不安が最高潮に達している現状が伝えられた。
「王よ、これは一大事ですぞ。蒼の災厄がイストエイジアに合流したとなるといつ参戦してきてもおかしくありません」
王の側近の老将軍 ジオネトラは進言した。
「であるな・・・、蒼の災厄の引き渡しを要求しろ。もちろん断るようならばこちらから叩き潰すとな」
「はっ、そのように」
「保険をうちましょう」
王の背後から黒装束の男が突如現れた。
「これはオルリ殿、何か良い案がおありかな?」
王は突如現れた男に驚くことなく迎えた。
「ヴァイスエファンジュリアを派遣しましょう」
「ほう?」
王の反応とは別にジオネトラは進み出る。
「しかし、先のヴァイスエファンジュリアは既に奴の手に渡っておりますぞ。今から別の者など」
「ジオネトラ将軍、ご安心を。既に見つけ出しております。ミュトスに護衛させておりますが彼女の力を示し有効な外交手段としましょう」
「任せよう」
王の言葉にオルリは頭を垂れ、煙に包まれると消え去った。
その一瞬、フードから銀髪が垣間見えた。




