34話 顕現せし黒竜
森は不思議な静けさがあり不気味な雰囲気に包まれていた。
日の光は森に遮られ薄暗く周囲を照らしていた。
しばらく進むと斥候が森の中から駆け寄り王へとひざまづく。
「報告します。情報通りこの先の薬草地帯にて確認しました。こちらの認識阻害により目標は休んでいるようです」
「ご苦労。予定通り隊を分割する。後発隊は回り込み合図あるまで待機せよ」
ディファルトの命令を受けた各隊長は静かに部隊を率いて行く。
「先遣隊の数は少なくなるが、まずは追い立てるのが目的だ、ウィル殿もそういうつもりで頼む」
「了解っす」
つまりは突っ込まず足並み揃えて追い立て背後の伏兵で一気に攻勢を強める。
いきなりの全力攻撃は避け、竜種の出方を図る目的があった。
少数を活かし音を鳴なるべく出さず森の中を進む。
そして少し開ける場所が見えると薬草だろう植物の群生地帯の一角に、いた。
報告通り認識阻害のおかげが尻尾を丸めて地に伏せる、その名の通り竜が呼吸で体を上下させていた。
それは幾分距離はあるものの肉眼でもわかるほどだった。
それほど大きく闇のように黒いその巨体は緑の地には不釣り合いなほど存在感を放っていた。
「アーティファクトを起動しろ。マナを漏らすなよ」
後ろに控えた遠距離攻撃を担う杖を構える、魔砲隊の集団はその杖に光をともし始める。
認識阻害の内側では空気中の急激なマナ状態変化までは抑えることはできない。
ゆっくりと文字を浮かび上がらせ杖の光は一点にゆっくりと集中していく。
魔砲隊長がディファルドに頷く。
「よし、放て」
それを合図に一気に閃光を放ち、巨大化した光は竜を飲み込むほどとなり放たれた。
目にも止まらぬ早さで竜種へと直撃する。
その瞬間、竜種の眼が見開いた。
直撃、雷撃のような大気を震わせる轟音が辺りを響かせる。
「行くぞ!」
ディファルドの言葉で先遣隊は竜へと距離を一気に狭める。
舞い上がった焦げ臭い土煙の中で、空気を切り裂く慟哭が鳴り響く。
「グオオオオオオ!!」
その威圧感とともに土煙は竜の翼によって吹き飛ばされ、その姿を再見させた。
剣を振りかぶった兵士は思わず足を止める。決して臆していた訳ではないがただ本能的にその姿を仰ぎ見た。
ウィル達も思わず立ち止まってしまった。黒い翼を広げたその姿は、よりいっそうの大きさとなり眼下の人間に敵意と怒りを露わにする。
「怯むな!!」
ディファルドは立ち止まることなく飛びかかり剣劇を与える。
その姿に正気を取り戻した一同も攻撃を再会した。
光が屈折し不可視の一撃が竜の頭に与えられる。
メレネイアだった。
一定の距離を保ち両手にはめたグローブを小さく操作する。
その動きに合わせ竜は左右へと頭が揺さぶられる。
ウィルも引き抜かれた剣を容赦なく竜の右足へ振るう。
手応えを確かに右手に感じる。
ニーアの歌、本人は[フォルテ]と名付けていた歌、ウィルの蒼の顕現は制限時間とその後の行動不能という諸刃の剣とも言える力を呼ぶにはまだ早すぎた。
人ではないという認識と命を絶つ一撃は他人行儀的な考えが剣の迷いを消していた。
ウィル自身もそのことには気づいていて、自分勝手な考えだとわかっていた。
レインシエルは陽動も兼ね、素早く移動と攻撃を繰り返しターゲットを絞らせない。
ユーリはアイリから円筒を受け取り握りしめる。
「『ヴォルト』プロセス、モードファースト」
ユーリが唱えると円筒は光を走らせ光は剣のように延び、電撃を迸らせる。
「全チェック、クリア。固定化範囲内。10%を身体強化に転化」
アイリがどこを見るのでもなくその武器展開の完了を告げる。
ユーリは距離を積める。その一歩目の足下に光の残滓が奇蹟を辿る。
『ヴォルト』と名がついた紫電の剣が竜の背中から腹に振り抜かれる。
「んーこれは」
ウィルと同じく、手応えは感じるもののユーリはその違和感に気づく。
竜は翼を目一杯に広げる。
「離れてください!!」
ティアの叫びの直後、その体と同じ無数の漆黒の球体が空間に出現し、全方位に解き放たれた。
「展開!!」
後方の防御部隊が杖を掲げ、竜の周囲に半円状の光の膜が覆うように展開される。
だが、ガラスが割れるようにあっけなく膜は崩壊し漆黒の球体が無差別に直撃する。
膜のおかげか数は一応は減ったものの兵士達への直撃は免れなかった。
直撃の瞬間、弾くように黒い爆発し鎧が砕かれ吹き飛ばされていく。
ウィル達はかろうじて直撃は避けたがその衝撃で立っていられなかった。
メレネイアの背後に居た者はメレネイアの力場によって手前で爆発した。
その衝撃のせいかメレネイアの右手のグローブは使い物にならなくなったようだった。
「あの闇の攻撃は、信じたくはないが奴はディアヴァロそのものか……!
負傷した者は下がれ!!救護隊は治療を! 魔砲隊は攻撃を絶やすな!!」
ディファルドは間髪入れず指示する。
魔砲隊によって先程の威力ではないもののそれぞれが連続して光弾を放つ。
いらだったように低く唸った竜は後方へと翼で空気を掴むと後方へと下がる。
「連続ではあの攻撃は出せないのか?ならまだ助かった」
直接攻撃する手段しかないウィルや他の兵士は負傷した兵を後方へ下げる。
「重傷者は私が治療します。他の者は優先順位をつけて治療して!!」
ヨネアが鞄を持ち集められていく重傷者に駆け寄る。
他の救護隊は軽傷と命を失う危険がまだ少ない者の治療を開始する。
ただそれでもヨネアの担当以外の負傷者には傍目からは重傷者と呼んでもいい者も少なくなった。
それぞれ透き通った緑の石が飾られた指輪を負傷箇所にかざす。
「治癒術式『キュア』起動」
指輪に光が灯り、文字が負傷した箇所に重なる。
みるみるうちに火傷や裂傷が塞がり元の肌へと戻る。そしてちぎれた腕や足ですらつながっていったのだった。
そして、ヨネアは致命傷を負った兵士に当たる。出血が酷い者や手足を失った者だった。
「大丈夫。治します!」
虚ろな目でヨネアを見つめる兵士に力強く優しく声をかける。
「術式『エクスリキュア』展開。周辺マナの同期調整を開始」
ヨネアは鞄から取り出した薄緑色の液体が入った瓶を開け、兵士全体に蒔くように瓶を振る。
外気に触れた液体は光を灯し、落下せず兵士のすぐ上で文字を形作ったかと思うと周囲が同じように輝きだし光の粒子が兵士の患部へとそそぎ込まれる。
えぐられた傷は塞がり、出血が止まった兵士は痛みが無くなったことに安心したのか気を失った。
ヨネアは続けて体の一部を失った兵士へと移る。
「気をしっかりもって」
同じように光の粒子をそそぎ込む。光に包まれた腕のあった部分は何事も無かったかのように本来の姿を取り戻した。
「マナが予想以上に少ない……、完治はやめてリハビリ程度まで抑えないと」
独り言をつぶやきながら、次々と治療を施していった。




