33話 出兵
ひとしきり落ち着いた後、ユーリとアイリの同行が決まった。
「そもそも仲間外れにされているのが気にくわない」
アイリは淡々と不満を漏らした。
参戦はアルフレドが許可した。戦力は多いほうが良いとのことだった。
「はあ、なんか気が抜けた」
肩を落とすウィルはあることに気づいた。必要なものがなかったことに。
「そういえば俺の剣は?」
部屋に自分の剣が無かったことを思いだし、このままではまた役立たずになると焦った。
「ああ、そちらは鞘がなかったので、急造ですがこしらえているところです。ただ鞘は神託の加護付きではないので聞いていたものにはならんが、もし良いアーティファクト化にするならば、王都に行けばできる人材がいる。ひねくれ者だが大事ないように紹介状を持たせよう」
「何から何までありがとうございます!」
ウィルは感謝を込めて深々と頭を下げる。
「いや、当然のことだ、討伐には私も兵の指揮のため出よう。兵士の士気もあるだろうしな。
王のように前線に出て自ら鼓舞するタイプもいるが……」
ディファルトは困った様子で頭を抱える。
ウィルはディファルトに尊敬を覚え、逆のタイプの王もさぞかし立派なのだろうと想像した。
アルフレドとメレネイアはどこか笑っていたようだ。
部屋を出ようとすると、尻をさするのをやめたティアがおずおずと申し出た。
「ディファルト様、私も同行してよろしいでしょうか?」
ディファルトはその申し出に眉を細める。
「理由は聞こう」
より渋い顔をするディファルトにティアは少しだけ臆したようだが、おそるおそる口にする。
「わ、わたしは蒼眼の仮面様と竜種の戦いをこの目で見ております。恐れながらまともに戦えたものはおりません。少なからずあの竜種との戦いにおいて進言できる部分があるかと思います。なによりこの目であの方が身を挺して守ってくださったご恩に、ディファルト様のご恩に報いたいのです」
話し始めは辿々しい感じではあったが、言い切るまでには顔を上げはっきりと強く想いを告げた。
ふむ、とディファルトは顎に手を当て考え込む。少し間を置いて視線をティアへと真っ直ぐに向ける。
「許可しよう。ただし貴様の姉、ヨネアの許可を得られたらという条件としよう。了解得られなければ明日までに竜種の情報をまとめなさい」
「は、はい! 必ず!」
ティアは元気よく返事して部屋を後にした。
「我が儘な娘ですまない。後はヨネアに任せるが同行となった場合はよろしく頼む」
ディファルトは神妙な面もちで頭を下げた。
それに対して皆に遠慮するものはいなかった。
討伐当日
「で、どうしてこうなった」
ウィルは真新しい鞘に包まれた剣を腰に携え、街道に集結した兵士に圧倒されながらも集合した自分たちの仲間を眺めた。
そう発言した理由はただ一つ、メイド姿のようではあったが、スカートは短く黒スパッツを履き比較的動きやすい衣装に身を整えたティアの横に一名、長いスカートのメイド姿のままの格好の同行者が増えている事だった。片手には大きなバッグを持っている。
「妹が行くなら姉もいかないとー」
カールがかった髪を指でくるくると戦いに赴く雰囲気とはかけ離れたつかみどころのわからないふわっとした話し方で、ウィルの力が抜けた。
「は、はあ、戦えるんですか?」
不安になりウィルは到底戦いに向いてない出で立ちのヨネアに質問した。
「私は救護班として同行しますー」
そう言うとバックを開く、中には色づいた液体の入った瓶が空間を余すことなく敷き詰められていた。
「ほう、これは珍しいミディエラーですか」
のぞき込んだアルフレドしきりに頷いて見せた。
「なんでしょうそれは」
聞き慣れない言葉にウィルはすかさず問いかける。
「おや、存じませんか。仕方ありませんね」
その態度にウィルはムカついたので話半分に説明を聞いた。
つまりは要治療者に対して対応した液体を媒体にして回復を行うらしい。液体自体には即効性があるわけではなく、瓶がアーティファクトで調合した液体に作用して即効性のある効果が期待できるらしい。
なんでもそれができるのは空気中のマナとの親和性の高い人間が適正が高くマナの作用を高精度で調整できる人間に限られるようでそういった者は多くはないらしい。
「ウィルさんは調整どころか限度も知らないのでなるのは無理ですね」
「ほんと、一言余計だわこの人」
ウィルは文句を言いたかったものの、否定できる訳ではなかったので心の底に押さえ込んだ。
「そんな大したことはないですよーあっちとこっちをつなぎ合わすだけですからー」
「なるほど、余計わからん」
ウィルはアーティファクトだけでなくそれを扱う人間にも特性があるのだと故郷では知らなかった事に関して帰ったらリヒトにどや顔で教えてやろうと想った。
「こんな姉ですみません」
ティアは申し訳なさそうにする。
「あんたもたいがいな」
「ディファルト様!!」
口々に兵士が主の名を叫ぶ。
エヴィヒカイトでの一件が思い出されたがどこかその声には力を感じ、ただ熱狂的な歓声ではないように想った。だからこそディファルトが馬に乗って先頭に進み出た時、自然にその言葉を待つように静かになった。
「長くは語らん。ただ我らは民のために戦う。行くぞ!!我らが矜持を胸に!!」
その短い言葉だけでも兵士たちには充分だった。皆一様に武器を掲げ、
「矜持を胸に、民のために!!」
熱狂するわけでもなく皆一斉に口を揃え叫んだ。
ウィルは一つの塊のような団結力と静かでありながら力強い戦意を肌で感じ鳥肌がたった。
そして討伐隊は朝日を背に森へと続く街道へと確かな足取りで進むのだった。




