32話 白の決意
ふむ、とディファルトは頷いた。
まるで、答え合わせをするかのような様子にウィルは戸惑った。
「試すようなことをして申し訳ない。幾分、情勢が不安定になってきたのでね。なりすましやスパイには気をつけねばならんのだ」
「な、なるほど」
あまり納得はしていなかったがウィルは取り急ぎは乗り切ったことに胸をなで下ろす。
「アルフレド殿とは父の代から旧知の中ではあったが万が一もあった。それに蒼眼はいささかこの地では有名であってね。その情報を利用されることも考えていた。後出しで悪いが君達についての保護の勅令は秘密裏に届けられているので安心したまえ」
瞳の威圧感もどこかに消えると場の空気も和んだ。
「アルフレドさんは何歳なの?」
空気が柔らかくなったからかニーアがふと口に出した。
「秘密です」
アルフレドはまたもすねるように口をとがらせ答えを濁した。
「ふ、相変わらず秘密主義なお方だ」
感心するディファルトは全面的にアルフレドを信頼しているような印象を受ける。
「それはそうと蒼眼が有名ってミリアンの町でもそうだったけどずいぶん扱いが違うんですね。ウィルってそんな有名なんですか?」
もうちょっと聞いて欲しかったのか寂しそうにするアルフレドを後目にレインシエルは蒼眼の話に戻り、腕を組んだ。
「最近の蒼眼の英雄はウィル殿を差すのだろう、アストレムリでは二度目の蒼眼の災厄、それ以外の敵対する諸国では英雄の再来と噂になってますね。もっともアストレムリでの事件が知らされるまでは皆、口にはだしていなかったようだが」
「はあ、むずがゆいな」
ウィルは照れ隠しに頭をかく。
「あ、そういえば蒼眼の仮面なる人がこちらにいたって聞いたのですが」
ウィルはティアから聞いたもう一人の蒼眼の話題を思い出した。
ディファルトは一瞬意外そうに眉をあげたが、ああと頷いた。
「ティアから聞いたかな、二月ほど前になるか、ティアを助けていただいた縁から周辺の魔物退治も請け負ってくださり、しばらく滞在しておりました御仁だ、名は明かしてくれなかったが、ちょうど背格好もウィル殿ほどだったかな、もう少し高かったかもしれないが」
どくんとウィルの心臓が脈打つ。
背格好はだいたい父親と同じくらいには延びたはずという考えが浮かぶ。
「ルイノルドという名前に心当たりは?」
続いて聞いたのはウィルではなくアルフレドだった。
まったく同じ事を聞こうとしていたのはウィルとニーアだったがニーアはウィルの横へと並ぶにとどまった。
欠けた記憶が気になるのだろう。
自分たちだけの問題じゃないことだとウィルとニーアはアルフレドに任せた。
「いや、ないな。申し訳ない。何か関係があるのか?」
「彼らの父親です。そして私たちの昔の仲間、だったようです」
「ほう。やはり聞いた記憶がないな。だったようだと言うのは?」
「記憶にはありませんが、エヴィヒカイトの記録にはそういったものがあったのでね。私も困惑しているのです」
頭に手を起き、アルフレドはつっかえが取れない感覚にうなだれる。
「ウィル殿の瞳、確かに無関係ではなさそうだ。ただそういうことなら手がかりはまだあるぞ」
「本当ですか!?」
ウィルは沈んだ顔を上げる。
「もし蒼眼の仮面殿が手がかりなら、彼は王都エイジアに向かうと言っていた」
「……エイジア、すぐ行きましょう!」
ウィルはまだ糸が切れていないことに安心し出発を頼んだ。
「そう焦るな少年。もちろん、勅令もあるので君達はすぐにでも王都へ届ける。だが・・・」
逡巡するディファルトにウィルはいらだちを覚える。
「だったら!」
「落ち着きなさい。ウィルさん」
壁にもたれていたメレネイアが見かねて声をかける。
「すまないな。ティアから聞いただろうが、伝説のディアヴァロ級の竜種が現れているようでな。安全に通れるかは保証できないのだ。あの仮面殿でも倒しきれなかなかったようだからな。また傷が癒えたのだろうか」
「それでも行く、行かなきゃ行けないんだ」
ウィルは拳を握りしめる。ニーアはそんなウィルの裾を掴み、自らも同じ意志を示した。
「ううむ、アルフレド殿、貴殿はどうお考えかな」
「ウィルさん、行くなら討伐を目的にします。背後から襲われたくありませんし、伝記の存在である竜種との戦いはこれまでのようになんとか無事、では済まないと思います。それでも覚悟はありますか?」
「ごめん、皆」
ウィルは仲間を一人一人見つめる。
「まったく仕方ないなあ」
レインシエルはウィルの背中を叩く。
「私も無関係ではないので、それに、最初からそのつもりでしたでしょう?」
メレネイアはアルフレドに呆れたかのように問う。
「いいえ?」
アルフレドは隠す気がないのかにやりとしてそっぽを向く。
「それでは討伐隊も組織しているところだ。2日後の明朝出発しよう」
ディファルトも軽く笑みを浮かべそもそもの計画していた予定を話す。
「最初から討伐するのは決まってたのかよ!」
急に恥ずかしくなり、小芝居したアルフレドに突っかかる。
「すみませんねえ。いやあいい顔でしたよ」
ウィルはくそっと壁に頭を預ける。
「聞かせていただきました!僕たちも同行しましょう!!」
扉が勢いよく開かれた。
「聞かせていただきましたー」
開け放たれた扉に立っていたのは銀髪の二人組、ユーリとアイリだった。
「勝手に入るなやああああ!!」
心なしか決まったとどや顔を浮かべているような二人の背後から飛びかかるメイド姿が見えた。
「おっと」
後ろを見るまでもなくユーリとアイリがお互い一歩横にずれる。
その真ん中を標的を失った両足が過ぎ去り、ティアは勢いそのまま尻餅をつく。
「やっぱり白だ」
そうつぶやいた瞬間、ニーアには蹴りを入れられとレインシエルには頭をぶったたかれた。




