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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第2章 自由解放戦争
31/197

31話 港町ヴェローナにて3

 本日も晴天なりとは誰がいったか、青空が澄み渡り南国ならではの暑さではあったが、風が心地よく感じた。

 交易の玄関となる町は多くの、様々な人でにぎわっていた。


 ウィルは歩きながら調子を整える。

 まだ筋肉の疲れが残っているものの普段通り動けることを確認した。


 アストレムリとの情勢の影響か物々しい雰囲気も少なからず存在する兵士から感じていた。


 「いつもより兵士の方が怖い感じがします。いつも挨拶してくれるのに」

 さすがのティアも日常とは違う雰囲気を察していた。


「そういえばそんな防衛強化の話もしてたかも」

 ウィルはティアの言葉につまづきかけた。


 食料品や加工品、医薬品など一人で持つつもりだったのかと疑うくらい大量の荷物だった。

 落ち着いた頃には太陽は真上を少し過ぎていた。

 

 「さて終わりですね!」

 満足げにティアは胸を張る。おっちょこちょいかとは思ったが数字を扱う能力は高く、予算よりも大幅に節約して必要なものを買い揃えたらしかった。

 

 結構遠くまで来たので帰り道が憂鬱ではあったが、察してか安心してくださいと言わんばかりに荷運びの業者を手配してウィルは重力から解放された。


 「お疲れさまでした。いつもはさっきの運び屋の方についてきてもらっているんですが、その分費用がかかるのでだいぶ助かりました」

 ティアはフルーツを溶かし込んだジュースをウィルに差し出す。もちろんティアの分もあった。

 「領主からの買い物なのに皆、普通に商売するんですね」


 「まあ領主様は平等な商売をうたってますし、その分、本当に必要な際は皆さん、利益度外視でご協力いただいてます」


 「へえ、うまく成り立ってるんだなあ」

 そういった話に疎いウィルはただただ感心するばかりだった。


 甘酸っぱいジュースに癒されて少しばかりの休憩する。

 「そろそろ行きましょうか?」

 「ういっす」

 屋敷に向かおうとすると背後に殺気、とも言えるただならない気配を感じた。

 

 「あら?」


 ウィルは嫌な予感がしながらも後ろをおそるおそる振り返ると、鬼、もといニーアが黒いオーラを放ちにらんでいた。


 「な、に、しているのかなあ? デート、ですかあ?」

 嫌にデートという単語を強調し一歩、また一歩と鬼、もといニーアが歩み寄る。


 「イイエ、ケッシテソノヨウナコトハ」

 何もやましいところはないもののウィルは思わず硬直した。

 一緒に行動していたのか後ろにはメレネイアとレインシエルが控えており、メレネイアはどちらにかはわからないが呆れ顔、レインシエルは修羅場と言わんばかりにきらきらと眼を輝かさせていた。


 「ええと、私、ティア・ランティールと申します。屋敷の買い物を手伝っていただいただけで、決してデ、デートというわけではありません!」

 デートと言う言葉に上擦った以外は助け船として充分だった。

 

 ニーアはティアの出で立ちを眺めると納得したのか、オーラがしぼんでいった。

 「ちょっとレイ!デートしてるうって言ってたじゃない」


 後ろのレインシエルにニーアは詰め寄る。

 どうやらレインシエルのせいであり、本人は腹を抱えて笑っていた。

 

 「いや、だって、すごい顔してるから面白くなって!ついつい荷物預けてるところ言うの忘れてた!」

 ひいひいと涙を浮かべるほど笑うレインシエルにニーアはどこか申し訳なさそうにウィルに向き直るのだった。


 「ティアさん、ごめんなさい。勝手に勘違いして」

 

 「いえいえ、そんな滅相もありません」

 ニーアの謝罪にティアは胸の前で両手を振る。

 

 「俺には謝らんのかい」


 「ウィル兄は勘違いさせないで!」


 しおらしい様子からは打って変わりニーアはウィルに怒鳴る。

 「うっわ、理不尽極まりない」

 ウィルはあまりの仕打ちにぼやく。

 

 「はいはい、屋敷の方でしたよね?」

 メレネイアがやれやれとティアに歩み寄る。


 「あ、メレネイア様! ああ、お連れの方達だったんですね」

 ぱあっと明るい表情をティアは浮かべる。

 『知ってたんかい』

 他三人はメレネイアに息を合わせて無駄なやりとりをさせた文句を言った。



 通された一室は他のどの部屋よりも広く豪華というわけではないものの清潔感のある整えられた部屋だった。

 「どこで油を売っていたんですか」

 アルフレドはめずらしく不機嫌な様子で入ってきたウィル達を一瞥した。

 「まったくどこかに行くなら私も誘ってくれれば良かったのに」

 「すねてるだけかい」

 ウィルは謝罪の言葉を飲み込んだ。


 「ようこそ、ヴェローナもとい我が公認特区自治領ファルナンへいらっしゃいました」


 奥の色つやのよい木目の机の先、窓側にいた人物は訪問者を歓迎した。

 オールバックのつやのある髪、丸眼鏡をかけた男性だった。

 ウィルは屋敷の肖像画を思い出す。

 表情が堅い様子にウィルは緊張を覚えた。


 「私は領主のディファルト・ランツ・ファルナンと申します。お見知りおきを」

 優雅かつ繊細に右手を胸にあてお辞儀をする様子は執事のようだった。

 それぞれ挨拶と自己紹介を返す。メレネイア以外は作法もわからずどぎまぎと応える。


 「ふっ、楽にしたまえ。今は大切なお客様ですから」

 一転、ディファルトの笑顔に一同はほっとするが、決して眼鏡の奥の瞳は緩んだ様子はなかった。

 

 「して、改めて御用向きを伺おう」


 その眼はアルフレドではなくウィルにまっすぐと向けられていた。

 ウィルは予想外な事に助けを求めるようにアルフレドへと助けを求めた。

「ウィルさん、エヴィヒカイトからここまでをあなたが説明してください」


 エヴィヒカイトから、ということはウィルの出自までは話さないようにとのことと受け取り、あくまでエファンジュリアに祭り上げられた妹の救出から反逆者となったこと、父親を捜していることなどを事実を大半にして言葉を選びながらゆっくりと話した。

 

 


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