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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第2章 自由解放戦争
29/197

29話 港町ヴェローナにて 1

  少女は歌う。

 命を手放すことになった者達へ。

 空虚な円形のドームのような場所の中央、天井から注ぐ柔らかな光の柱を浴びながら彼女は歌う。

 これから命を輝かせる者達へ。

 

 少女の存在を気に留めるものは極僅かだった。

 少女は世界を見通すことができた。

 光を通して。


 少女は部屋の扉が開く音に気がついた。

 その姿に少女は喜びと同時に悲しそうに見つめるのだった。

 「あなたのーーは元気よ」

 その目は言葉とは違い迷いが混じった涙でその人を直視できなかった。

 

  彼女はこちらを見つめ続けた。

 


  ウィルが目覚めたのは整ったきれい装飾で飾られた華やかな部屋だった。

 ベッドが柔らかく身を包み、再び眠りへと誘った。

 「あ、起きた」

 その声によってウィルの眠気は現実へと覚醒した。


 「ん、ニーア」


 「おはよう」


 今度はちゃんとニーアだったことに安堵した。

 ウィルは体を起こす。

 体に重さはあるもののはじめの時より体は言うことをきいた。

 

「どんくらい寝てた?」

 ニーアは自分で上半身を起こすことができたウィルに手伝おうとした体を横の椅子へと戻した。


 「二日だよ。 気持ちよさそうに寝ちゃって」

 ニーアは少し頬を膨らませた。

 

 「二日……」

 今度はおぼろげだが記憶があった。

 あの力が何か、という疑問は湧いたが少なからず守るものは守れたことに関しては満足だった。

 同時にメレネイアの表情が思い出されちくりと心に棘が刺さるようにも感じた。

 

 「大変だったんだから、って聞いてる?」

 

 上の空のウィルに気づきニーアは話を中断する。

 ウィルははっとして目の前に意識を戻す。

「ああ、ごめん、なんだっけ」


 ウィルはまたニーアが不機嫌になるかと身構えたが、そうはならなかった。

「そう……、まあウィル兄を運ぶのとその後がいろいろあったってだけ」


「悪い……、それにしてもここは? 宿にしては豪華っていうか」

 ウィルはバツが悪そうに辺りを見回す。

 ベッドも固くなくその改めてその感触を確かめる。


「本当に聞いてないんだね。ここはイストエイジア領の交易港ヴェローナで、領主の屋敷の客室」

 呆れるようにニーアはため息をつく。

「あー、そう! みんなは?」

 慌てて話題を変える。いつものようにふてくされるなりすねるなりしてくれれば良かったのだがあからさまに落ち込んでいるような様子に耐えられなかった。

 

 「皆はそれぞれ部屋にいると思うけど、今日はゆっくり休むこと! 皆には伝えておくから」

 そう言ってニーアは立ち上がり部屋を出て行く。

 ウィルは引き留めるのも間に合わず、一人、窓から外の景色を眺めるのだった。

 「あの力のこと聞くの忘れてたな」

 自分の両手をまじまじと眺める。人を切った感触が残っているような気がして、せり上がって来た吐き気を抑える。

 「これでいいのか……?」

 そのつぶやきは自分自身への、もう一人への問いかけのようだった。

 


 ニーアはウィルの部屋の扉の前で立っていた。

 ウィルのつぶやきはたまたまかニーアの耳に聞こえてしまっていた。

 ただニーアにはその答えを持ち合わせていなかった。

 ニーアは顔を上げ離れていく。

 「なんとかしないと」

 強く前向きな声で、メレネイアを探しに行くのだった。

 まずは自分について調べなければならないと思ったからだった。



 外に出るためウィルはしばらくして着替える。

 いつもの軽装だった。

 剣を探したが、見当たらず、預かられているのかとウィルは考えた。


  廊下は綺麗に磨かれて光沢を放つ石畳が規則正しく敷き詰められていた。

 一本道を歩いていくと歴代の当主だろうか、写実的な肖像画がならんでいた。

 行き着いた最後の絵は他の老年とは違い30代過ぎくらいの前髪を後ろにまとめた凛々しく描かれた男性だった。おそらく現当主だろう。

 まさに当主たるお堅い人間なのだろうと勝手ながらウィルは会ったこともない人間を値踏みした。


 「ちょっと!」


 そのまま進んで花が一面に咲いた中庭に踏み出そうとすると、背後から焦ったように声をあげる女性の声が聞こえた。

 よく通る声だとは思ったが、自分が目的ではないだろうと今の精神状態も影響してそう判断して、中庭を突っ切ろうとする。

 両側に淡い青色の美しい花が咲き誇り、その先の一際大きい扉を目指した。

 

 「ねえ! ってこっち向けやああああ!!」


 ウィルは自分ではないと確かめるため首だけ振り向いた瞬間、一瞬白いものが見えたかと思ったら背中に衝撃が走ると共に景色がぶっとんだ。


 「はぬん!?」

 自分でもよくわからない声が漏れでたあと地面で悶絶した。

 

 ああ、いつもリヒトはこんな感じだったのか

 残った酸素で懐かしい記憶が蘇り、もう少し優しくしようとウィルは誓った。


 地面に伏せていると影がウィルを覆った。

 かろうじて首をあげると黒いスカートの縁だけ見えた。

 

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