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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第2章 自由解放戦争
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28話 海賊の頭

  剣はあの時と同じ、蒼い炎を纏う。

 そして、瞳はより蒼く輝く。

 静かに剣を構えるウィルに海賊はうろたえると同時に怒りの様相を見せる。


 「蒼眼野郎だ。やっぱりここにいたのか! おい、若に報告しろ!」


 今だ姿を見せないお頭を呼びに横付けされた海賊船に一人向かった。

 

 「若が来るまでもねえ、やっちまうぞ!」

 「おお!!」


 周囲の海賊は武器を持つ手に力を込める。

 タイミングを計ったわけではない。

 ほぼ同時に海賊はウィルに切りかかった。

 

 「愚者の選択だな」

 ウィルはぼそりと呟く。

 敵の踏み込みを上回る速度で横に凪ぐ。

 蒼炎が勢いを増し、剣の軌跡をたどり放射状に海賊を捉え、吹き飛ばした。


 「ぐあああ!」

 慌てて他が応戦する。

 ウィルはすぐさま動き、敵を確実に戦闘不能にしていく。

 戦意を喪失するものはいるものの誰も命を落としてはなかった。

 ウィルの通った後にはうめきながら横たわる者たちだけだ。


 その場の全員がその光景を目撃していた。

 いつの間に周辺の戦闘は終わり、落ち着いてみると護衛艦は航行不能レベルにまで陥っていたようだった。

 

 メレネイアは人が変わったかのように圧倒するウィルに哀しさと怒りにも似た感情を持った。

 彼女の両手は強く強く握り締められ震えていた。


 「それが、それがあなたの選択ですか……っ」


 メレネイアの言葉は隣にいたアルフレドだけが聞いていた。

 彼はその光景を懐かしむかのように優しく見ているだけだった。


 唐突にどこからかナイフがウィルへと飛ぶ。

 反応したウィルは剣でなぎ払う。


 「よく反応したなぁ……」


 賛辞とも取れる言葉を投げかけたのは敵の海賊船の上からだった。


 「わ、若!!」


 「オ、オレは若じゃねえ! 若は却下で、お頭って決めただろ!」


 あどけなさの残る青年は軽やかな動きで船を飛び移る。

 陽に焼けたであろう焦げ茶色の髪をなびかせ、宙で回転しウィルの目の前に着地した。

 ゆっくりと顔を上げる。

 その出で立ちは周りの海賊に似合わずどこか垢抜けない感じがした。

 

 「どうぞ」

 脇から肉付きのいい短髪の男が抜け出て、膝を付き、場違いなほどに装飾された鞘に収まった。

 細身の剣を差し出す。


 「うむ、ご苦労」

 さも当然のように剣を受け取る青年。

 そして鞘から剣を引き抜く。太陽の光をすべて反射するほど、汚れのないきれいに磨かれた剣だった。

 華奢な体躯の青年にはその細身の剣はバランスが良い。


 「ついこないだぶりだな、蒼眼野郎、まだこんなとこにいたとは驚きだが、さあ、ち、お、親父を返してもらうぜ!!」


 剣を目の前のウィルに突きつける。

 ウィルはずっと目の前の青年を凝視していた。


 「……な、なんだよ!」

 顔を紅潮させ剣を振る。

 ウィルは一歩下がり間合いから遠ざかり当然剣は空を切る。

 

 「いや、何も言うまい」

 

 ウィルは首を振る。

 

 「時間もない、貴様が何を言っているかも見当もつかんが、指揮官のお前をつぶせば無駄な争いも止まるだろう」


 ウィルは剣を構え直す。


 「まあいい! オレが勝ったら洗いざらい吐かせてやるからな!」

 

  周囲はいつの間にか下がりさながら二人だけの舞台が出来上がった

 その間、負傷者は治療を受けるなりしており互いに戦闘は終了しているかのような状況だった。

  青年は半身で構え剣を片手にウィルに向ける。


  海鳥が一羽、風を切りながら二人の間を横切った。

 海鳥が互いの視界を遮ったのを合図に同時に動いた。

 

  ウィルは低く屈んだ後、瞬時に踏み込み一気に距離を積める。

 足の筋肉が悲鳴を上げる感覚。

 一瞬で限界に達する筋繊維が解れる感覚。

 ウィルは、その痛みを無視して正面の相手へ左腰にためた剣を鞘はないが抜き放つように振る。

 が、直前、ウィルの目の前に剣先が現れた。

 

「!!」


 想定以上の突きの剣速に首を左によじる。

 しかし、ウィルの剣はその状況に置いても一切のぶれもなく、別の意志を持つかのように軌道を変えなかった。

 かろうじて相手の剣は左耳をかすめる程度に過ぎる。


 甲高い衝撃音が響いた後、静寂があたりを包む。

 ウィルの剣は相手の首の手前で止まっていた。

 いや、止められていた。

 間にあったのは相手の鞘だった。先ほどの衝撃音は鞘との衝突によるものだった。


 「けっ、殺すつもりなら間に合わなかった……か」

 汗を一筋こめかみに流し相手は悔しさをにじませる。


 「お互い様だな」

 ウィルは剣を下ろし、左耳を触る。

 手には血が血が付き、同時によろめいた。

 かすめただけにしてはダメージが大きい、ライエルとの一戦と同じく空気を切り裂くほどの一撃は耳から脳にもわたる衝撃波だった。


 「さて、これで終わりじゃねえだろ?」

 仕切り直しと言わんばかりに青年は剣を構え直す。


 「もちろん、と言いたいが時間切れ……だ」

 ウィルは直後、剣を支えに膝をついた。蒼の炎は剣を振る前に消え失せていた。


 「はあ、はあ、戻った、のか?」

 ウィルの口調は戦い前のように変わり、先ほどまでとは打って変わって息を切らし苦しそうにせき込む。

 

 「ウィル兄!」

 ニーアは歌をやめウィルへと駆け寄る。


 「ニーア……っ」

 

 ウィルは腕に力を込めて剣をもたれるようにふらふらと立ち上がろうとするが足が言うことを聞かなかった。

 ニーアは満身創痍の様子のウィルを見て青年へと立ちはだかる。

 そしてアルフレド、メレネイア、レインシエル、少し遅れてユーリとアイリが周囲を固めた。


 「仲間……か」

 青年は少し羨ましそうにその様子を見てつぶやいた。

 

 「若……」

 脇に控えた男が青年を悲しそうに見つめていた。


  再び船が戦場に変わる。

 その時、砲撃音が聞こえ船のほど近くに着弾し大きく揺らいだ。

 

 「ちっ、イストエイジア軍か……聞きたいことあんのによ。 しゃあねえ!! おめえら撤収だ!」

 

 青年は声を張り上げ仲間達へ号令をかける。

 

 「はっ!!」


 海賊らしからぬ返答が聞こえた後、各々スイッチが切り替わったかのように母船へと撤収を開始する。


 「はっじゃねえ! アイサーって決めただろ!!」

 やれやれと青年は海賊達を眺める。

 

 「ふん、オレはフィドーーいやフィドルだ。親父のこと吐いてもらうからな!」

そう言い残した後、颯爽と引き返していった。


 ウィルは返事もままならずただその後ろ姿を見送るだけだった。


 

 先程までの混乱は収まり、海賊船は離れていく。

 反対方向からは国旗をはためかせた船団が近づいてきていた。


 「終わりましたね」

 ユーリは息を吐いてウィルへと肩を貸す。

 「悪い……」

 

 よろめきながらウィルは立ち上がる。

 「いえいえ、ウィルさん強いですね」

 「あれは……」


 ウィルが返事しようとすると目の前にメレネイアが立つ。


 「ウィルさん、いえ、やはり何もありません」


 何か言いたげなメレネイアだったがウィルはその怒りにも、失望にも感じる表情に戸惑った。

 満身創痍の状況に誉められることはないとは思ったが労いの言葉もなく、離れていくメレネイアに納得いかなかった。

 

 「なんだよ……」

 少なからず今の自分にできることをした。

 その選択を否定された気がした。

 どっと疲れが出てウィルは意識を手放した

 

 「ちょっと、お母さん!」

 レインシエルはウィルに対しての態度に諫めるようにメレネイアについて行った。


  少し離れたところでアルフレドはメレネイアを見ていた。

「まったくどっちが子どもなのか」

 そして、ウィルを運ぶユーリを見つめていた。


 程なくしてイストエイジア軍の船が横付けし救護と同時に護衛されながら港へと向かうのだった。


 



 

10月31日 オルカ→フィドルへ名前変更しました。

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