24話 兄と妹
蒼い光の粒子が煌く。
ウィル、は蒼き光を纏う剣を振るう。
ライアンとの戦い。
ウィルはその光景を第三者として眺めていた。
あれは自分じゃない。
そう思うのは簡単だった。
一切の迷いがない、そこには合理的思考のみで戦う姿があった。
まるで人形みたいだ。
と、ウィルはぼんやりとそれを定義した。
ふと視界が変わる。
いつの間にか尻餅をついていた。
ライアンがなにか激昂している。
背中の感触にざわりと悪寒が走る。
振り向くと、あの時のあの兵士が写真に手を伸ばして涙の跡を残して無残にも息絶えていた。
「俺が……」
「殺した」
「ひっ!」
兵士が虚ろな瞳をぎょろりとさせてウィルをにらみつける。
「俺には家族、カゾクがイタのに……」
兵士は死人とは思えない力でウィルの腕を掴む。
「やめてくれ!知らなかったんだ!」
振りほどき、耳をふさぐ。
その兵士以外にも階段から血まみれの兵士がよろめきながら近づいてくる。
「母ちゃん……」
「恋人が街で待っているのに……」
「お前は俺の、俺たちの人生を奪ったんだ…・・・」
耳をふさいでも目を閉じても、その声、その情景は消えない。
「だから、せめて……」
兵士の口が開こうとする。
「やめてくれぇぇぇぇぇ!!」
その言葉を覆いかぶせるようにウィルは叫ぶ。
聞きたくない一心で叫び続ける。
「だめだよ」
少女の凛とした声がウィルの耳に届く。
「!!」
ウィルの上半身がベッドから跳ね起きる。
「はあ、はあ……。
また、夢か……」
汗だくだ。
ベッドで寝たせいか、いつもより長い夢を見たことに後悔する。
この夢は初めてではない、出発した日からほぼ毎日、悪夢を見る。
ただいつもは兵士が迫ってきて終わりだが、今回は最後に女の子の声が聞こえたことに驚いた。
どこか懐かしい声、以前にも聞いたような気がするがよく思い出せなかった。
もう一つのベッドにはアルフレドがいるはずなのだがその寝姿はなかった。
アルフレドに関しては謎が多く、姿が見えなくてもああ、またかとの感想しかでない。
これで信用できなかったらそうはならないが、なんだかんだウィルの味方になってくれていることに信用はしていた。
ベッドに月の明かりが差し込んでいることに気づき、なんとなく窓から外を見ると、よくよく見慣れた人物が外を出歩いていることに気づいた。
「ニーア?」
こんな時間にどうして、と疑問と心配がよぎり薄着のまま、薄いジャケットを手に持ちウィルも外へと出た。
意外にも夜は肌寒く、もう少し厚着をしてくればよかったとニーアは思った。
なぜ外に出たのだろうと、出た後ながら考える。
単純に眠れなかったというのと、聞こえてくる波音に故郷を思い出したからだ。
桟橋に立ち夜風を感じる。
風は不思議とやわらかく優しく歓迎してくれているようだった。
「お母さん、ハクト……」
久しく会っていない肉親を思い出す。
みんな元気だろうか。
勝手に出て行ったこと怒ってるだろうな。
「ごめん……」
「なに落ち込んでんの」
声と同時に肩に薄めのジャケットが羽織られる。
とっさに振り向くとウィルがいた。
「べ、べつになんでもないわよ!」
なんとか気取られないようにするが声の震えは抑えられなかった。
「はいはい」
ウィルは軽く流すと同じように海に向かう。
「ごめんな」
唐突な謝罪にニーアは困惑し反応を示すこともできなかった。
しばらく波の音だけが場を包んだ。
「……なにが?」
心を落ち着かせ声が震えないように抑えてニーアは聞いた。
「……巻き込んだし、つらい目にも合わせてしまった。
兄ちゃんたるもの妹くらい守れってな。
母さんにもハクトにも余計な心配かけてるだろうな」
ニーアは月明かりに照らされたウィルの横顔を眺める。
その顔には一筋流れるものがあった。
「ウィル兄が謝る必要ない。
私がわがままで勝手についてきたんだから自己責任っていうやつよ」
少し間があいて、
「ごめん。助けてくれてありがとう」
ニーアはずっと素直に純粋に言葉にしたかったことを声に出すことができた。
そしてポケットの中の感触を確かめてウィルの右手を取る。
「え?」
ウィルは突如、手を取られ焦ったが気づくと手首にチェーン型のブレスレットがかけられていた。
良く見ようと顔の前にかざすと蒼い宝石が月明かりに反射して星のように儚くも美しく輝いた。
「助けてくれたお礼!」
ニーアはいつもの調子で照れ隠しのために声を張った。
「さんきゅ。
……いつでも助けるからそんときはまたなんかくれよな」
ウィルがほほをかく。
「私が助けるからウィル兄が頂戴よ」
久しぶりにニーアはウィルの素の、故郷にいた時の表情を見たような気がして本当に嬉しく思った。
「はいはい。
期待してます。
さすがに寒いしそろそろ帰ろうぜ」
そう言って宿へと二人歩き出すのだった。
ウィルにとっては自らの選択した結果への救いだったのか、その日はもう悪夢は見なかった。
右手の宝石は蒼の煌きを揺らめかせていた。
そして、桟橋には少女が立ち尽くす。
「だめだよ。逃げちゃ」
潮風に髪をなびかせて月明かりに照らされた少女はおぼろげに消えるのだった。
その左手首には蒼い光が煌いた。




