20話 記憶
「というわけであなたの妹さんを回収したわけです」
「回収って、それに俺がそんな戦ってたなんて覚えてないのですが」
手であごを触り思い出す仕草をするが思い出すことはなかった。
「それは私たちにもわかりません。火事場の馬鹿力とでも言いましょうかね」
アルフレドは後ろを向いたためその声色だけでは冗談かもわからなかった。
向き直るとウィルの耳に信じがたい名前が聞こえてきた。
「ルイノルド・E・リベリ」
「なっ…!」
あまりの唐突さとアルフレドから飛び出すわけがない意外性にウィルとニーアは言葉を失う。
「……私が思い出したわけではありません。エヴィヒカイト潜入し、システム管理をのっとっていたところですね。
妙なプロテクトを発見しそのデータをそのまま解析しました。そのせいで到着が遅れましたが」
「アルフレド・・・・・・話してください」
ウィルとニーアよりもメレネイアは動揺していた。
そのせいか右手で頭を抑えている。
その表情は困惑げに冷や汗を浮かべている。
「もちろん。大丈夫ですか2人は?」
アルフレドは放心気味のウィル、ニーアに声をかける。
「ああ……、とりあえず話してくれ」
ウィルは状況を整理しきれておらず、なんとか続きを促した。
ニーアは頷くだけだった。
「ルイノルドは蒼の災厄と呼ばれた存在のようです。
データ上には名前と画像処理され不鮮明な顔写真のみしかありませんでしたが、
かつての私たちの旅に同行していたようです」
「ようって、覚えてないってこと?」
ニーアは奇妙な事実より覚えていないということ自体に苛立ちを覚えたようだ。
「そうですね。確かに記憶はありませんし、つじつまも合わない部分もあります」
アルフレドの表情は珍しくしかめ面になり自分の記憶を探る。
しかし、それは首の横ふりで終わった。
「すみません。どうも当時の記憶は鮮明に覚えているはずなのですが、いざそこにルイノルドという人物を当てはめるのが難しくてですね。メルはいかがでしょう?」
メレネイアはより苦しい表情を浮かべ、額には冷や汗がにじみ、懸命に思い出そうとしている。
「おぼろげではありますがやはり、もう一人いた、ような気がします……」
「そういわれるとそんな気がしてきますね……」
アルフレドは怪訝な表情を浮かべる。
「ウィルさんの探している人こそ、蒼の災厄、ルイノルド。 ということですね?」
「ああ、親父です」
ウィルの心は嬉しさでいっぱいではなかった。
手がかりは見つけられたものの、何かおかしく、どれが真実かわからない状況に辟易していた。
「よしっ! ここに来たのは間違いないってことね!」
震え声ながらも机上にも元気に振舞うニーアにウィルは考えを改めた。
「そうだな……。 いただけでも前進か」
「でも記憶が抜けているのも謎だけど、どうしてエヴィヒカイトにそんなデータが?」
なりゆきを見守っていたレインシエルがふとした疑問にいきついた。
「やはりアストレムリには隠し事が多いようですね。それとも……」
アルフレドは目を細め深く考え込む。
しばらくするとやれやれと首を振った。
「ふむ。 ではウィルさん、快復しだいイストエイジアへと向かいましょうか」
「イストエイジアって小国って言ってた?」
「小国とはひどいですねえ、私の母国というのに」
「それはごめんなさい。 いや自分で言ってた気がするんだけど…・・・」
ウィルはアルフレドの国がイストエイジアであることに驚いたが、釈然としなかった。
その抗議は見事にスルーされ肩をおとす。
「アル、ちょうど良いですしジェイルにも話を聞いてみましょう」
メレネイアがはっと思い出したかのように提案した。
ふふんとアルフレドは鼻を鳴らす。
「もちろん、そのつもりですよ」
「ああ、旅の仲間だったっていう」
「そうです。昔はあんな適当な人間でしたがねえ。ふふふ」
今の情報は含み笑いでごまかされてしまった。
アルフレドは情報を隠しがちだとは思ったが、悪い方面には出ていないので、ウィルは深く追求することはやめておいた。
「むう、ウィル兄が私より冒険してる」
自分の知らない話が多く出てきて、ニーアはただの嫉妬か、兄と共有できなかった悔しさからかむくれてみせる。
それに対しよしよしとレインシエルが頭をなでていた。
「君らはどういうご関係で」
ウィルは一言だけつぶやいた。
「それはそうと今はミリアンとアストレムリとの国境近くです。
ウィルさんの快復を優先しますが、仮にも戦時中です。いつ巻き込まれるかわかりません。
なるべく早く復活してくださいね」
メレネイアの最後の言葉に言いようのない圧力を感じた。
ウィルの快復後、計画としてはミリアンから南東のイストエイジアへの入国を最優先する。
入国はイストエイジア国境付近の港町『イリイエ』から船で渡り海路からイストエイジア首都方面へ向かう。
ミリアンとイストエイジアの国境線にはアトラ川と言われる大きな川によって隔てられ、
船で渡るか、迂回してアトラ国境橋を渡ることが入国の手段だった。
アルフレドによるとミリアンとイストエイジアは同盟を結んでいる友好国のためそこに関しては問題ないとのことだった。




