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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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195話 光と闇

 戦いの叫びはそこには届いていなかった。だが、ライアンは感覚的に肌で感じていた。


「おい、どうやら始まったみたいだぜ。早くしねえと間に合わねえぞ」


 ライアンは様々な装置が並ぶ暗がりの巨大な空間にいた。装置からは駆動を知らせるかのように様々なランプが点灯しており、それらは全て何重にもなった管を通して一カ所に向かっていた。ライアンは蒼光に目をこらしながら、その時を待った。一見、繭のようにも見える液体に満たされた巨大な容器の中で赤子のように丸まった、彼の目覚めを。



 蒼と紅の衝突にはまるで邪魔をされまいと、障害が発生していた。援護のためレインシエル、ダーナス、オルキスがウィルの元へと駆け寄る前に、また変異体が出現を始めていた。それらはウィルとニーア、ナルガとセラには見向きもせず、守護者のごとくレインシエル達を阻んだ。


「なんなのこいつら、まるでーー」


「邪魔者は私たちとでも言いたげだな」


「でも、なんで……?」


 オルキスは爆撃を続けながら、離れたところで戦う彼らを悔しげに見つめた。彼らの眼中には既に他は見えていないようで、けたたましいほどの金属音が鳴り響くだけだった。

 傷は互いにおっているものの形勢が傾くほどではなく、持久戦と運だけがその場を決定づけていた。ニーアとセラの途切れることのない唄のせめぎ合いも不協和音にはほど遠く、まるで一つの唄のように混ざり合っていた。


「……なぜ笑う」


 間隙を縫いながらナルガはウィルに言葉を投げる。それでも手は抜くことはなかった。


「お前もな!」


 ウィルの一撃、ナルガの体が多少浮く。追撃がナルガを襲うが冷静に受け流す。


「そうか」


 ナルガは否定しなかった。そもそもこの会話ですら口を開いての手段かすら定かではない、剣を交える度に言葉を交わしているような感覚すら互いにあった。


「不思議な話、楽しくなってきたってのが近いかもな!」


 ウィルの剣とナルガの剣が甲高く鳴る。互いの剣翼を操りながら死角を的確に突き、そして回避する。


「ふ、楽しいか。そんな感情が俺にもあったとはな」


 ナルガはそれを受け入れる。さらに動きのキレが増す。ウィルの剣を弾ききらず滑らすように突き出す。ウィルは首をよじり、剣は頬をかすめる。


「まだまだ」


 ウィルも退くことはなくさらに動きを早める。重い連撃にナルガも即座に対応する。蒼と紅の火花が散る。それらが消えることなく、大きく輝き始めていることなど当人達の気にするところではなかった。

 唄はそれに呼応するように変遷していく。ニーアにもセラにもそれが分かっていながらもそれに抗うことはなく、導かれるようにそれを紡いでいく。ニーアを通して蒼の粒子が、セラを通して紅の粒子が空間を満たしていく、それが変異し、色も変調していく。

 それがよく認識できるのはむしろ変異体と戦っているレインシエル達だった。倒しても倒してもわき出てくる変異体に辟易しながら彼らの様子を伺える分には慣れ始めていた。


「どういうこと、あれって」


 レインシエルが思わず足が止まったところでダーナスが目の前の変異体を屠る。オルキスは爆撃を足止めに切り替えほとんど半自動的にクマミーを錬成するまでになっていた。


「白と黒? というよりもーー」


「光と闇、でしょうか」


 オルキスがそれに何か閃きかけた時、もう一人、それに答える者がいた。


「だいせーかーい!」


 どこからともなく緊張感のかけらもない口調で現れたのはアリスニアだった。


「うわっ、出た」


 突然の乱入者にレインシエルは驚く。


「あらら、そんな幽霊みたいに……まあそれも、おっと」


 攻撃が止まったところで変異体がレインシエル達に拳を振り上げていた。アリスニアが手を翳すと、手のひらに瞬時に構築された術式から光が穿たれ変異体を消滅させた。アリスニアは満足げに手を握ったり開いたりを繰り返し満足げに頷いた。


「油断大敵だよ」


「誰のせいなのよ……」


 レインシエルは助けられた事実もあり強くは言えなかったが、ここに来た理由があるのだと考え、言葉を待った。それを邪魔するようにさらに変異体が増える。


「ある程度は干渉できそうね」


 そう呟くとアリスニアは再び、術式を展開しいくつもの光の槍を宙に出現させ近づいてきた変異体を次々と串刺しにして消滅させていく。


「これでしばらくは大丈夫かね」


唖然とするダーナス達に軽い足取りでアリスニアは近づく。


「残念ながら彼らには干渉できないよ。できてもしないしね」


 アリスニアの眼差しに促されるようにその視線を追う。先ほどよりも光と闇が濃く彼らを取り巻く空間を満たしていた。


「あれは楔が目覚めるための粒子であり、因子であり、光と闇は混合することはないが共存する存在。臨界点を越えれば二人は目覚めて、そして輪廻の樹が顕現する」

 

「え、は?」


 唐突に難しい話をしたことでレインシエルの思考は一切それらを読み解くことはできず、呆けた。ダーナスも同じでむしろ妙な言い回しにいらついていた。オルキスだけが頭を悩ませながら考え込んでいた。


「つまり、ウィルさん達は楔が目覚めるきっかけ、私たちで言う媒体のような?」


「さすが、オルティの娘だね。いい線いってる」


「それはウィルとニーアは知らないわけ?」


 レインシエルの顔には隠すことなく不満が現れていた。


「そうだね。ニーアなら少し理解しているかもしれないけど、ううん、だとしてももう止められない」


「見守るしかないと?」


 ようやくダーナスが口を開いた。今なら駆け寄ることもできるだろうが、それが彼らの邪魔にしかならないし、どうにかなるような戦いではないことは確信できていた。


「そうだね。わたしにもどうすることもできない。レイ、何か聞きたげだね?」


「どうして、ウィルとニーアが光じゃなくて闇なの?」


 オルキスはその言葉を確認するようにニーアの位置を確かめた。確かに闇の粒子はニーア側に満たされ、逆にセラ側には光が満たされている。


「光が善、闇が悪とかじゃないんだよ。正確にいうなら正と負、どちらかが正になれば一方は負になる。それを決めるのは人間じゃない、世界だよ」


「答える気あったのそれ………後、もう一つ」


 レインシエルはため息を大きく一つはいたあと、もう一度、アリスニアを見つめた。


「どうぞ?」


 まるで何を聞かれるのか分かっているように彼女は余裕そうに微笑んだ。


「アリスニア、あなたは、味方? それとも……敵?」


 その微笑みは冷笑かもしれない。

「……味方だよ。信じて欲しい」

 少しの間がレインシエルにとっては疑わしいものだったが、信じて欲しいという言葉の重みは素直に心に入ってきた。


「わかった」


 それだけの了承を返し、ウィル達の行く末を見守った。


「ごめんね」


 アリスニアはレインシエルの視線の先にウィルがいることを見て、小さく呟いた。

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