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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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194話 舞台

 静寂。カミュエルが展開した術式は破られたのか消え去っており、一同は何が起きたか理解できなかった。


「……なんともありませんが」


 ケインが体を確かめる。外傷どころか何も攻撃を食らったという認識すらなかった。


「はっ、見かけ倒しってオチか? 失敗ってのは敵ながら笑えるぜ」


 ジェイルが軽口をたたく。それぞれが同じ状況で何も変化がないように思えた。だが、ガ―ライルは歪んだ口をもとに戻さない。それが傲慢か余裕か、もしくは虚栄心か、それらを判断する前に、ガーライルは腕を振り上げる。今度は複合術式などではなく今までの黒が生成される。強化されているわけでもなさそうだった。


「なんだ、やっぱり失敗か。ティア行くぞ」


 ジェイルの合図でティアが続く。アルフレドはそれを冷静に観察し、ガーライルの表情から推測を重ねていく。それが余裕であることに気づいた時には既にジェイルとティアは敵に肉薄していた。


「……いけない! 離れてください!!」


「そろそろか」


 ガーライルがそう呟いたのはジェイルとティアの武器を眺めていた時だった。黒弾をかわし再び防壁術式ごと殴りつけるところだった。ジェイルはアルフレドの警告に反応し踏みとどまるところだったが、ティアは聞こえていないのかそのまま突撃していく。


「はあ!!」


 防壁にティアが槍を突き刺す。砕ける音が響く。ティアは攻撃に成功したとその瞬間ばかりは思った。だが、手応えの違いに気づき、自らの切っ先を見て目を見開く。


「うそ……」


 目の前の光景は想像とは逆だった。砕けたのは防壁ではなくティアの槍そのものだった。切っ先から順に光の粒子へと霧散していく光景を、ただ見ているしかなかった。そして目の前にいつの間にか射出された黒があることにさえ気づくのが遅れた。


「ティア!!」


 ジェイルの叫びと同時にティアの体は自分の意志を無視して無理矢理引き下げられる。ぎりぎりのところでジェイルがティアを抱き抱えかばうようにして引き込んだのだ。間一髪といったところか、攻撃に失敗したという簡単な結果だけを頭に残し、ティアは吹き出た汗を拭う。


「陛下、すみません。助かりました……」


「まったく……また嫌な役だぜ、こいつは……」


「え……」


 ジェイルの軽口にはいつもと違い力がない。そして見たくないものが見える。彼の右肩から下が消失し黒ずんでいることに。


「陛下……! そんな!」


 何が助かったなのだ、とティアは自分を責める。ジェイルに黒が直撃していたのだ。かつての光景がフラッシュバックする。姉が自分をかばった景色が蘇り思考が停止する。


「あ、あ……」


 絶好の機会を逃すわけもなく、確実に止めを指すため黒剣を持ったミュトスが既に目の前に立ち剣を振り上げ、そして躊躇無く振り下ろした。それを他人事のように眺めるティアに止める手だてがあるわけもなく呆然とその終わりを待った。

 その間に誰かが割って入る。金属同士の衝突音が響く。


「ぐっ……! なめるんじゃないわよ!」


 その声の主はアスハだった。鮮血に染まっていた刀は瞬時に霧散し銀色の刀身が露わになる。敵の剣を押し返し、仰け反った腹に間髪入れず一閃。ミュトスは剣を落とし沈黙する。その血に染まるはずの鮮花血刀に変化はなにもなくただ血糊がついただけだった。


「やっぱりだめか……ティア! ぼーっとしない! そこの王様と下がりなさい!」


 名前を呼ばれたことに正気に戻ったティアはジェイルを引きずっていく。途中でメレネイアも加わり後ろに下がりきる。


「ティア無事ですか!?」


 メレネイアが声を掛ける。ティアの身だけを心配したのは、ジェイルの状況を目の前にして把握したからだ。問題はティアが憔悴していることだった。


「ごめんなさい、ごめんなさい。わたしのせいで陛下が……」

 

 いつもの脳天気さはなく、大粒の涙をこぼしながらジェイルにひたすら謝る。


「ティア! ジェイルなら心配いりません。こちらにはエリクサーがあります。再生はミディエラじゃないと厳しいですが、黒の解除と止血くらいは……まったく、よりにもよって腕を失うなんて」


「はは、面目ねえ。ティア、てめえは悪くねえ。ただ悪いと思うのは勝手だが、そう思うならちゃんと責務を果たせ。命令だ」


 ジェイルは苦痛に顔を歪めながらもティアに眼差しを向ける。ティアは溢れ出た涙を精一杯拭い、必死に止めた。


「……はい! 少しナーバスになってました! 絶対死なないでくださいね、夢見が悪いし王妃様も怖いし」


 いつもの軽さがティアに戻るのが分かる。ジェイルは安心するとメレネイアに目を向ける。


「メル、頼むわ……まじで意識飛ぶ」


「わかってます」


 メレネイアはエリクサーを取り出し半分をジェイル飲ませ、もう半分を失った右肩にかける。ジェイルの顔が幾分安らぎ、右肩の黒は解除され、傷口があっという間に塞がった。


「どうやら悪運はまだつきないようで何よりですね」


 アルフレドが軽口を叩く。


「そういうこった。で、どう見る」


「あの複合術式は想像以上に厄介のようです。彼ら以外のマナの使用を禁じる。いえ、消失させるというところでしょう。カミュエルさんの魔法術式もだめですし、私の銃にいたっては撃った瞬間に消えますので、それはそれで使いようはありますが。いかんせん、一旦引く、というのが当然なのでしょうが、そうも時間がありません。回復次第、これで戦ってください」


 アルフレドは剣を渡す。それは敵の黒の剣だった。見れば既にメレネイアもそれを握っていた。不可視の力場が既に使えないとわかったようだ。黒いグローブが皮肉にも黒の剣に合っていた。ジェイルはそれを口には出さず、無言で受け取った。


「片腕ないぶん、かばう必要もねえわな。アルはどうすんだ」


「どうするもなにも十年ぶりかの剣で行きますよ」


「むしろそっちのほうが厄介かもな、元々本職だってのにバランス考えやがってよ」


 アルフレドの肩を借り、ジェイルは起きあがる。既にメレネイアはアスハの援護に入っている。カミュエルは自らの杖を鈍器に見立てていたが、明らかに慣れていないようで、彼女の救援に向かうことに決める。


「話し合いは終わったか? その剣はくれてやる。ここからがようやく本番だからな」


 ガーライルは口元を抑え戻した後、自らも前にでる。抜刀した両手には黒の剣が二振り握られていた。


「……ジェイル、彼とは私がやります。ティアさんも他の援護をお願いします」


「わかった。いつまでももたねえぞ」


 ジェイルは彼の意図を汲み、ティアと共にカミュエルの救援へと走った。ガーライルはアルフレドのみを視界に入れるように、ジェイル達を素通りさせた。アルフレドとガーライルは向き合う。アルフレドは懐に魔銃をしまい込み、剣を拾った。ガーライルと同じく二本の剣を構える。


「あなたはいつもわたしの良きライバルでしたが、あなたはそうではなかったようですね」


「この時を待っていた。この俺を見下し続けたお前に、お前と同じ剣で今こそ下してやる」


「いいでしょう。これで終わらせましょう」


 互いにゆっくりと剣を構える。左腕を前にした半身の体勢。左に握った剣は地に向けられ、右は天を向けた構え。それは互いにまったく同じ構えだった。アルフレドは微かに眉を動かす。


「なるほど、そういうことですか。そこまでとは……」


 小さく呟いた後悔を込めた言葉はガーライルには届かず、にらみ合いはティアが弾き飛ばした剣が両者の間に突き刺さったのを合図に踏み込みへと変遷した。

 




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