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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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193話 ミュトス

 視界と感覚が戻る。まず最初に視界に入ったのは広い円形の空間だということ、壁は一面、外が見えており空中庭園という言葉がアルフレドの頭に浮かんだ。そして前方奥に並ぶ、白装束の集団、そこから一瞬の輝きを垣間見た後、すぐに散開を命じる。ぎりぎりのところで元いた場所に黒の炎が巻き上がり、まとわりつく熱気が押し寄せた。


「ふん、やはり一筋縄ではいかんな……」


 全員が無事であることに多少の苛立ちを浮かべながら白装束達の真ん中で腕を組む男。


「やはりあなたですか。ずいぶんな歓迎ですね。ガーライル」


 アルフレドはアーティファクトの銃を取り出し既に魔石の充填を終えていた。他もまた武器を構え戦闘に備える。


「貴様相手に口上を述べることは、隙を与えるも同義だからな。これでも認めてやっているのだ」


「褒め言葉として受け止めましょう。かつて夢を語った仲間ですからね」


 アルフレドの言葉にガーライルが苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。


「何が仲間だ。我らミュトスの裏切り者が。今更、仲間などと。アルフレド、メレネイア、貴様らはそこの奴らと共に消し去ってくれる。この先に進むことは諦めるのだ。お前たちにはあるのは死だけだ!」


 ガーライルは右腕を伸ばし合図を送る。その瞬間、並んだミュトスの集団が一斉に杖を掲げる。黒い輝きが走る。


「あれはマナを無効化します! 回避してください! エリクサーにも限度も数の限りがあります!」


 瞬時にアルフレドは指示を飛ばす。一同はすぐに回避へと動く。黒弾が床に直撃するものの皆回避に成功する。が、すぐに次弾が追撃する。ミュトスは列となりタイミングを別にして間が空かないように連続射出を実現していた。それでも間隙を縫ってアルフレドは銃を構え魔弾を射出。しかし防衛役の一団が防壁を張り、それに着弾する。さらに連続して攻撃。その間、その列からの攻撃は止んだ。


「やはり……、メル、カミュエルさん、できるようなら私に続いて攻撃を! 彼らの魔砲は敵味方関係なくマナを無効化すると踏みました。防壁を張っている間、攻撃は来ません! 他の皆さんは直接攻撃を!」


「任された!」


 ジェイルがいち早く動く。この場合、背後からのアルフレド達の攻撃をも避ける必要があった。彼らに切り替えのタイミングを与えれば、近距離から攻撃を食らってしまう。カミュエルはジェイルの動きを見て魔法術式の展開を待機する。ここはアルフレドとメレネイアの連携の経験を優先した。

 ジェイルは黒弾を避けつつ、たどり着き、今度は背後からの味方の攻撃を察知するかのように躱し、防壁を展開しているミュトスの術士に肉薄する。


「案内、ご苦労さん! おらあ!!」


 右腕を振りかぶり手甲が振り下ろされる。防壁を殴りつける。重い衝撃音が轟く、が未だ防壁は健在だだった。それでもできたひびも修復されていく。ミュトスの一員が外套の下でほくそ笑む。


「かってえ……!」


「どいて、陛下!!」


「うおわああ!?」


 なんとか屈んだジェイルの頭上を槍が掠めていく。おそらく髪の何本かは犠牲になっただろう。ジェイルの背後から現れたティアが槍の切っ先を突き立てる。


「連撃無用! 渾身の一撃こそ我が究極の技! おらおら、砕けろおおおお!!」


 どう見ても何度も突き立てているのだが、本人にとってはそれぞれが渾身の一撃なのだろう。速さだけでみれば合わせて一撃にも見えなくはない。ひびの一点に集中した一撃の連続は切っ先を次第に深く差していき、貫通した。その勢いのまま防壁役の胸に突き刺さり、遅れて一部の防壁は砕け散った。


「お前、性格変わりすぎだろうが!!」


「ええ? なんのことですか?」


 文句を言いながらも崩れた一角に踏み込み、ミュトスを蹴散らす。


「放て」


 静かに言い放たれた命令はガーライルだった。左翼が崩れ混戦状態の中、そこに黒弾が放たれる。


「ばかな!」


 アルフレドはその残酷さに叫んだ。黒が着弾しミュトスもろとも巻き込まれ黒い炎に焼かれる。消すことができない炎の中にジェイルとティアも姿が消える。だが上空からつまみあげられるようにして放り出される。寸でのところでメレネイアのグローブによる不可視の腕が炎が巻き上がる前に上からつかんだのだ。放ったのは炎が高く上がりマナが消される前に助けるためだった。


「なんとか……抜けましたね」


 神経を使う操作だったらしく、一旦の安堵を含め深呼吸した。案の定、遠隔操作されたマナは炎にふれた瞬間、感覚を失っていた。

 

「わりい、まじ助かった」


「調子に乗るのは危険すぎました……」


 それぞれメレネイアに目配せをして感謝を伝える。


「前列、抜刀、刺し違えても構わん。動きを止めろ。後列は順次、黒魔砲攻撃を続けろ。味方への被弾は問題ではない」


「すべて世界の秩序のために!」


 ミュトスの構成員達は揃って声を上げると、前列は黒色の剣を抜刀し、それぞれ向かってくる。


「こいつら本当に人間かよ」


 ジェイルが心底、嫌そうに彼らをにらむ。上の命令に黙って従う、ということが彼にとっては、彼の環境にとっては信じがたい光景だった。逡巡する様子がないということがその異常性を明らかにしていた。


「こちらもなりふり構ってはいられません。短期決戦です!」


 アルフレドが号令をかける。皆、すぐさま気持ちを切り替え攻撃行動に移る。


「接敵後、そこにとどまらず、常に移動してください。足を取られるともろとも魔弾が飛んできます!」


 動きを止めれば、敵味方関係なしに回復不能の黒魔砲が飛んでくる。エリクサーでのみ回復可能ではあるが限りがある。頻繁に回復を期待できるわけではなかった。極力被弾を防ぐ必要があった。

 抜き出た敵ミュトスが剣をメレネイアに振う。それを不可視の力場で防ぐ、はずだった。


「これは……!」

 

 力場は紙きれのように剣によって分断され、寸でのところでもう一方の力場でミュトスを殴り飛ばす。


「これは、魔砲だけじゃありません! あの剣にも黒の術式が展開されています!」


 メレネイアは一度後方に下がり、皆に新たな危険を伝える。ミュトスの剣は漆黒に染まっており、刀身からは魔砲部隊と同じく術式が浮かんでいた。


「てことは受けるのは無理ってことか、少なくとも俺とティアの槍はマナの具現化によるものだ。ティア、ぜってえ直接受けんなよ!」


「面倒ですけど承知です!」


「なら、ここは私が! カミュ、援護は任せたわ!」


「言われなくてもわかってる……!」


 アスハが前に躍り出る。流水のような剣技でミュトスを切り伏せる。返り血が彼女の鮮花血刀を染め上げる。咲き乱れるように切り伏せる度に花が咲いていく。切り伏せていく中、ミュトスは引くこともなくアスハに切りかかる。さすがに受け止めざるを得ず、刀の腹で受ける。その瞬間、鮮花血刀たる朱は瞬時に蒸発するように霧散し元の鋼の色へと姿を戻した。


「ちっ、興が冷めるわ、こんなの」


 予想していたことだったが、朱が抜けたことに落胆を隠せず、怒りを込めてそのミュトスを弾き、その胴体をカミュエルの魔法術式による風の一撃が切り裂いた。


「裏切りの騎士共か、王だけでなく世界をも裏切るか」


 押されているにも関わらず、ガ―ライルの口調はひどく冷めたものだった。焦りも不安もなくまるで予定通りともいうかのように整然としている。


「卿、いつでも号令を」


 傍らのミュトスの一員が静かに伝える。ここでガ―ライルは初めて口を歪ませる。それは決して笑顔には見えないほどに隠しきれず出たものだった。


「前列、死しても奴らの足を止めろ!」


 何か仕掛てくる。誰の目にも明らかだった。それでもガ―ライルさえ倒せばとも考えるが、前列のミュトスは突撃を仕掛け、切り伏せたとしても、胴体だけになっても取りつくように皆の進行を妨げた。


「まさか……!」


 アルフレドはかつての記憶から察した。すぐにガ―ライルに向け魔石を充填し銃を放つ。だが、当然のように防壁によって霧散する。


「愚かな。歩みを止めた貴様の矮小な弾など当たらん」


「皆、一旦引いてください! カミュエルさん! ありったけの防護術式を!」


 一同、一斉に動き、足止めを食らっているアスハはメレネイアによって引き抜かれる。カミュエルは疑問を投げることはなかった。すぐさま持てる限りの術式を何重にも展開する。そして驚きで目を見開く。


「あれは、そんな……」


 ミュトスの術士の前にいくつもの術式が展開されていた。それは互いに組み合わさるように次々と組成を変え展開し続けていく。重ねて展開しているカミュエルの術式とは根本から違うものだった。


「複合魔法術式”マナ・リダレクション”」


 黒き光が放出される。空間を覆い尽くすかのように。やがてそれが晴れた時、静寂だけが空間に満ちた。

 


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