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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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191話 聖殿再び

 耳鳴りと同時に意識を取り戻した。最後に覚えているのはルイノルドの後ろ姿だ。皆、一様に頭を押さえ、よろめきながら立ち上がった。白む景色が薄らぎ、耳鳴りもなくなった頃、ここが先ほどまでとはまったく違う景色だとようやく理解した。


「ここは……」


 メレネイアが辺りを見渡す。純白の壁面に施された壁画が広間とみられる天井を覆っていた。それは塔を表し、奥へと続いていた。


「どうなってんだ一体?」


ジェイルは少し酔ったのか頭を抑え立ち上がる。


「聖殿……」


 アルフレドは察した。以前にも訪れたエファンジュリア神託祭でウィルが立ち回った聖殿。


「エヴィヒカイト……?」


 ティアが呟く。先代の神託祭の際に訪れた子供のころの記憶が蘇る。それとまったく変わっていなかった。

奥の景色以外は。


「扉が開いてる!」


 ティアは天井から視線を奥へと這わせると異常さに気づき声を上げる。その大声の反響が戻り頭が揺らされる。エファンジュリアがその時に現れる巨大な扉は既に開け放たれており、その先に続く通路は誘うかのように足元の高さにだけ明かりが仄かに続いていた。


「一体何が……ルイは!?」


 アルフレドはこの事態を把握しているだろうルイノルドを探す。だがその姿は見えない。嫌な想像が駆け巡るがその可能性を否定しながら、もう一人、知っているだろう人物の名を叫ぶ。


「ライアンは!?」


「―-彼はもういませんよ」


 それを否定したのは扉から出てきたケインだった。


「まだ奥までいったわけじゃありませんが、特に罠というわけではなさそうです」


 おそらく先に目を覚ましたのだろう。ケインは既に情報収集に動いていたようだった。


「そうですか……。ライアンがもういないとは?」


 もう、ということはここにはいたことを意味する。その問いにケインは所在なさげに首を横に振る。


「行くところがあるって言って早々に奥に行きましたよ。ついてこうにもまだ回復しきれてなかったのでこちらも先ほど動けたってだけで、それ以外は何も。彼は僕を助けてくれた恩人ですし、裏切ったとも思えませんが」


 アルフレドは内心、怒りが湧いた。ライアンが勝手に動いたことではなく、ルイノルドとライアンが明らかに自分の知らない計画を実行していることが分かったからだ。後は任せる、というルイノルドの言葉が何を意味するのか、少なくともその後に発した、しばらく頼む、という言葉を鵜呑みにするのならば、彼は生きていることを示唆している。アルフレドはその不確実な情報と知らない計画に巻き込まれていることに怒りと悲しみを生んでいた。彼自身は普段は計画を立案し実行する立場であるが故に。


「アル……」


 メレネイアは拳を握りしめるアルフレドに気が付いていた。そして罪悪感にもかられる。何故なら彼女もまた全てではないにしても、この計画が予定通りだということは知っていたからだ。それを伝えたい、安心させたい。だがそれは全ての崩壊へつながることを知っていて、声をかけることはできなかった。


「あの人はいつもそうなの。一見ただの戦闘狂だけど、本当は誰かを守ることが信条なのよ。ユーフェリアン・ガードに残ったのだってね。まあそれは関係のない話だけど……とにかく、信じてあげてってこと」


 アスハは壁に背をついて座りながらアルフレドを見つめた。アルフレドは言葉の重みを感じ、拳がほどける。


「信じるか……。そうですね。信じてみましょう。ルイはともかくとしてライアンとは昔、やりあった仲ですし」


「ま、あいつ悪いやつには見えねえし、止まってるわけにもいかねえだろうよ」


ジェイルがアルフレドの肩を軽く叩く。アルフレドはつきものが落ちたように表情が柔らかくなる。次、会ったら殴ればいい。今はそれで勘弁してやろうと、いちいち考えるのはやめ、目の前のやるべきことに思考を切り替える。


「アスハがそれを覚えてたのって意外なの」


 ぽつりと呟いたカミュエルにアスハは頬を赤らめる。にたーっとしたカミュエルにアスハは彼女の頬をつかみ引き延ばした。


「その顔、やめなさいよ!」


「ひひゃい、ひひゃい」


 そのやり取りもほどなくして皆の調子が戻ったところで、一同は扉の前に集結する。


「では、行きましょう。内部構造は以前と同じなら把握しています。ライアンがここを行ったのならば、そのうち出会うでしょう」


 アルフレドを先頭にして歩き始める。ここに飛ばされたことは偶然ではなく必然で、やるべきことがあるのだと言い聞かせて、先の見えない通路を歩んでいく。


 どれくらい歩いたか、背後には未だ開け放たれいる扉からの光が小さく見えるほどで、それもずいぶん前からだった。


「アル、これは」


 メレネイアが一度、皆を静止させる。同じことに気づいたようでアルフレドは手を顎につけ考えを巡らす。


「やはり、不法侵入者への対策術式がされているようですね。認識阻害の一種だと思いますが」


 壁に手を添わせ違和感の元を探る。先に行ったはずのライアンの軌跡はなくしょっぱなで出鼻をくじかれた面持ちだった。


「アスハさん、カミュエルさん、何か知ってますか」


「知っている、と言いたいのはもちろんだけど、ね。ミュトスなら別だろうけど、私達であってもここまで来ることはないから」


「右に同じなの」


 ふむ。とルイノルドは考え込む。いっそのこと、と考えがつく前に、既にそれを実行しようとする輩がいた。


「通路がなければ作るまで、でしょう!!」


 ティアは既に槍を顕現させていた。マナを纏わせた槍の一撃、誰も止めることは間に合わず、適当な壁を切り付けた。だが、弾かれ跳ね返ってきた衝撃が槍を伝い両手に響き、ティアは全身を震わせた。


「うぎゃあああ……」


「さすがはヨネアさんに知性をすべて持ってかれた妹だけありますね。やることが考えなさすぎる」


 ケインが冷めた目でうずくまるティアを見下ろす。


「くっううう……すっごい馬鹿にされてる気がする」


「気がしているのは、ティアだけですがね」


 さらなる追撃は聞こえていないようでティアはそのままうずくまっていた。


「いや、あながち不正解というわけではなさそうです」


 アルフレドはティアが切り付けた壁を見つめていた。ティアが残した痕にマナの輝きが残っており、そこに向けて紫の光が壁から這っていた。まるで探し求めるかのようにしてやがてティアのマナとつながると光が増し粒子が形を作る。


『あー、あー。テスト、テスト。聞こえる?』


 半透明に形作ったそれは、人の形をしていた。


「アリスニア!?」


 メレネイアがそれの正体に気づく、ノイズが走り不安定ではあるもののそれがアリスニアであることは皆、理解した。アスハとカミュエルに至っては彼女だと分かった瞬間に膝を付いた。


「どうやらちゃんと捕まられたみたい。アスハ、カミュエル、そんなに畏まらないで。適当が一番だよー」


 二人はイメージと違ったのか拍子抜けしたのか、戸惑いながら立ち上がる。


「ふふ、カミュエルはあんなに小っちゃかったのにおっきくなったね。アスハはうらやましいほどね……」


 なめまわすかのようにアスハの体を下から上まで眺め、悔しそうに唇を噛む。


「覚えてくれていたのですか」


 アスハはそんなことにも気づかないほど感動していたようだった。カミュエルもぼーっとアリスニアの姿に見惚れていた。


「もちろん! 巡礼の時は案内ありがとうね。カミュエルも一緒に遊べて楽しかったよ」


「は、はい、光栄です」


 普段の言葉使いはなく涙をため一礼する。


「カミュもなの!」


 カミュエルもまた一礼する。昔はカミュと自分で呼んでいたのか、その時に戻ったかのように子どもの笑顔を浮かべた。


「うんうん、さて、積もる話は後にして、と」


 アリスニアはひとしきり頷いたあと、表情を硬くする。


「たぶん、ティアがやってくれると思ったけど、想像通りで安心ね。アルは慎重すぎるから」


「余計なお世話ですよ。ティアのマナを辿ってきたというところですか」


 アルフレドは痛いところを突かれたが、言い返すほどの材料はなかった。


「ほら! わたし有能じゃないですか!」


 ティアが勝ち誇った表情でケインにしたり顔を向ける。


「いや、たまたまでしょ……」


 鬱陶しそうにケインはティアの死角に消える。


「うん、ティアならとりあえずぶっ壊そうとするだろうなって思ったから。それで皆の位置をトレースできた。とりあえず術式を解除するから」


 アリスニアはそう言うと壁に手を触れる。空間が歪み、硝子が割れるような音がした後、通路の先にもう一枚の扉が現れた。


「さあ、時間がないわ。既に収束が始まっているの」


「収束?」


 アルフレドは聞きなれない単語に眉を潜める。


「……詳しいことは合流できたら話すわ」


「合流? しかしあなたは……」


 アルフレドの疑問に答えることはなく、アリスニアは扉を開ける。開けた空間には何もなく、ただ中央の床に円形の術式とみられる紋様が描かれていた。


「一気に飛ばすから早く転移術式の上に乗って」


 有無を言わさず促されるままに全員、上に立つ。


「ルート権限。ユーザ、アリスニア。コード転送」


 アリスニアが宣言した後、術式が輝き、浮遊感が襲ったかと思うと視界が歪んだ。


「上で待ってる」


 その言葉をアルフレドはかみしめる前に重力が戻る。既にアリスニアの姿はなく、目の前の扉が開け放たれていた。どうやら既に転移は完了したようだった。釈然としない思いを抱えながらアルフレド達は扉を開け進むのだった。








 



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