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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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187話 不動

 入口に立つ、大男。身の丈ほどの大剣を肩に乗せ、ユーフェリアン・ガード、ライアン・L・ヴァルキスが場の雰囲気を壊した。


「む、ライアン、お前まで来たのか。つくづく信用に欠ける。仔細までは見通せぬか……。して、どういうことだ先ほどの言葉は」


 グレイはサーヴェを目で合図するとサーヴェはホログラムの範囲外に出たのか姿を消した。そして、改めてライアンを見据える。


「陛下、今の言葉が本当なら、見えるだろ? そのアークエアルスの高度ならな」


「なにを――」


「グレイ!!」


 画面外から呼びかけられたグレイは視線を移す。グレイはライアンの言葉通り、アークエアルスの艦内にいた。質感の違う椅子の背を握る手に力が入る。


「なんだ……これは……!」


 艦内の兵士、サーヴェ、グレイもモニターに映し出された光景に絶句する。


「なぜ民が武器を持っている……なぜ止まらない」


 おびただしい死が広がっていた。男、女、子供関わらず、撃たれ、積み重なるように倒れ、またその上をこの城に向かって進行する群れ、それを迎撃しているのは、もちろんリーベメタリカの軍勢だが、彼らでさえ遠慮し魔砲の攻撃を避け、拘束しようと直接組み伏せようとしていた。ただ、それでも止まらない民衆を、死で止めるしかない、という状況だった。


「マイクを切れ」


 サーヴェが小声で兵士に伝える。


「グレイ……こいつは」


「……オルリの仕業だろう。どういうからくりかは知らんが」


 サーヴェは少し驚いた。意に反した状況にも関わらずグレイは努めて冷静だったのだ。だがその身の内に宿る怒りにサーヴェだけは読み取った。


「私の矜持すら奪うつもりか……、とんだ道化だったというわけだ」


「グレイ、もう俺達は……」


 それは止めるための呼びかけではなかった。グレイは少し俯いた後、ゆっくりと顔を上げた。全てを受け入れた男の顔、同時に解き放たれた顔を、彼はしていた。サーヴェは悟り軽く息を吐いた後、マイクを入れさせた。


「ふむ、素晴らしいではないか、貴様ら賊から国を守ろうと民衆が立ち上がっている。我が国の教育のたまものだな。なあ、ライアン、何を驚いている。意外か? 違うな、全ては予定通りだ。民が作った時間を……だからこそ負の遺産は消し去ってくれよう。新たな国造りの一歩としてな」


 グレイの声はまったく震えていない。覇気すら纏う力強い口調にライアンはディエバの姿を重ねた。


「それでは、せいぜい最後の責務を果たすといい。さらばだ、……英雄よ」


 グレイ達の映像は途切れ、誰もいない玉座が残った。一拍おいてアルフレドと目線を交わすとメレネイアがグローブにマナを込める。状況がなんであれまずはジェイルの保護が優先だった。


「ふふ」


 不敵な笑みを浮かべたアスハは力場が生じるよりも早く刀の切っ先をジェイルの喉元に添える。アスハを弾き飛ばすための力場は寸前で消滅した。


「くっ、あなた方を捨て駒にした彼のためにまだ戦うつもりですか?」


 グローブへのマナ供給を中断したメレネイアはジェイルの崩れ落ちた膝元に広がりつつある血だまりに焦燥を募らせる。ジェイルは既に声を出す気力すら失いつつあるのか、肩がかすかに上下するだけでうなだれたままだった。


「ま、そうなるわよねえ。それでもグレイ様の命令に従うの。そうするだけの理由と恩義があるから」


 アスハの表情は多少堅いものの、それはグレイに捨て駒にされたショックからではなく、覚悟を決めたからに他ならないものだった。アスハがそれ以上動くことはなさそうで、これから何が起きるのかを察した上での時間稼ぎを選択していることは明白だった。


「さて、どうする? 身の上話をしてもいいけど、ねえ」


「カミュ、お前もか」


 ライアンは大剣を肩に乗せ、静観しているカミュエルに問いかける。


「聞くだけ無駄ってことです。あの時からグレイ様に命を捧げると誓っているのですから」


 カミュエルの表情は変わらなかった。既に彼女の杖にはマナが込められ、下手な動きをすれば先ほどルイノルドを打ち砕くほどの魔砲、いや独自の魔法術式とされる一撃が敵を捉えるのは予想できた。


「ま、そうだろうな。理由を知っているだけ説得する気にもならねえな……」


 ライアンは息と共に笑った。満足げでもあり少し悲しそうに笑った。そして大剣をアスハに向けた。剣先にまで迸る闘気はアスハとカミュエルに向けられたものだった。


「こちらに付くのですか、あなたは」


 アルフレドは銃を玉座のそばにいるカミュエルに向けつつ、ライアンの行動の意味を確認する。


「ま、今はそういうこった。別に寝返るわけじゃねえ。元々ディエバ様に仕えてた身だからな、俺にも譲れねえもんがあんだよ。それにここで死んだらあの小僧との再戦も果たせそうにねえからな」


 思わずアルフレドはライアンの顔を見る。嘘ではなく大真面目に聞こえたからだ。思わず失笑する。


「わかりました。再戦の件は私から言っておきましょう。さて、問題はどう動くかですが」


 ティアの位置取りはアスハの背後にいるが、一手を入れるには隙がまったくなく、当然、俯瞰する位置にいるカミュエルによる注視がされている状況で動くきっかけがなかった。時間をかければアスハ達の勝利になる。アルフレドの脳内で繰り返される試行が成功するにはどれも一手が足りなかった。


「ルイ、あなたが動けないとパターンが足りません。どうです?」


 剣を支えに跪いたままのルイノルドはアルフレドの声が聞こえていないのか、不気味に静止したままだった。いや、ぶつぶつと聞き取りづらい言葉が仮面の奥から微かに聞こえてきていた。


「この……はなかっ……。よし……これな……ぼうが、そろそろ……こう。みんな、時間が……」


「何を言って……?」


 アルフレドは恐怖を覚えた。いや、思い出したに近い。それはかつての災厄の際に目の当たりにした兵士たちの現実逃避の独り言に似ていたからだ。目の前の絶望に心がやられ幸せだった思い出に浸る心的障害。だがそれとも違うとも同時に感じた。剣の柄を握る手には力が込められているように見えた。だからこそ戦慄した。


「少しだけ借りるよ……」



 水鏡の空間に佇む円卓。その空間は静かなものだった。何かとうるさいユグドラウスも、ノグニスもただ黙っていた。帰ってきたリヴァイアスもまた静かに時を待つようにして座っていた。


「ヤト、少しだけ離れる」


 口を開いたのはこの仲間内ではゼフォルと呼ばれる楔の一柱フォルテだった。手を組み佇んでいたヤト、ディアヴァロは瞑っていた瞼を開ける。


「良いだろう。だが時が来る前には戻ることだ。忘れるな、我らの願いを」


 言いすくめるかのごとく凄味を込めた声にフォルテは頷く。


「承知している。すぐ終わるだろう」


 フォルテは立ち上がり後ろに立つ柱に手を添えると紋章が浮かび上がり、やがて粒子となってフォルテの姿が消える。


「この新たな分枝はどっちの味方だろうね」


 ユグドラウスはフォルテが消えた後に、誰に聞かせるつもりもなく呟いた。彼らの望む時が近くなっていた。





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