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蒼眼の反逆者 〜ウィル〜  作者: そにお
第6章 電撃作戦
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183話 信頼が故に

 グレイは顔には出さなかったが驚いていた。このまま落ちるはずの蒼穹が向きを変え城に落ちるように向かってきたことに。


「多少のずれか、それとも……まあ良い。王ジェイルよ。せいぜいたどり着くことを祈ろう。カミュエルとアスハの部隊を向かわせろ。それで終わるなら良いし万が一突破されても問題はない」


「ユーフェリアン・ガードが二人か。ジルスは魔素変換炉だし、ライエルはあっちか」


「問題ないさ、王はまだ動くには早い」


 サーヴェとグレイはジェイルとは反して自らが動くことはなく、次の手の開始を淡々と進めていくだけだった。



「ぶっ飛んでるとこ悪いんだが、そろそろ出るぞ!」


 その声とようやく訪れた体の自由にウィルは顔を上げる。やっと市街地を抜けたのだ。まだ体は重いままだが窓から外を伺うことができた。


「おい、どうなってんだよ!」


 先ほど見ていた景色とは程遠く、帝都は炎上し、いつの間にか纏った障壁に数少ないリーベメタリカの船団、ましてや蒼穹が火を噴いて墜落しているではないか。敗北、その二文字が脳裏を過った。


「アドル、戻れ! 助けに行かな――」


「だめだ」


「見えてんだろ! あんな状況、ほっとけねえよ!」


「だめだと言っているだろ」


 ウィルの懇願を真っ向から拒否するアドルは振り向くこともなく、もう目前にせまったスフィアリヒトに目標を定めていた。


「ほら、よく聞け」


 アドルは操縦席のスイッチを切り替える、それはアドルがしていた耳あてから流れている音声を船内に切り替えるものだった。


『繰り返す! 我ら蒼穹は勝利をあきらめていない。蒼穹の鉄槌をもって城を落とす! 生きて勝利するために! 仲間たちよ! 己が使命を全うし忠義を尽くせ! 終わったら王に文句言い放題だ!!』


 それはおそらく蒼穹からの通信で、割り込んだ通信からは既に王への文句が響いていた。ウィルはそれを聞いて呆気にとられた。オルキスとニーアは笑ってしまい、ダーナスはため息をついていた。レインシエルは分かっていたのか目を閉じて落ち着いたままだった。


「と、いうわけだ。このまま戻れば彼らを信じていなかったことになる。そして彼らの信頼も裏切ることになるぞ」


 ジェイル達はまだあきらめていなかった。助けを求めることがないというのは、ウィル達を信頼して作戦を遂行しろということだった。ウィルは肩の力を抜いて席に戻った。


「行ってくれ」


「ありがとう。安心したよ」


 アドルは操縦桿を引き上昇する。一度上がりきりスフィアリヒトを下に見る。ゆっくりとエヴィヒカイトを回る速度に合わせタイミングを計る。


「それじゃ、いまさら言うが何が起こるかわからん! 一応捕まってろ!」


 それは誰も同じだったがニーアが口を開く。


「我らに感知するはずだってさ」


 言い方からディアヴァロだろう。いつも報告が遅いのがウィルは気にはなったが、今更なので文句は後にした。


「どうやらそうらしい……引き寄せられている」


 アドルはそうつぶやくと操縦桿から手を離す。自由になった操縦桿は傾き、スフィアリヒトに向かっていた。みるみるうちに黒とも白ともはっきりしない球体が近づき、やがて小型艇を雲海に入り込むように飲み込んだ。飲み込んだ後、半透明だった球体は透明度をなくし完全に殻に包まれるようにして閉じられた。


―――

衝撃、揺れる艦内、満身創痍な蒼穹はさらに追い打ちをかけるようにして自ら城へと突っ込んだ。ただ推力が足りず城の入口付近に滑るようにして突っ込んだため、城への損傷は期待通りなものではなかったが、すぐさま兵士たちが地上へ展開し、外周には残った船団が予定通りに展開を開始していた。


「ある意味ここで落ちてよかったかもしれません。艦体ダメージ自体はイージスのおかげでばらばらにならずに済みましたし、できるかわかりませんが緊急修理で抗ってみましょう」


 アルフレドは各員の報告を総合して報告する。既に船員達は汚れた服と血を滲ませた傷を無視して延命に努めていた。


「ああ、諦めるときは負けた後ってこった。そんじゃ、しばらく任せた諸君!」


「了、王のおごりですからね!」


 ジェイルは一瞬だけ嫌な顔をしたが、親指を上に立ててアルと共に管制室を後にした。返事をしなかったのは約束はしてないと言い訳するためだった。


―――

轟音が届いたのはもちろん城内に既に潜入しているルイノルド達も同じであった。


「やりかねないと思ったが、ここに突っ込んだら終わりだったぞ」


 通路の窓からのぞき見るとちょうど城内へ頭を突っ込んでいる蒼穹が見えた。


「たぶん、たまたまでしょうね……後先考えないから、アルもジェイルと根は似ていますからね」


 メレネイアは深くため息を吐いた。


「そうな、そうだったな」


 ルイノルドの言い直しには少なからず緊迫した状況で気づく者はメレネイア以外いなかった。城内に残った敵兵士達が応戦のために階下へ流れていく。


「逆に陽動になってどうすんだか、まあいい。このままグレイの元へ急ぐぞ!」


 一同頷き、一気に足を速める。ただ予定外の陽動は成功したようだが、それでも城を守る戦力としては乏しいように感じていた。ルイノルドは嫌な予感を確かめるようにして先を急いだ。





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